核不拡散ニュース No.0071 2007.10.12
<ロシアのプーチン大統領がIAEAとの追加議定書の批准に関する法律に署名>
10月3日、ロシアのプーチン大統領は、ロシア連邦とIAEAとの間の追加議定書の批准に関する法律に署名した。署名は、同法案が、9月14日に下院、9月19日に上院で採択されたことを受けたものである。
ロシアとIAEAとの間の追加議定書は、2000年3月21日、IAEA理事会で承認され、同月22日に署名されたが、ロシアの国内法の整備が遅れていた。追加議定書は、IAEAへの批准書の寄託をもって発効する。旧ソ連とIAEAの間ではボランタリーオファー型の保障措置協定が締結され(1985年6月10日に発効)、同協定はロシアに引き継がれているが、ロシアが同保障措置協定に基づき提出した「査察可能な施設」(eligible facilities)のリストから、IAEAが査察対象の原子力施設を選択していないため、少なくとも2002年以降、ロシア国内でのIAEAによる査察は行われていない。
ロシアのような核兵器国が追加議定書を批准する意義としては、原子力関連資機材の非核兵器国への輸出についての情報のIAEAへの提出が義務づけられることにより、IAEAが非核兵器国の原子力活動をより正確に把握できるようになることが挙げられる。
2007年9月28日現在、追加議定書を発効させている国は84カ国、1国際機関(EURATOM)であり、核兵器国では、米国、ロシアを除く3カ国で発効済みである。米国は、2006年12月18日、米印原子力平和協力法の一部として、追加議定書履行法(United States Additional Protocol Implementation Act)を成立させたが、現段階で批准書の寄託には至っていない。
<北朝鮮動向:六者会合における朝鮮半島の非核化に向けた第二段階措置の合意>
北朝鮮の核問題を協議するため9月27日〜30日まで第6回六者会合第2セッションが北京で開催され、2005年9月19日の共同声明で目標として謳われた朝鮮半島の非核化実現に向けての第二段階措置についての共通認識が得られ、10月3日に合意文書として「共同声明の実施のための第二段階の措置」が発表された。
第二段階の措置として、北朝鮮は、すべての既存の核施設の無能力化に合意し、寧辺の3施設(5MW(e)黒鉛減速炉、放射化学研究所(再処理施設)、核燃料棒製造施設)の無能力化を、2007年12月31日までに完了させることで合意した。無能力化の方法については、「六者すべてが受入れ可能であり、科学的、安全、検証可能かつ国際基準と整合的である」という原則に沿ったものとなるが、具体的な方法は示されていない。11日には、無能力化の作業に向けた計画作成などに当たるため、米国務省のソン・キム朝鮮部長を団長とする米専門家チーム8名が訪朝した。また、北朝鮮は、「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を2007年12月31日までに行うことに同意し、「核物質、技術及びノウハウを移転しない」との約束を再確認したことも、明記された(「共同声明の実施のための第二段階の措置(仮訳)」参照)。
ここで、無能力化の具体化にあたって、無能力化がどの程度の期間担保されるのか、無能力化を進める過程で北朝鮮のこれまでの核活動を検証する措置はどうなるのか、今後の検証の術が断たれないかなどが当面の懸念課題としてある。しかし、上記3施設の無能力化は、核兵器製造に転用可能な核分裂性物質の増産を一定期間停止することを担保するための措置であり、既存の核兵器及び核兵器製造に直接的に使用可能な核分裂性物質の取扱は、課題として残されている。
核兵器については、2005年9月19日の共同声明において放棄を目標とすることが明記されたが、2006年10月9日の核実験後の2007年2月13日の初期段階措置の合意においては一切言及されておらず、今回の第二段階措置においても触れられていない。米国ブッシュ政権の対北朝鮮政策の軸足が、朝鮮半島の非核化ではなく、むしろ、北朝鮮の核拡散防止あるいは核拡散対抗にあり、北朝鮮による核物質・技術の第三者への移転を阻止することが米国の最優先課題となっていることがその背景にあると見られるが、「核物質、技術及びノウハウを移転しない」との北朝鮮の約束を担保する術は何も存在しないのが実状である。ジェームス・レイニー元駐韓米大使とジェーソン・シャプレン前朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)政策補佐官は、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿文「金正日の最後のカード」において、北朝鮮が保有するプルトニウムに対する早急な対応の必要性を訴えている。六者会合による対北朝鮮政策の軸足が非核化あるいは核不拡散のいずれかに置かれようとも、プルトニウムの管理は最重要課題の一つであることは確かであり、プルトニウム管理に向けたステップを念頭に置いた核施設の無能力化への取組が求められる。
(情報ソース)
- 外務省ホームページ、「共同声明の実施のための第二段階の措置(仮訳)」
- “Second-Phase Actions for the Implementation of the Joint Statement”(原文)
- ニューヨーク・タイムズ紙、JasonT.Shaplenand James Lanet,“KimJong-il’sLastCard,”
【報告:政策調査室 山村】