核不拡散ニュース No.0059 2007.07.06
<米露両国が原子力と核不拡散に関する共同宣言を発表>
2007年7月1日〜2日、米ブッシュ大統領と露プーチン大統領との間で、首脳会談が行われ(米国・メイン州ケネバンクポート)、両首脳は、「原子力と核不拡散の共同行動宣言」を発表した(同月3日)。
同宣言では、米露原子力協力協定が仮署名されたことが表明されるとともに、同協定が、法的な要件を満たした上で、早期に正式署名、発効に至ることへの期待が述べられている。なお、ロシア原子力庁(Rosatom)のプレスリリースによれば、米露両国の議会は90日以内に同協定を検討する必要があるとされている。また、共同行動宣言では、開発途上国を中心とした原子力利用の拡大の見通しに言及しつつ、こうした原子力利用の拡大は、核不拡散を強化する方向で行われるべきとしており、特に、NPT、追加議定書、IAEAの役割の重要性を強調している。両国が協力して実施する原子力利用の拡大のための具体的な支援策としては、以下が列挙されている。
- 近代的で安全かつ核拡散抵抗性に優れた発電炉や研究炉の供給促進
- 参加国が利用する原子炉の要件を検討するための各国及び多国間プログラムのアレンジ
- 各国及び多国間の資金調達メカニズムを通じた原子力発電所建設の促進と支援
- 原子力のインフラ整備の支援(規制の枠組みの整備、安全・セキュリティプログラム、トレーニング等)
- 使用済燃料や放射性廃棄物の管理方策の検討(核燃料のリース、使用済燃料の貯蔵及び長期的なリサイクル技術の開発を選択肢として含む。)
- IAEAが保障措置の責任を満足させる資源の確保
- 原子炉の運転に必要なインフラ整備に関わるIAEAの技術協力プログラムの拡大に関わる支援
- 核燃料サービスの提供(核燃料市場の安定確保、原子炉の供用期間中の燃料及び燃料サービスへの信頼を満足させるアクセス確保、IAEA保障措置下に置かれる核燃料サイクルセンターの設立等)
- 発電炉及び研究炉の長期契約の交渉支援(核燃料の供給保証及び使用済燃料の管理のアレンジメントを含む。)
(情報ソース)
<カーネギー国際平和財団の核不拡散問題に関する国際会議でクレイ・セルエネルギー副長官が講演>
6月25〜26日、ワシントンのロナルド・レーガン国際貿易センターにおいて、カーネギー国際平和財団主催による不拡散国際会議が開催された。今年のテーマは「Tomorrow's Solutions」と題され、規範に基づく不拡散レジームの強化のための具体的なアイデアに焦点が置かれた。参加者は、800人以上で、政府関係者、専門家、大学関係者及びマスコミ関係者等であった。
議題としては、イラン・北朝鮮問題、米印原子力協力、宇宙政策、核兵器の将来、核抑止、核軍縮、2010年のNPT再検討会議、生物兵器の拡散、燃料供給保証、核の不法密輸、米国と再処理、核テロ等、多岐に渡った。
特に、クレイ・セル米国エネルギー省副長官の「グローバル原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)」の講演概要については別添1を参照。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 大塚】
<米露外相が核軍縮条約について共同声明を発表>
7月3日、ライス米国務長官とラブロフ露外相は、共同声明を発表し、戦略攻撃兵器を可能な限り最小限に削減していく意図表明を行った。両外相は、現行のSTART条約(2009年末に失効)以後の核削減条約について議論し、今後も議論を継続していく予定である。
後に行われたジョセフ米核不拡散特使(special envoy)とキスリャク露外務次官による記者ブリーフでは、合意は今後も核兵器削減プロセスは続ける必要があるということで、特別に核兵器の削減数を決めたわけではない、との説明がなされた。ただし、ジョセフ特使が信頼醸成や透明性を高める手段を検討していくことを強調したのに対して、キスリャク次官はロシアの立場として、信頼醸成措置や情報交換は核兵器削減の取決めの一部ではあるが、それだけを求めている訳ではなく、条約を精査して核兵器削減に前向きな要素が今後の条約にも含まれるべきであること、米露戦略関係の中で予見性(predictability)を確保する方法や核兵器の能力を最小限にした安全保障を確保する方法、さらにはこの種の取決めが履行されていることを検証する手段が確実となる必要があること、これらが課題であると述べた。同次官は、これを米露間の姿勢の違いではなく、アプローチにおける微妙な差であり(nuances in approaches)、両国がこの課題解決に向けて作業を進めることを合意したことが重要だと述べた。
(情報ソース)
- 米国務省HPhttp://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2007/87638.htm
- 米国務省HPhttp://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2007/87659.htm
【報告:政策調査室 大塚】
<北朝鮮動向:IAEA代表団、核施設運転停止の監視、検証に関し北朝鮮側と合意>
6月30日、北朝鮮を訪問していたIAEA代表団団長のハイノネン事務次長(保障措置担当)は、2月13日の六者会合で合意した初期段階の措置における、核施設の停止・封印の監視・検証の手順について北朝鮮側と合意に至ったことを明らかにした。IAEAのプレスリリースによれば、7月3日には、IAEA代表団と北朝鮮との合意内容のあらましを記述した事務局長報告が理事国(35カ国)に配布された。また、7月9日には、IAEA理事会が開催され、同報告書の北朝鮮の核施設に対する監視・検証方法について議論される。運転停止及びIAEAの監視・検証の対象となる施設及び関連物質の詳細については公にはされていないが、IAEA代表団が、1994年の米朝枠組み合意の下で凍結された5つの施設を訪れたことから、同施設が運転停止・封印の対象との見解が有力となっている。
米朝枠組み合意においては、寧辺原子力研究センターの4施設(5MW(e)黒鉛減速炉、核燃料加工工場、放射化学研究所(再処理施設)、50MW(e)黒鉛減速炉(建設中))及び泰川(テチョン)の200MW(e)黒鉛減速炉(建設中)が凍結対象とされ、IAEAは凍結の検証・監視のために監視カメラの設置や常駐査察官による立入り検証措置を行った。
しかし、北朝鮮はIAEAに対して、各施設の業務(トランザクション)、技術レポート及び運転記録へのアクセスを十分認めず、また、放射化学研究所での液体廃棄物の計量・組成調査など抽出されたプルトニウムの総量を見積るための計量等の措置を取ることを拒否した経緯がある。今回のIAEAによる監視・検証措置が94年の米朝枠組み合意における措置と比較してどの程度のものとなるのかが、北朝鮮の思惑を量る上での一つの目安ともなろう。7月9日のIAEA理事会において、北朝鮮の核施設の停止・封印の監視・検証の手順が決定される見通しであり、監視・検証の詳細な内容に留意したい。(1994年の米朝枠組み合意におけるIAEAの役割・活動と争点の概略は別添2のとおり。)
(情報ソース)
- AP通信"IAEA, N.Korea Reach Agreement on Shutdown,"ABCニュース電子版6月29日にて、IAEAホームページ"New Report on Monitoring and Verification in North Korea,"July3、David Albrightand Kevin O'Neill,ed.,Solving the North KoreanNuclearPuzzle,The Institute for Science and International Security, Washington D.C.,2000.
原子力と核不拡散に関する宣言が合意されたことは、エネルギー安全保障及び地球温暖化への対応の観点から、今後、新たに原子力発電を導入する国が飛躍的に拡大するであろうとの見通しが米露の首脳レベルで共有されており、そうした原子力を取り巻く環境変化の中で、核不拡散をいかに担保していくかが、優先順位の高い課題として認識されていることを示している。
ただ、宣言の内容を見る限りにおいては、両国が新たなイニシアティブを開始するものであるというよりは、すでに、両国を中心として、提案されている様々な構想(IAEAを中心に検討されている核燃料供給保証構想、ロシアによる国際核燃料センター構想、INPRO、GNEP、GIF等)を踏まえ、今後、原子力発電を導入しようとする国に対して、米露両国の協力の枠組みの中でどんな支援ができるかということを整理し直したという印象が強い。
一方、両国による原子力協力協定は、昨年7月の米露首脳会談で交渉の開始が合意された、約1年にわたる事務レベルでの交渉の結果、案文の合意に至ったものである。
Rosatomのキリエンコ長官がインタビューの中で述べているが、本協定締結の背景には、ロシア原子力産業の米国原子力市場への参入の思惑があるものと見られる。また、米国籍を有する使用済燃料のロシアでの中間貯蔵、再処理のためには、米国政策上、米露間での原子力協力協定の締結が必要であるとされており、政権側の思惑通り、両国の国内法に則った同協定に対する議会の承認が早期に得られるか否かとともに、仮に同協定が発効した場合に、ロシアにおける海外からの使用済燃料の貯蔵、再処理を促進することになるか否かについて、注目していく必要がある。
【解説:政策調査室 山村】