核不拡散ニュース No.0078 2007.12.21
<イラン動向:ロシアによるブシェール軽水炉への燃料供給開始>
12月17日、ロシア外務省は、同国の協力で建設中のイランのブシェール軽水炉への燃料供給を開始したことを明らかにする声明を発表した。声明は、供給される燃料がイラン領域内にある期間中、IAEAの保障措置下に置かれること、また、ロシア供給の燃料がブシェール軽水炉の他には使用されないことを保証するために、イランが追加的に確約書を提出したことにも触れ、ロシアによるイランへの燃料供給が同国の核開発活動を助長する恐れがないことを強調する内容となっている。声明にあるロシアによるブシェール軽水炉への燃料供給は、2005年2月の両国の政府間合意に基づくものであり、本合意によると、燃料はブシェール軽水炉の炉寿命期間中ロシアより供給され、使用された後にはロシアに返送されることになっている。ロシアはイランへの燃料供給開始に先立ち、今年11月、イラン向けの核燃料を製造するシベリアのノボシビルスクの核施設に対し、初めて国際原子力機関の核査察を受け入れ、検証・封印措置に応じた。これは、イランへの燃料供給に対する核拡散懸念を払拭する目的とされるが、一部報道においては、ロシアにおける将来の国際ウラン濃縮センター構想の実現の一環としてイランへの燃料供給を位置付けているとの指摘もある。
ロシアのブシェール軽水炉への燃料供給開始に対して、米国政府は歓迎する意向を示し、かわりにイランに対して自国でのウラン濃縮活動の必要性はなくなったとし、濃縮活動が停止されない場合は制裁強化に踏み切ると警告している。これに対して、イラン原子力庁は新たに建設中の原子炉の燃料製造のために濃縮活動を継続する旨明らかにし、安保理制裁決議によるウラン濃縮活動停止の求めには応じない姿勢を示した。
上記のとおりロシアがイランに対する燃料供給を開始した背景には、イランの核開発に関する「国家情報評価(“National Intelligence Estimate: NIE")」(2007年12月3日公表)の中で、イランの核兵器計画が2003年末に停止したとの評価が示されたことがあると考えられる。イランに対する制裁決議をめぐっては、制裁発動に積極的な米欧と消極的な露中という姿勢の違いが常に存在したが、NIEの評価により露中が対イラン制裁発動に対してより慎重な姿勢を強めることが想定される。これに反し、ロシアからの燃料供給実施にもかかわらずウラン濃縮活動を停止しないイランに対し、米欧が追加制裁発動に向けての動きを活発化させることも考えられ、米欧と露中の見解の相違が益々顕著になることが予想される。イランの核問題をめぐる今後の米欧と露中の見解の推移が注目される。
- イランは2007年半ばの時点において、核兵器計画を再開していない(moderate confidence)。
- イランが現在、核兵器開発の意図を有するか否かは定かではない。永久に核兵器計画の停止を維持するか否か、また、同計画を再開する時期、基準を決めているかについて、確信を持って判断するに足りる十分な情報を持ち合わせていない。
【報告:政策調査室 濱田】