核不拡散ニュース No.0101 2008.10.08
<「日豪共同イニシアティブの核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」について>
9月25日、ニューヨークにおいて、麻生首相及びラッド豪首相は、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の委員が確定した旨発表した。
本委員会は、オーストラリアのラッド首相が2008年6月9日に行われた京都大学における演説の中で、エバンス豪元外相を共同議長とする核不拡散、核軍縮に関する委員会を設置することを提案し、日本の参加を求めたことに端を発するものである。7月9日に行われた日豪首脳会談において、福田首相は、日豪の共同イニシアティブとして本委員会に参加することを表明し、川口元外相を共同議長とすることを伝えた。
共同議長によるメディアリリースによれば、委員は、両共同議長、ペリー国防長官、ブルントランド・ノルウェー元首相、アラタス・インドネシア元外相など15名とされている。
本委員会は、2010年に予定されているNPT運用検討会議及びそれ以降を視野に、核不拡散・軍縮の重要性に関する認識を、政治的に高いレベルでの議論により、活性化させることを目的とし、核不拡散、核軍縮、原子力平和利用それぞれの課題を包括的に検討するアプローチをとるとしている。
スケジュールについては、計6回の会合の開催を経た上で、2010年1月までに報告書を公表することを想定しており、第1回目の会合は、10月19-21日、シドニーで開催される予定とされている。
日豪両国は、1990年代後半に、それぞれ、東京フォーラム(核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム:1999年7月に提言を採択)、キャンベラ委員会(核兵器の廃絶に関するキャンベラ委員会:1997年1月に提言を採択)、といった、各国の有識者をメンバーとする委員会を設置し、提言をまとめるなど、核軍縮、核不拡散分野において主導的な役割を果たしてきたが、提言の多くは実現に至っていない。今回、設置された、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が2010年のNPT運用検討会議の成功に向けてモメンタムを形成する役割を果たすことができるか、注目される。
(情報ソース)
- 外務省プレスリリース 平成20年9月26日
- 日豪共同イニシアティブの核不拡散・核軍縮に関する国際委員会
<インドとの原子力協力の動向>
インドとの原子力協力に関しては、実現に向けて大きな進展が見られたので、これまでの経緯も含め、その概要を報告する。(詳細は添付を参照)
【主な動き】
- 9月6日、原子力供給国グループ(NSG)は、ガイドラインが求める包括的保障措置適用に関し、インドを例外扱いすることをコンセンサス(全会一致)により承認
- インドの例外扱いに特別の条件をつけないclean exemptionでの結着となったわけだが、当初、clean exemptionに反対していた国は、妥協に応じた理由として、9月5日にインド外相が発出した声明(核実験の自発的モラトリアム継続の再確認など)を挙げている。
- ただし、インドの声明は従来のコミットメントの内容を超えるものではなく、実際には、米国が首脳レベルで反対派諸国に圧力をかけたことが功を奏したものと考えられる。
- 我が国政府は、大局的観点から、ギリギリの判断として、コンセンサスに加わったとしているが、マスコミは社説等で概ね批判的な論調を展開
- NSGの結果を受け、9月10日、ブッシュ大統領は、米印原子力協力協定案を米国議会に提出。議会提出後、30日を経ないで協定案を承認する特別立法が、9月26日、下院本会議、10月1日、上院本会議でそれぞれ可決。
- 本協定案の早期承認に慎重姿勢を示していたバーマン下院外交委員長が賛成したのは意外であるが、これは、ライス国務長官が同氏に対し「NSG会合において、NPT非加盟国に対する濃縮・再処理技術の移転禁止の合意を得ることに最優先で取り組む」ことを約束したことによるところが大きい。
- この約束は、インドに対する機微技術の移転を閉ざすものであり、今後のNSGの動きに注目していく必要がある。
- また、9月30日が、仏印両国は、原子力協力協定に署名。フランスはNSGの場で、インドに対するclean exemptionを強く主張したとされ、原子力ビジネスの思惑があると見られている。
【核不拡散上の評価】
- 米印原子力協力のメリットとして、インドの原子力施設を軍事用、民生用に分離することによる、インドの原子力活動の透明性の向上、保障措置の適用対象となる原子炉の割合の増加(設備容量ベースで従来の19%から65%に拡大)、デメリットとして、NSGガイドラインの例外を認めることによるNPT体制の弱体化、国産ウランに余裕ができることによるインドの核兵器能力の増強等が挙げられる。
- 今後、日印原子力協力協定の締結の可能性も含め、我が国自身のインドとの協力の検討が必要になると想定される。
【報告:政策調査室 山村】