核不拡散ニュース No.0046 2007.03.20
<米国、新型核弾頭「信頼性のある代替核弾頭(RRW)」基本設計にLLNL案を採用>
3月2日米国エネルギー省国家核安全保障庁(NNSA: National Nuclear Security Administration)は、既存の核弾頭の老朽化対応に必要として、検討を進めてきた「信頼性のある代替核弾頭(RRW:Reliable Replacement Warhead)」計画において、ローレンス・リバモア研究所案の採用を核兵器評議会(the Nuclear Weapons Council (NWC))が承認したことを発表した。
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<北朝鮮動向:エルバラダイIAEA事務局長の訪朝>
3月13-14日の二日間、エルバラダイIAEA事務局長は、2月13日の六者会合での合意事項履行にかかる「IAEAの監視・検証」措置について協議するため平壌を訪れた。IAEA事務局長としては15年ぶりの訪朝となった。原子力総局の李済善(リ・ジェソン)総局長、金衡俊(キム・ヒョンジュン)外務次官、ならびに北朝鮮最高人民会議のナンバー2、金英大(キム・ヨンデ)副委員長らと会談した。金融制裁解除の進展を見守るとする北朝鮮側の主張のため、核関連施設の停止・封鎖の日程・手順とその監視・検証について具体的に詰めるには至らなかった。しかし、エルバラダイ事務局長は、北朝鮮が2月13日の六者合意を「全面的に順守する」姿勢を見せたことを強調し、北朝鮮とIAEAの関係正常化に向けた「長いプロセスの道を開くもの」と一定の評価を示した。
(情報ソース)
2月13日の合意事項は、初期段階の措置として、60日以内に(4月半ばまでに)、再処理施設を含む核施設を、最終的に放棄することを目的として、停止し(shut down)封鎖(seal)すること、ならびに、IAEAと北朝鮮との合意に準じた監視と検証を行うためのIAEA要員の復帰を実施することを北朝鮮に求めている。
鍵となる課題は、「最終的に放棄することを目的」とした核関連施設の停止・封鎖のために、具体的にどの程度の権限がIAEAに認められるかである。1994年の米朝枠組合意においても、IAEAは北朝鮮の核関連施設・活動の「凍結」を監視・検証する役割を担ったが、その際のIAEAの役割は、「凍結合意に含まれている施設で運転活動がないこと、現存する或いは新たな施設において建設作業が行われないこと、5MWe原子炉の使用済燃料は保管され、北朝鮮内で再処理されないこと、核物質・核関連施設内の装置の移転、核関連施設のオペレーターによる必要な保守作業ならびに施設からの核物質の移転は、必ずIAEA査察官の監督の下でなされることを監視すること」にあり、放射科学研究所(再処理施設)での液体廃棄物の計量・組成を調べること、ならびに抽出されたプルトニウムの総量を見積もるための運転記録の検認や計量などの措置を取ることを北朝鮮はIAEAに認めなかったという経緯がある。
今回の合意事項の履行にある「最終的に放棄することを目的」とした核関連施設の停止・封鎖には、まず、現存するプルトニウムの実態(使用済燃料中の量と実際に抽出された量、それぞれの所在、など)を把握し、IAEA監視下に置くことが非常に重要であるが、初期段階の措置において、北朝鮮がその権限をIAEAに認めるかどうかの見通しはたっていない。どの様な監視・検認をIAEAに許すかは、北朝鮮の核廃棄の意志をはかる一つのバロメーターといえ、注目される。
(参考資料)
【報告:政策調査室 濱田】
<北朝鮮動向:金融制裁と六者会合の動向>
3月14日、米財務省は、マカオにある銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)に対する「米国愛国法」セクション311に準じた金融制裁に関する結論を下した。米財務省は、マカオ当局との協力で行った約1年半に及ぶBDAに対する調査の結果、BDAのマネーロンダリング(資金洗浄)関与は明白であると結論付けた。この結論の30日以内の発効をもって、全ての米金融機関とBDAとの直接的・間接的な金融取引が禁止されることになる。その一方で、BDAにある現在凍結中の約50の北朝鮮関連口座(約2,500万ドル)の今後の取扱いはマカオ当局に委ねられることになった。
19日には、北京を訪問中のグレーザー米財務副次官補(テロ資金・金融犯罪担当)は、BDAで凍結中の北朝鮮資金が中国銀行に移管され、違法行為に用いられないことを中国当局の監視下で確認することを条件として全額凍結解除されると発表した。凍結解除と中国銀行への移管の具体的な日程については定かではないが、マカオ金融管理局と中国当局との調整が済み次第明らかになる見通しだ。
3月19日に開催された六者会合の基調演説において、北朝鮮代表の金柱官(キム・ゲグァン)外務次官は、核関連活動の停止のためにはBDAの資金凍結の全面解除を「確認」する必要があるとの見解を示した。21日の会合最終日に向けて、金融制裁の解除の動きが、引き続き北朝鮮の出方を占う要素として大きな影響を持つと思われる。
核関連施設の停止・封鎖とIAEA査察官の受け入れ実現までの猶予が1ヶ月を切った現在、19日からの六者会合において実質的取組において進展が図られなければ、2月13日の合意事項の履行に支障をきたし、合意自体が無効化する可能性も出てくることから、本会合の位置付けは非常に重要だと認識される。金融制裁をめぐる動きと並行し、六者会合の展開が注目される。
RRW計画は、核兵器備蓄の安全性、信頼性について長期的な保証を得るため、新型核弾頭の設計を行い、その設計に基づく新型核弾頭を製造・既存弾頭(潜水艦発射弾道ミサイル (Submarine Launched Ballistic Missiles、SLBM)用弾頭)との交換を行うもので、その調査・基本設計について国防総省及びエネルギー省幹部で構成されるNWCにおいて過去1.5年ほど検討が行われてきた。
基本設計案に関して昨年11月から、ローレンス・リバモア・ロスアラモス両研究所の設計案が比較・検討されていたが、リバモア案は過去の地下核実験経験に基づいたもので、設計を確認するのに新たな地下核実験を必要としないこと、最新技術を使った設計・製造技術により、核弾頭の安全性を改善できることから、採用された。ロスアラモス案では革新的な設計があり、部分的には今後リバモア案とともに検討されるものの、基本的にはリバモア案をベースにNNSAと米国海軍とでSLBM用弾頭の開発が進められることとなった。
NNSAは、2008会計年度は8,880万ドルの要求(2007会計年度2,770万ドルの要求、約3.2倍)を行っており、2006年からの調査段階から、具体的な新型核弾頭開発に踏み込む段階になってきたといえる。
【解説:技術開発支援室 橋本】
このような動きは、核軍縮の流れに逆行するものであり、核保有国の新たな開発競争を引き起こす可能性すらあり、遺憾である。
【解説:計画推進室 直井】