核不拡散ニュース No.0047 2007.04.05
<英国下院議会、トライデントのリプレースを決定>
3月14日、英国下院議会は、潜水艦弾道発射ミサイル「トライデント」の更新を賛成409票、反対161票で決定した。労働党から造反議員が多数出たが、最大野党の保守党が賛成し、可決された。
更新反対の中には、冷戦終結してソ連という脅威が存在しない中で核兵器が不要で、国際テロという脅威に対し核兵器は不向きである、という意見が多数占めた。
(情報ソース)
- 平成19年3月16日産経新聞、読売新聞
<イラン動向:国連安保理による追加制裁決議の採択>
3月24日、国際連合安全保障理事会(国連安保理)は、英仏独が提出した対イラン追加制裁決議(1747)を全会一致で採択した。今回の決議(1747)の主眼は、昨年12月の対イラン制裁決議(1737)と同様に、イランに60日以内に研究・開発を含むウラン濃縮・再処理関連活動並びに重水プロジェクトの全面停止を要求し、イランが従わなければ国連憲章7章41条に基づきさらなる措置を取ると警告していることにある。イランに対する決議の実効力を高めるため、決議1747では、資産凍結対象となる個人・団体リストを拡大し、イラン当局者の渡航の制限に関しては、前決議(1737)にある「通過を警戒する」という表現から、「入国や通過を警戒し、制限するよう要請する」と一歩踏み込んだ内容となっている。さらに、前決議になかった項目として、イランによる武器取引の禁止・制限と、イラン政府への新規の資金援助や融資の制限が加えられた。
決議(1747)は、イラン当局者の渡航を「禁止」から「制限」という表現で弱められたほか、中国が反対していたイランの取引企業に対する信用供与制限が削除されるなど、米欧が当初主張していたものより緩和された内容となったことで、制裁の効果に疑問を抱く意見もある。
しかし、制裁対象が拡大されたことで、米財務省を中心としたイランに対する経済的封じ込めに一層拍車がかかることは確実である。米財務省は、追加制裁採択に先立ち、今年の1月に、イランの弾道ミサイル開発資金の調達に関与したとしイランの国営大手銀行、バンク・セパに対し金融制裁を発動した。加えて、同省は、各国の金融機関に対して、イランの金融機関との取引に対する警告を広める活動を行ってきており、これまで世界中の40以上の金融機関がイランとの取引を撤廃あるいは中断したことを発表し、イランに対する圧力を高める成果として評価している。バンク・セパは、パリやフランクフルトを含む世界各地に290以上の支店を持ち、推定資産が約139億ドルとされるイラン第5位の大手銀行だが、米国の金融制裁発動による米ドルでの取引禁止、更に決議の制裁対象に指定されたことで、国際金融システムへのアクセスは大幅に制限され、同行と取引のあるイラン企業・団体への打撃は必至である。今回の追加制裁採択でイランのウラン濃縮活動を停止させられるかどうかの見通しはたたないが、イランを経済的に弱体化させる実効力については期待される。今後、悪化する経済がどのようにイラン国内に影響を及ぼすか、注目される。
(イランに対する制裁決議(1737)と追加制裁決議(1747)の比較については添付を参照のこと。)
(情報ソース)
- 米国財務省ホームページ
- 平成19年3月26日日本経済新聞
【解説:政策調査室 山村】
<中国の胡錦濤主席がロシアを訪問>
中国の胡錦濤主席は、3月27-29日、ロシアを訪問し、3月27日に行われたプーチン大統領との首脳会談の中で、政治、経済、科学技術、安全保障など広範囲にわたる分野における関係強化に合意するとともに、イラン、北朝鮮の核問題についても、共同で対処していくことが共同宣言の中に盛り込まれた。
(情報ソース)
- AP通信
- Channel News Asia
首脳会談後に、発表された共同宣言の中で、両首脳は、「イランの核問題の包括的、長期的かつ相互に受け入れ可能な解決を追求する」意向を表明し、イランに対し、「国連安保理決議やIAEA理事会の決定を履行する為の、必要かつ建設的な措置を実施する」よう求めているが、一方で、イランは、「NPTの下での義務を履行しつつ、原子力の平和利用を追求する権利を有する」としている。また、この問題が、「平和的手段のみによって」解決すべきであることを強調している。
中露両国は、イランに対して経済的利益を有していることもあり、国連安保理の場でのイランに対する厳しい措置には慎重な立場をとってきた。ただ、ロシアについては、イランによる支払いの遅れを理由として、3月に予定されていたブシェール原子力発電所への燃料の供給を行っていないなど、イランに対するスタンスをより欧米寄りに変えつつあるとの見方もできる。
発表された共同宣言の内容自体は、イラン問題に対するこれまでのスタンスを繰り返したにすぎず、特に注目に値する内容を含んでいるわけではないが、両国がいう、「原子力の平和利用を追求する権利」の中身、すなわち、仮に、今後の制裁強化によって、イランが濃縮活動の停止に応じた場合、その後の交渉の過程で、イランに対し、原子力平和利用の権利、特に濃縮についてどこまで認める用意があるのか(例えば、小規模な研究開発活動のようなものを認める余地があるか否か)は、今後の交渉に大きく影響する。
一方、北朝鮮問題に関して、両首脳は、「六者会合におけるポジティブな動きを歓迎し、この問題に対する、完全かつ包括的な解決を求める」と述べているが、北朝鮮に対するロシアの影響力は限られており、この声明がレトリック以上の実質的意味を有するとは考えにくい。
【解説:政策調査室 山村】
<GNEP日本原燃とアレバが提携>
日本原燃は3月29日、フランスの原子力大手アレバ社と連携して、米国のGNEP構想で提唱されている統合原子燃料取扱センター(CFTC)に対するプロジェクトに参画することを発表した。
アレバは、米国の原子力施設のエンジニアリング会社「ワシントン・グループ・インターナショナル」及び「BXXテクノロジーズ」の2社と連名で、GNEPの関心意思表明(EOI)に参加の意思表明を行っていた。
一方、日本原燃は、原子力機構や国内重電メーカー各社とともにEOIに参加していた。
今回の発表により、商業用再処理で安定した運転実績を持つアレバと、原子力機構からの技術導入によるガラス固化技術や世界で唯一で独自の保障措置システムを採用する日本原燃とが連携することで、双方の強みが発揮できると判断した模様。
新聞発表によれば、今回の連携について日本原燃の児島社長は、「新しい協力関係を構築する中で、サイクルの平和利用でリーダーシップを発揮したい」と語り、一方のアレバグループは、「最先端の技術と高度な保障措置、国際的な許認可経験を結集することが可能となり、CFTCの設計・建設・運転に生かすことができる」と話している。
(情報ソース)
- 平成19年3月30日電気新聞
既に核不拡散ニュースでお伝えしているように、米印原子力協力協定に関する交渉は7月に妥結したものの、共産党を中心とする左派政党の反対により、本協力の実現に向けた動きは3ヶ月以上にわたりストップしていた。
昨年12月、ブレア首相は「将来の英国の核抑止(The Future of the United Kingdom'sNuclear Deterrent)」と題する報告書を発表した。報告書は、今後20〜50年先の安全保障環境を正確に予測することは不可能であり、あらゆるリスクの可能性を排除せず引き続き核兵器を保有することが脅威に対する抑止になること、我々(英国)の核兵器は非国家主体を抑止することを目的に設計されていないが、核兵器や核技術をテロリストに譲渡する国家に対し影響を持つ、と述べている。また、報告書では、原子力潜水艦を現状維持の4隻にするのか、3隻に減らすかについては、潜水艦の詳細な設計が分かり次第、決定されると述べられている。
同議会が可決したのは、上記報告書で示された政府の方針の承認である。法的には、議会投票は不要で内閣自ら決定することが出来たが、ブレア首相が議会投票することを決定した。
英国は1998年4月6日に包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准した。CTBTは未発効だが、英国は核実験のモラトリアムを維持しているため、実質的に爆発による新核弾頭の実験は禁止されているといえる。代わりに、Reliable Replacement Warhead(RRW)注1と称される、コンピューターによるシミュレーションが行われる。このシミュレーションは、トライデントの設計、製造を所管とするAWE(Atomic Weapons Establishment)の本部Aldermaston注2で行われる予定である。
なお、トライデント更新反対論には、上記以外の主張として、早急な更新の決定は2010年のNPT再検討会議における英国の影響力を低下させる、核兵器のような兵器は軍民分けることなく無差別に殺傷するため国際法の違反である、技術的に米国に依存しているところが大きく実質的にトライデントは独立したシステムではない、米国が軍事技術を一式提供するのは米外交政策に英国を従属させるためである、などが挙げられていた。
注1)米国の同名プログラムが存在する。英国のRRWは米国のそれと類似し、ワシントンの情報筋によれば、英国のほうが米国よりも進んでいるといわれる。
注2)BNFL、米国ロッキードマーチン社、Serco社によるコンソーシアムが運営している。
(情報ソース)
【解説:政策調査室 大塚】