核不拡散ニュース No.0080 2008.01.18
<米印原子力協力に関するその後の状況>
<「新しい核の秩序構想タスクフォース」によるG8北海道洞爺湖サミットに向けた政策提言>
今年のG8北海道洞爺湖サミットにおいて日本発のイニシアティブとして提唱されることを目標とし、2006年8月から、各界の有識者を結集したタスクフォース(座長:遠藤元原子力委員長代理、事務局:日本国際問題研究所)において、「新しい核の秩序構想」の検討が進められてきた。
本タスクフォースは、原子力エネルギーが果たす役割の重要性に対する認識が国際的に高まっている一方で、ならず者国家や非国家主体による新たな核の脅威等により、国際核不拡散体制が弱体化の危機にあるとの認識に立った上で、核不拡散、軍縮、原子力平和利用を包含する「新たな核の秩序」のあり方を構想、提案することを目的として設置されたものである。
12回に及ぶ会合等での議論を踏まえ、「持続可能な未来のための原子力(Atomsfor the Sustainable Future)」と題する政策提言がまとめられ、1月9日に高村外務大臣に提出された。
本タスクフォースには岡﨑理事長が参加しており、提言の取り纏めにあたっては、当センターとしても協力を行った。尚、13項目の提言は以下の通りである。
- 原子力の安全安心な発展のための普遍的な指標として「3S(スリー・エス)」を確立すること
- 途上国における原子力発電計画に対する適切な国際的資金協力の枠組みを提供すること
- 原子力を地球温暖化対策の有効な手段として認定し、活用すること
- 国内の規制枠組みおよび国際協力において、安全と原子力賠償に適切に取り組むこと
- 追加議定書を活用すること
- 不拡散の促進と原子力の便宜を享受する手段として燃料供給保証と核燃料サイクルに対する多国間アプローチを活用すること
- 燃料サイクルのバックエンドに関する懸念に対処すること
- 不拡散分野における強制と執行メカニズムを強化すること
- 核拡散抵抗性の高い技術や洗練された保障措置や検証技術の開発のために国際的な協力を深化・拡大すること
- 核軍縮を強調し、核兵器の廃絶という人類にとって重要な目標のために軍縮の重要性を再確認すること
- 核不拡散のために安全保障上のインセンティブに取り組むこと
- CTBTの早期発効とFMCT交渉の開始をめざすこと
- 核テロや核物質防護の懸念への取り組みにおける国際的な努力を強化すること
[インドとIAEAの保障措置協定の交渉について]
米印原子力協力を実現するためのステップとして、インドとIAEAとの間で保障措置協定を締結する必要があり、核不拡散ニュースNo.0075にてお伝えしたように、両者は11月下旬から、同協定の交渉に入ったが、現時点で妥結には至っていない。
各種報道によればこれまで3回にわたる交渉が行われているが、米印原子力協力協定案で規定されている、戦略的燃料備蓄の取り扱い、インドへの燃料供給の途絶が起きた際にインドに認められている是正措置の取り扱いが焦点とされている。4回目の交渉は1月16日から開始されているが、今後、インドの国内委員会による保障措置協定の承認、同協定のIAEA理事会での承認、NSGガイドラインの包括的保障措置受け入れ要件に対して、インドを例外扱いとすることに対するNSG内でのコンセンサスの取り付け、米国議会での米印原子力協力協定の承認というプロセスが残されている。これらを勘案すると、本交渉がこれ以上、長引けば、米印原子力協力協定のブッシュ政権任期中における実現の可能性は極めて低くなることが想定される。
(情報ソース)
[NGOからの各国政府に対する書簡の発出について]
米国の軍備管理協会、カナダのリドー国際問題研究所、日本の原子力資料情報室は、1月7日、NSG参加国及びIAEA理事会のメンバー国45ヶ国の政府あてに、米印原子力協力の見直しを求める書簡を発出した。同書簡は、23ヶ国、130の専門家、NGOからの支持を得ている。近い将来、IAEA理事会の場やNSGの場で、米印原子力協力に関する立場を明らかにすることを求められるであろう関係国政府に対し、インドとIAEAの保障措置協定の内容やNSGによる決定が、核不拡散体制を更に弱体化させることのないように働きかける趣旨で発出されたものである。
具体的には、インドが要求している、燃料供給の継続を保障措置受け入れの条件とすることに反対すること、インドに対し、NSGガイドラインが要求する包括的保障措置受け入れ要件の例外扱いを認めないこと、仮に認めざるを得ない場合は、少なくとも、インドがいかなる理由からであっても核実験を実施した場合は、直ちに原子力資機材の供給を停止することが明文化されること(米国の提案では、インドが核実験を実施した場合、原子力資機材の供給を停止するか否かは、各国の判断に委ねられているとして、同提案を批判している。)、また、インドに対しては、兵器用核分裂性物質の生産停止を宣言すること、核実験の停止に関し、法的拘束力を有する形でコミットすることを求めている。
(情報ソース)
[オーストラリアによる対印ウラン輸出政策の変更]
報道によると、オーストラリアのスミス外相は1月15日に行われた、インドのサラン特使との会談の中で、オーストラリア政府は、インドに対し、NPTに加盟していないことを理由に、ウランの輸出を行わない旨を述べた。オーストラリア政府は、2007年8月16日、ハワード政権の下で、条件つきながらもインドへのウラン輸出を許可する旨を決定したが、NPTに加盟していない国に対してウラン輸出を行わない政策を堅持する労働党が、11月の総選挙で政権を掌握したことから動向が注目されていた。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】