核不拡散ニュース No.0073 2007.11.02
<イラン動向:米国政府がイスラム革命防衛隊を大量破壊兵器拡散懸念組織として指定>
米国務省は10月25日、行政命令13382号(E.O.13382)に基づき、イラン指導部直轄のイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps:IRGC)及び国防軍需省(Ministry of Defenseand Armed Forces Logistics:MODAFL)を大量破壊兵器拡散懸念組織として指定し、行政命令13224号(E.O.13224)に基づき、IRGCの組織の一つである「Quds Force:IRGC-QF」をテロ支援組織として指定した。
米財務省は、同指定を受け、大量破壊兵器拡散に関与しているとして、IRGC関連の9組織5個人、イラン国営の2銀行(Bank Melliand Mellat)、及び航空宇宙産業機構(Aerospace Industries Organization:AIO)関連の3個人を、また、IRGC-QF及びイラン国営銀行Bank Saderatについて、テロ支援活動に関与しているとして、それぞれの組織・個人の米国管轄内の資産凍結及び米企業・個人との取引禁止を命じる制裁を科すことを発表した。正規軍ではないとはいえ、独立した主権国家の統制下にある軍事組織を他の主権国家が大量破壊兵器拡散懸念組織として指定するのは極めて異例な政治的措置と言える。また、イラン国営大手銀行を制裁対象に加えることで、イランに与える経済的打撃は大きい。
今回の米国の措置の背景には、イランが2つの国連安保理制裁決議(1737、1747)によるウラン濃縮活動停止の要求を拒否し、自国の核開発活動の継続を主張していることに対して、イランの過去の未申告核開発活動についての疑問が解決されていないこと、未解決な問題の解決に向けIAEAと合意した行動計画も不十分な内容であることを理由にイランに対する制裁を強めたい米国の意向が強く働いている。しかし、このような政治的・経済的な締め付けがイランの核開発にどのような影響を与えるかは依然として不透明であり、今回の拡散懸念組織としての指定が米国による国際的規範違反であるとの反発はイラン内に強く、今回の制裁がかえってアフマディネジャド政権の強硬姿勢を後押し、核開発問題解決にとって「逆効果」になるとの懸念も高い。イランの核問題を巡ってのIAEA及びEUとの協議とあわせて注視していく必要がある。
(情報ソース)
- 米国務省ホームページhttp://www.state.gov/secretary/rm/2007/10/94133.htm
- 米国務省ホームページhttp://www.state.gov/t/isn/c22080.htm
- 米財務省ホームページhttp://www.ustreas.gov/press/releases/hp645.htm
- 米財務省ホームページhttp://www.ustreas.gov/press/releases/hp644.htm
- The International Institute for Strategic Studies,The Military Balance 2007,(Oxfordshire,UK.:Routledge Journals,2007)
イスラム革命防衛隊(IRGC)は約125,000人の兵力を有し、正規軍に続いてイランで2番目に大きな軍事組織である。IRGCは、軍事的のみならず、経済的・政治的な影響力も強く、従って、その組織を大量破壊兵器拡散懸念組織として指定することは、イラン政府に対する経済的締付け以上の政治的な強いメッセージの意味を持つ。また、Quds Force(IRGC-QF)はIRGCの陸軍の中の特殊部隊として、外国におけるイスラム革命活動を支援することを目的として設立され、米財務省によれば、米国政府がテロ組織と認定するタリバン、ヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム・ジハード(PIJ)、及びパレスチナ解放人民戦線総合司令部(PFLP-GC)などに物資支援を行っており、そのことが今回の行政命令13224号発動の根拠となっている。金融機関に対しては、米国政府はこれまで、2006年9月にテロ支援を理由にBank Saderatに対して、2007年1月にイランの大量破壊兵器開発における資金取引関与を理由にBank Sepahに対してそれぞれ金融制裁を発動し、結果として、欧州の主要大手金融機関をはじめ、日本、シンガポールなどのアジア主要金融機関によるイランとのドル取引の自粛を促し、これら二行を国際的なドル取引の場から締め出すことに成功してきた。イランは、対抗策として、原油代金などの決済条件をユーロなどほかの通貨での取引へと切り替えて対応してきたが、最近では、欧州系金融機関も、制裁対象となった両行の金融資産凍結に動き、ドイツなど欧州での取引も全面的に停止されるなど、ユーロを用いた取引にも大きく制限が加えられることとなった。さらに、今回新たに対象となったBank MelliとBank Mellat両行は、資産規模でもイラン国内最大級とされ、今回の制裁措置が持つ政治的なメッセージに加えて、イラン経済に与える悪影響は必至である。
【報告:政策調査室 濱田】