核不拡散ニュース No.0087 2008.04.25
<アラブ首長国連邦(UAE)の原子力発電導入計画及び米国・UAE間のMOU(了解覚書)の署名について>
最近の中東、北アフリカ諸国における原子力発電導入に向けた動きと、これら諸国に対する米国、ロシアの原子力協力の動きが活発化していることは、<核不拡散ニュースNo.0086>でお伝えした通りである。こうした動きの一環として、アラブ首長国連邦(UAE)が、2008年4月20日、「原子力平和利用の評価と将来の開発可能性に関するUAEの政策」と題する白書を発表し、4月21日には、米国と、原子力協力に関するMOU(了解覚書)を締結した。
また、ライス米国務長官は、UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン外相から「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」を承認する外交書簡を受領したとされており、UAEは同イニシアティブの68番目の参加国となる。
(情報ソース)
<米国エネルギー省(DOE)が先進核燃料サイクルに関する新たな公募資金プログラムを発表>
4月17日、米国エネルギー省(DOE)は、新たな公募資金プログラムを発表した。GNEPの下での核燃料サイクルに関する研究開発に対し、2008会計年度予算から最大で1,500万US$の資金供与を行うもの。対象となる研究開発分野は、(1)使用済燃料の分離技術、(2)先進燃料開発、(3)高速燃焼炉及び先進核変換システム、(4)先進燃料サイクルシステム分析、(5)先進コンピュータ・シミュレーション技術、(6)保障措置、(7)先進的な廃棄物処理技術であり、大学、国立研究所、産業界が対象として募集が行われることとされている。
DOEは本プログラムの中で、20から30件程度のプロジェクトに資金供与が行われることを予期しており、個別のプロジェクトに供与される額は25万-200万US$とされている。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】
<北朝鮮動向:米国政府、北朝鮮の核開発協力を認識する声明を発表>
4月24日、米国ホワイトハウスは、2007年9月6日にイスラエルの空爆により破壊された施設は、シリアが非平和目的のために秘密裏に建設を進めていたプルトニウム生産のための原子炉であり、北朝鮮がその建設に協力していたと確信するとの見解を発表した。
声明の発表に先立ち、同日に開かれた米議会における非公開公聴会において、シリアの施設建設に関する北朝鮮の関与を示すビデオを含む情報が提示されたと報道されるが、空爆された施設がプルトニウム生産を目的とした原子炉であったかどうかについて、米国政府がどの程度の確信を得ているかは明らかにされていない。他方、アサド・シリア大統領は、爆撃されたシリアの施設の実態について、BBCのインタビューの中で、軍事施設であり、原子力関連施設ではなかったと主張している。北朝鮮は1990年代からシリアの弾道ミサイル開発に協力してきたとの懸念があることから、同施設もミサイル開発に関連する施設である可能性は否定できない。
北朝鮮の核開発問題をめぐっては、2007年9月に開かれた六者会合で合意された第2段階措置の一つ、北朝鮮による全ての核開発の申告が2007年12月末の期限を過ぎても実現せず、膠着状態が続いていたが、4月8日、米国首席代表クリストファー・ヒル国務次官補と、北朝鮮首席代表の金桂寛(キムケグァン)外務次官との協議の後、米朝間で打開案が合意されたと報道されている。報道によると、高濃縮ウランによる核開発とシリアへの核協力疑惑について、北朝鮮が米国の懸念を「認知する」との文言を申告の中に入れ、また、米国は、北朝鮮に対するテロ指定解除に向け取り組むとのことで合意されたと報道されている。今回、米国政府がテロ組織支援国家と認定するシリアに対して北朝鮮が核開発協力を行なっていたとの認識を公式に表明したことにより、テロ支援国家解除の動きに歯止めがかかることになると思われる。
白書の内容は、現在進行中の原子力利用の評価にあたって講ぜられるべき政策・行動計画と、将来、UAEがその域内に原子力発電所の建設を決定した場合の政策・行動計画に分けられている。原子力発電の導入については、今後、設立されるアラブ首長国連邦原子力公社(ENEC)により、評価がなされるとされており、UAEは、現時点で、原子力発電の導入にコミットしているわけではない。
白書の特徴的な点は、原子力の平和利用を行うにあたり、(1)セキュリティ・核不拡散、(2)原子力安全、及び(3)原子力損害賠償責任のそれぞれの分野で国内法を整備するとともに国際取決めを遵守することにより、非核兵器国が原子力の平和利用を行うにあたってのモデルを確立する意図を明らかにしている点である。 特に(1)の分野では、既に締結しているNPT(1995年加入)、IAEAとの包括的保障措置協定(2003年批准)に加え、早急に、追加議定書の批准、核物質防護条約の改正議定書への署名を行うとの意図表明がなされている。輸出管理に関しては、原子力供給国グループ(NSG)への参加を志向しており、ガイドラインに則った輸出管理政策を履行するとしている。また、国連安保理決議1540の履行についても言及されている。
もう一つの特徴は、自前の濃縮、再処理能力の開発を放棄し、他国からの燃料供給に依存することを明らかにしている点にある。白書によれば、UAEは燃料リース等のアレンジにより、原供給国での廃棄物処分(再処理される場合も含め)を志向していると見られるが、UAEで長期的な廃棄物管理が必要とされる場合は、廃棄物処分の国際処分に則った管理がなされる旨を述べている。また、関連して、UAEは、燃料バンクを含むマルチラテラルな燃料供給保証構想に関する国際的な取組みを支持するとしている。
米国-UAE間のMOU発表に関する国務省プレスリリースには、UAEが、特に、核燃料供給保証の長期的なアレンジメントに依存することで、自前の再処理、濃縮能力の追求を放棄する旨の原子力政策を発表したことが言及されており、こうした原子力政策は、原子力エネルギー利用のモデルとなるものであるとしていることから、UAEが発表した白書とMOUは一連の動きとして捉えることができる。
同様の趣旨は、2008年3月24日に米国及びバーレーン間で署名されたMOUの中でも述べられている。燃料供給保証に関する最近の国際的議論においては、受領国の反発から濃縮、再処理技術の放棄という核不拡散上の要求は前面に出なくなっているが、プレスリリースを見る限り、米国の政策は、あくまでも受領国に機微技術保有の放棄を求めるという点において変更がないことを示している。
プレスリリースでは、原子力協力協定の交渉に関する両国の関心が再確認されており、今回、署名されたMOUは原子力協力協定の前段階と位置づけることができる。バーレーンとのMOUも同様であるが、米国による中東諸国との原子力協力の活発化の背景として、新興原子力導入国に対する原子力ビジネスの思惑とともに、イラン問題があることは否定できない。濃縮、再処理を放棄する国に対して積極的に原子力協力を行う意思があることを示すことが、イランに濃縮を停止させるインセンティブを与えるとは考えにくいが、中東において、核の軍事利用に向かおうとする新たな国が出現するのを防ごうとする意図があるものと考えられる。
【解説:政策調査室 山村】