核不拡散ニュース No.0091 2008.06.06
<米露原子力平和利用協力協定の動向について>
<米-トルコ原子力平和協力協定の発効>
米トルコ間原子力平和協力協定の米議会提出(2008年1月22日)については、<核不拡散ニュースNo.0082>でお伝えしたところであるが、6月2日、両国による外交書簡交換により、同協定は発効した。同協定の発効により、両国間における原子力の研究及び発電に関する技術、資材、設備等の移転が可能となる。
本協定の有効期間は15年間であり、当事国のいずれかが終了の決定を行わない限り、自動的に5年ずつ更新される。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】
<フランス-ヨルダン間の原子力協力協定の締結>
報道によれば、フランスとヨルダンは5月30日、原子力協力協定に署名した。同協定により、フランスはヨルダンに対して、発電や海水脱塩化のための原子炉の建設、原子力科学者の訓練、ウランの抽出に関する協力が可能とされる。
本協定履行のための議定書は、1か月以内に締結される予定の由。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】
<ベトナム動向:原子力法案が国会で可決>
6月3日、ベトナム国会は、同国の今後の原子力利用の大枠を示す原子力法案を可決した。報道によれば、ベトナム共産党の最高指導部が下した決定を追認するかたちで、同法案は圧倒的多数で可決された由。
ベトナムにおいては、「2020年までの原子力エネルギー開発戦略」(2006年1月国会承認)の下、2020年頃までに原子力発電を導入する計画が進められており、原子力法の成立は、このような原子力発電の導入に向けた取組における最重要課題として位置づけられていた。同法案は、2003年6月の運営委員会及び作業部会の設立から約5年を経て国会の可決に至ったことになるが、今後、国家主席による署名を経て、ベトナム初の原子力関連の法律として制定されることとなる。
原子力法成立前のベトナムの原子力関連の最高法規は、放射線安全管理政令(1996年制定)であるが、その内容は放射線安全規制を主な内容としており原子力発電の運用には対応するものにはいたっていなかった。したがって、原子力法の制定によって、初めて、原子力発電導入を前提とした原子力関連活動の原則が法律として定められることとなる(主な項目としては、原子力利用の平和目的の原則、核物質の管理、保障措置の運用等)。ベトナムは、今後、これらの原則及び各事項の運用に当たって、下位政令の制定等、具体的な規定類の策定・確立に向け取り組むこととなる。
2008年5月13日、ブッシュ大統領は、6日に署名した米露原子力平和利用協力協定を議会に提出した。同協定は、今後、90日間の会期内に上下両院による合同不承認決議が採択されなければ発効することになる。しかしながら、ロシアをイランの核開発計画支援国家として名指しし、ロシアとの原子力協力協定の締結を制限する内容を含む、「2007年イラン拡散対抗法案(H.R.1400)」が2007年9月25日に下院で圧倒的多数(賛成397、反対16)で通過したこと、上院における同種の法案が多くの共同提案者を得て提案されていることに見られるように、米国議会には、ロシアのイランに対するこれまでの原子力、ミサイル、通常兵器に関する協力を理由に、米露間の協定締結には懐疑的な見方がある。
そうした動きの一つとして、同協定と共に議会に提出された国務省作成の同協定に関する核不拡散評価書(NPAS)に関して、5月22日、ディンゲル下院エネルギー・商務委員会委員長及び同委員会の監督・調査小委員会のステュパック委員長は、ドダロ会計検査院長代行に対して、レビューを求める書簡を発出した。同書簡は、会計検査院に対し、特に、(1)NPAS作成プロセスの詳細なレビュー、(2)公開情報と非公開情報の公平な検討に対する評価、(3)NPASの結論が十分根拠があるものであるか、NPASの結論と矛盾する情報は省かれていないかについての評価を求めている。また、下院外交委員会のバーマン委員長は、イラン問題に対するロシアの協力が十分でないことを理由に、本協定の締結に懸念を表明し、6月に、本件に関する公聴会を開催する意向を示す声明を発出した(尚、公聴会は6月12日に設定された。)。
一方、戦略国際問題研究所(CSIS)は、5月28日、核不拡散の観点から、米露原子力協力協定を支持する内容の報告書を発表した。本報告書は、ロバート・アインホーン、ローズ・ゴットミューラー、フレッド・マクゴールドリック、ダン・ポネマン、ジョン・ウォルフスタールという核不拡散問題の専門家5人により執筆されたものであるが、協定を締結することにより、米国は、イランへの協力を含む、ロシアの核不拡散政策に大きな影響力を行使することが可能になるという点において、大きなメリットがあるとしているのが特徴的である。
今後、議会が取り得る選択肢として、(1)何も積極的な動きに出ず、90日間の経過により発効させること、(2)無条件で協定を承認すること、(3)条件つきで協定を承認すること(過去、米中原子力協力協定の例がある。)、(4)合同不承認決議の可決により、発効を阻止すること、(5)上述の米露原子力協力協定の締結を制限する法案を成立させることにより、発効を阻止すること、が考えられる。今のところ議会には本協定の発効に懐疑的な見方が多いが、(4)、(5)の場合は、大統領による拒否権の発動の可能性を踏まえると、最終的には2/3の多数が必要となり、それだけの多数を確保できるかは現段階では予測が難しい。
添付では、NPASの主な内容をまとめた。NPASは、原子力法第123条により、協定とともに、議会に提出することが義務づけられたものであり、原子力法、核不拡散法(NNPA)の定める要件を満たしているものか否かが評価される。本NPASでは、ロシアの核不拡散政策、ロシアのイラン、インド、ミャンマーに対する原子力協力、これまでの米露間の核不拡散・原子力協力、本協定の概要等について述べた上で、本協定と原子力法、NNPAとの整合を評価している。結論として、本協定は、両法律の要件を満たすものであり、本協定の履行は、米国の核不拡散プログラム、政策、目的と合致するものとしている。なお、同評価書にはロシアとイランの協力の詳細を記した機密扱いの附属書も添付されているが、本附属書は公開されていない。(核不拡散評価書については別添を参照のこと)
(参考資料)
【報告:政策調査室 山村、大塚】