核不拡散ニュース No.0049 2007.04.18
<イランによる濃縮規模拡大の発表>
イランのアフマディネジャド大統領は9日、ナタンツの濃縮施設で行われた、濃縮開始1周年の式典で演説し、イランが、「核クラブの仲間入りを果たし、商業規模で核燃料の生産ができるようになった。」と発表した。演説の中で、遠心分離機の具体的な数については言及されていないが、イランの核問題の外交交渉責任者である、ラリジャニ氏は、記者の質問に答えて、3,000基の遠心分離機へのUF6の注入を開始したと述べた。また、国営IRNA通信が伝えるところによると、10日、アガザデ原子力庁長官は、将来的に、50,000基の遠心分離機を導入する計画であると語った。
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<イランが新たな原子炉2基の建設に向けた入札を開始>
イランは15日、新たな原子炉2基の建設に向け、入札手続きを開始したと発表した(8月まで募集)。建設の対象となる原子炉は、1基あたり160万KWまでの規模の軽水炉で、ブシェール発電所の近くに建設される予定であるとされている。国際社会による制裁措置がなされ、ブシェール発電所の進捗が滞っているこの時期に、あえて、新たな原子炉の建設を発表した理由については定かでないが、実際に応札する企業が出てくるとは考えにくい。
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【解説:政策調査室】
<中東近隣諸国の原子力発電導入に関しての記事>
4月16日付のInternational Herald Tribune紙は、中東近隣諸国の原子力発電の導入に向けての関心の高さを取り上げている。特に、中東近隣諸国で、最近、原子力への関心を示す動きが目立つが(トルコ、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦等)、記事によれば、米国政府や専門家は、こうした動きの背景には、単に、将来のエネルギー源の確保という表向きの理由とは別に、シーア派のイランが核兵器開発能力を持つことへの対抗意識があり、"スンニ派による爆弾"(Sunni Bomb)への潜在的欲求があるのではないかと見ている。
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これまで、中東近隣諸国で原子力発電を導入した国はない。(エジプトやトルコが、欧米から原子炉を導入する動きがあったが、その都度、資金不足等の理由により挫折)原子力ルネッサンスと言われる中でも、中東近隣諸国の間での原子力への関心は他の地域に較べ、突出しているように見えるが、こうした原子力に対する関心の高まりの背景に、記事が指摘するような、イランへの警戒、対抗意識があるとすれば、国際社会がイランの核保有を防ぐことができなかった場合、中東への更なる核拡散を招く可能性がある。最も恐るべきシナリオは、事実上の核兵器保有国であるパキスタン(スンニ派)と連携して、核兵器開発が行われることであろう。
【解説:政策調査室 山村】
<北朝鮮動向:エチオピアへの武器供与の可能性、米国が黙認との報道>
4月8日付けのニューヨーク・タイムズ紙は、今年の1月、米国政府が戦車の部品や他の軍装備品などを積んだ疑いのあるエチオピア船籍の船、Tekezeの積荷検査を行わず、エチオピアに対して国連安保理決議1718で禁じられている北朝鮮との武器取引を容認したと報道した。匿名の政府関係者の話として伝えた。
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- ニューヨーク・タイムズ紙"North Koreans Arm Ethiopiansas U.S. Assents"電子版4月8日
- ワシントン・ポスト紙"U.S. Allowed N.Korea Arms Sale"電子版4月8日
同紙は、ソマリアを含む「アフリカの角」と呼ばれる地域におけるイスラム原理主義の台頭を指摘し、その台頭に危機感を抱く米国とエチオピアの利害の一致が背景にあると指摘する。エチオピアを始めとするアフリカ諸国は、T-55戦車を始めとする旧ソ連の軍需品を保有するが、その軍備維持には、格安な値段で部品・装備を供給する北朝鮮に長年依存してきた。北朝鮮にとっても、貴重な外貨獲得の手段としてアフリカ諸国との武器取引は魅力的といえる。米国は、エチオピアが北朝鮮から購入した武器及び部品は2001年には2千万ドルにも及びその後も同程度の取引が継続したと想定している。
しかし、北朝鮮の核実験実施を受け採択された国連安保理決議1714は、全ての国連加盟国に対して、北朝鮮との部品を含む通常兵器(国際連合軍備登録制度上で大規模侵攻用の攻撃兵器として定義される戦車を含む7種類)の取引を禁止している。今回の北朝鮮からの積荷は検査されなかったため、積荷の種類については明らかではなく、安保理決議1718に違反していたかどうかも不明である。しかし、同紙は、米国が黙認した可能性を指摘し、ブッシュ政権が2002年にも同様にテロとの闘いを優先させ、北朝鮮からイエメンへのスカッド・ミサイルの移転を容認したことを前例にあげ、イスラム過激派に対する闘いを優先させる余り、北朝鮮政策では封じ込めを緩めるなどの妥協の産物であると評価した。米国の北朝鮮政策の今後を測る上での一つの材料となり得るエピソードかもしれない。
【解説:政策調査室 山村】
<北朝鮮動向:初期段階の措置の履行期限経過>
北朝鮮の核問題は、米国による金融制裁の全面解除容認という大幅な妥協がなされたにもかかわらず、寧辺の核関連施設の運転の停止・封印および国際原子力機関(IAEA)の査察官の受け入れなど、北朝鮮が取るべき初期段階の措置として定められた行動に向けての動きが見られないまま、4月14日の初期段階の履行期限が過ぎた。北朝鮮の核問題を協議する六者会合は、2月13日、北朝鮮の非核化を目標と掲げた2005年9月19日の共同声明の実現に向けた初期段階の措置を定め、その初期段階を60日以内に履行することで合意がなされた。六者会合の米国首席代表であるヒル国務次官補は、引き続き北朝鮮に合意事項に関する実質的な行動をとるよう求めていく考えを示した。
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- 日本経済新聞4月15日
アフマディネジャド大統領が、何を根拠として、核燃料の生産が商業規模に達したと述べているかは不明であるし、実際に、3,000基の遠心分離機が設置されたという証拠も確認されていない。2006年10月以来、イランは、それぞれ遠心分離機164基からなるカスケード2系統を運転しており、3月末までに、3,000基に拡大する計画が伝えられていた。その意味で、もし、実際に3,000基の遠心分離機が設置されたとすれば、既定路線に沿ったものであると言うことができる。
既定路線に沿ったものであると言うことができる。
国際安全保障・科学研究所(ISIS)のオルブライト所長が述べたところによれば、3,000基の遠心分離機があれば、1年以内に核弾頭を製造することが可能であるが、このように飛躍的にカスケードを拡張することが可能であるとはにわかに信じがたく、(実際に濃縮能力を拡大することができるかどうかは)、設置した遠心分離機がコンスタントに運転できるかという点によるところが大きいとしている。
ちなみに、ISISが3月15日に発表した、IAEAに報告されたUF6の注入量をベースにした分析によれば、ナタンツ濃縮施設の2系統からなるカスケードは、1日24時間フル稼働している状況に較べて、22%の稼働率で運転されていると推測している。
米国、欧州連合を始めとして国際社会は今回のイランの発表に対し、非難、懸念を表明するとともに、発表の中身の信憑性に関し、懐疑的な見方を示している。IAEAのエルバラダイ事務局長は、ナタンツの濃縮施設はまだ初期の段階であり、現在は、数百基の遠心分離機が稼動しているにすぎないと語っているし、また、ロシアのラブロフ外相は、ウラン濃縮が新たな遠心分離機を用いて開始されたということは確認されていないと述べている。
今回の発表は、国際社会に向けたものというよりは、最近、権力基盤の弱体化が取り沙汰されているアフマディネジャド大統領の国内向けのパフォーマンスであるとの見方が強い。
イランがこのまま強硬路線をとり続ければ、更なる国連安保理決議により、少しずつであっても制裁強化の方向に向かわざるを得ないが、制裁が効果をあげ始めたとしても、そのまま今の強硬路線を維持するのか、あるいは、より、西側との間での協調を模索する勢力により妥協が図られる余地があるのか、注目してみていく必要がある。
(情報ソース)
【解説:政策調査室 山村】