核不拡散ニュース No.0052 2007.05.18
<NPT運用検討会議の第1回準備委員会が終了>
<日露原子力協定の動向について>
4月26日、第一回日露原子力協力協定締結交渉が開催された。同協定が締結されれば、日本は、英仏に保管されている日本の電力会社の回収ウランをロシアに再濃縮を委託する枠組みが構築されることになる。また、同協定の締結交渉は、日本がカザフスタンとの間で締結しようとしている原子力協力協定とも連動していると言われており、それぞれの協定が締結されれば、カザフスタンの鉱山で産出する天然ウランを、ロシアに移送し濃縮してから日本に輸送すること、もしくは、再びカザフスタンにおいて何らかの加工を施して日本に輸送することも可能となる。
今年3月7日付の<核不拡散ニュースNo.0045>でもお伝えしたとおり、日露原子力協力協定締結に向け、平和利用目的確認のための手段としてIAEAの保障措置の適用及び関連する代替措置を含む補助的措置の適用等を核兵器国であるロシアに対し、いかに求めていくのかが注目される。また、目下交渉中の米露原子力協力協定締結の行方も注目されるところであるが、これについては、今年6月6〜8日にハイリゲンダム(ドイツ)で開催されるG8サミットにおいて、米露首脳間のサイドラインで協議の上何らかの進展があるものと考えられる。
第二回日露原子力協力協定交渉は、今年6月頃モスクワで開催される予定である。今夏、安倍首相が訪露すると報じられており、その時に日露原子力協力協定を締結する環境が整っているか不明だが、米露原子力協力の動向と合わせ、次回交渉が注目される。
(情報ソース)
- 外務省HP
- 読売新聞HP
【解説:政策調査室 大塚】
<日・カザフスタン原子力協力の動向について>
4月29〜30日に甘利経済産業大臣を筆頭にした約150人の官民外交団がカザフスタンを訪問した際、甘利大臣とマシモフ首相は「原子力の平和利用の分野における戦略的パートナーシップ強化に関する共同声明」を署名した。内容は、以下のとおりとなっている。
・両国が相互補完的な戦略的パートナーとして重層的な協力関係を発展させること
・両国の政府機関・企業によって実施される協力案件のために必要な環境整備を行うこと
・原子力平和利用協定の締結交渉を開始すること
・中長期的な日本−カザフスタン間の戦略的パートナーシップを深化させるために、今後も対話を継続すること
昨年8月に小泉首相(当時)がカザフスタンを訪れた際、両国は原子力平和協力協定の締結交渉開始に向けた覚書に署名し、ウラン鉱山の共同開発や、カザフスタンから日本へのウラン製品提供等の協力実現のために必要な措置を講ずることが合意されており、今般の共同声明の署名は政府間原子力平和協定締結へ向けた重要なステップになったものと考えることが出来る。
原子力機構からは岡﨑理事長が同行し、カザフスタン国立原子力センターとの研究協力拡大を検討する覚書に調印した。
民間企業等も25件の案件について合意に至り、この結果、これまで日本国内需要の1%に過ぎなかった同国からのウラン輸入を3割以上にまで引き上げることになる。合意の一部を以下に記す。
・ウラン鉱山開発(東京電力、東北電力、丸紅、カザトムプロム等)
・貿易保険(日本貿易保険、カザトムプロム)
・軽水炉導入についての支援(資源エネルギー庁、鉱物資源エネルギー省エネルギー委員会等)
・燃料加工分野での協力(住友商事、関西電力、カザトムプロム)
カザフスタンは豪州に次いで世界第二位といわれるウラン埋蔵量を保有しており、ウラン資源獲得競争の中でカザフスタンの権益を抑えたことは、官民一体となった外交が生んだ成果と評されている。
なお、韓国もカザフスタンからのウラン調達を目的に交渉を進めていたが、韓国はカザフスタン国内の加工工場を経由することを望んでおらず、カザフスタンは韓国との鉱山開発計画を凍結したとされる。カザフスタンは資源供給国から加工国への脱皮を望んでおり、包括的に燃料加工技術を提供することも含めて協力する日本の政策が実を結んだ形となった。
(情報ソース)
- 外務省HP
- 在カザフスタン日本国大使館HP
- 朝日新聞平成19年5月2日、11日
- 日本経済新聞平成19年5月3日
- 電気新聞平成19年5月7日
【解説:政策調査室 大塚】
<GNEP/WGとFOAについて>
日米共同計画が4月下旬に両国の長官及び関係大臣間で署名され、GNEP研究協力に係る6つのワーキンググループ(WG)の一つである保障措置・核物質防護WGの議長は、DOE/NNSA及び文部科学省より出ることとなった。本WGの活動計画及び作業範囲等について、6月末までに上位に設置されたステアリングコミッティー(SC)に報告することが義務付けられている。JAEAのNPSTCとしては、WG活動に他の国内関係機関とともに積極的に参画し、本研究協力の円滑な実施に向けて取り組んで行く予定である。
一方、DOEは、5月9日に、“GNEP Deployment Studies”というFOA(Funding Opportunity Announcement)を、6月21日申込〆切で募集した。DOEによると、9月中頃までに絞り込んだ最大3程度の応募者に、今年度予算で15Mドルの投資を行い、ビジネスプラン、技術開発ロードマップ、概念設計研究、広報計画について、来年1月に事前報告書の提出、その後、最終報告書を同年4月までに提出させ、同年10月に予定されているDOE長官のGNEP計画の実施判断に反映するとしている。
2010年の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けた第1回準備委員会が、4月30日‐5月11日、106の締約国が参加し、ウィーンで開催された。議長は日本の天野之弥氏(在ウィーン国際機関日本政府代表部大使)が務めた。
運用検討会議は、NPT第8条第3項に基づき、条約の履行状況をレビューするために、5年ごとに開催されることになっているものであるが、1995年のNPT無期限延長の際の合意により、レビュープロセスが強化され、NPTの履行を促進するための協議、運用検討会議に向けての提言、運用検討会議の手続きを取り扱うための準備委員会を、運用検討会議の開催年(次回は2010年)の3年前から毎年、開催することになっている。今回、開催された準備委員会は、2010年の運用検討会議を含む一連のレビュープロセスの最初の会合であるが、2005年の前回の運用検討会議が最終文書を採択できずに終わったことを受けて、その動向が注目された。
会合の前半はアジェンダの調整に費やされ、ようやく採択に至ったのは、会合が始まってから、1週間以上を経過した5月8日であった。これはアジェンダ項目6の実質的な討議内容を規定した中に、「遵守」という用語が含まれていたのを、イランが自国をターゲットにするものとして反発し、反対したためである。結局、南アフリカが示した妥協案(「遵守」とは、NPTの全ての条項への「遵守」を意味するという内容の、「了解事項」をアジェンダとともに採択するという案)をイランが受け入れたことで、ようやく実質的な審議が始まった。
会議の後半において焦点となったのは、議長総括の取扱いであった。当初模索された、議長総括を委員会の最終報告書の添付文書として採択することについては、非同盟諸国の反対が強く、特にイランを含む数か国は、作業文書として位置づけることにも反対したとされるが、結局、最終的には、「議長のペーパー(Chair's Paper)」というタイトルで、本委員会の作業文書の一つとして位置づけることで妥協が図られた。「議長のペーパー」では、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用という、NPTの3本柱をバランスよく追求することの重要性を強調した上で、それぞれの分野における個別の課題(核軍縮については、CTBT、FMCT等、核不拡散については、追加議定書、輸出管理や、中東、イラン、北朝鮮といった地域問題等、原子力の平和利用については、IAEAによる技術協力プログラム、原子力安全、核燃料サイクルの多国間管理、燃料供給保証等)に関しての議論を総括的にまとめた内容になっている。
イランに関しては、国連安保理決議(1737及び1747)の要求事項にすみやかに従うよう、強く求めることが述べられる一方、イランが、本問題をIAEAの枠組みで解決する用意があることを示したことにも言及されている。
また、核燃料サイクルの多国間管理・燃料供給保証に関しては、現在、IAEAの場で、燃料供給保証構想に関する議論が行われていること、こうした構想が、平和利用目的での核物質、原子力資機材、関連技術へのアクセスを制限するようなものであってはいけない等の見解が含まれている。また、本会合の中で、オーストリアが新たな提案(各国が原子力計画や核物質、原子力資機材、関連技術の移転等の情報をIAEAに申告することにより、透明性を向上させること及び、濃縮・再処理に関する全ての取引、濃縮、再処理施設を燃料バンクの管理下に置くという内容)を行ったが、ペーパーの中では、言及されていない。
2005年のNPT運用検討会議は米国とエジプト等との対立にイランが絡むという構図で進行したが、本委員会においては、米国とエジプト等の対立という構図は薄く、イランの国際社会からの孤立がより鮮明になった印象を受ける。米国のユニラテラリズム的な姿勢が目立たなかったように見えるのは、最近のブッシュ政権の外交政策の変化を示すものなのか、あるいは、本委員会にそれほどのプライオリティを置いていなかった為なのかは、現段階では判断が難しく、今後の動きを見ていく必要がある。なお、第2回準備委員会は、2008年4月28日〜5月9日の日程で、ジュネーブにて開催される予定である。
(情報ソース)
【解説:政策調査室 山村】