核不拡散ニュース No.0040 2006.12.18
<北朝鮮動向:六者会合再開>
北朝鮮の核問題を協議する六者会合が、12月18日に、北京にて、1年1ヶ月ぶり再開されることとなった。報道によると、米国は、同会合の再開を巡って、2008年末までのブッシュ政権任期中に2005年9月の六者会合共同声明に明記された北朝鮮の核放棄を含む行動目標を実行に移すことを前提に、
- 核関連施設の稼動停止、
- 豊渓里などの核実験場の閉鎖、
- 全ての核関連施設と活動の申告、
- 核関連施設へのIAEA
査察の受け入れなど主に4項目を条件として示す一方で、核放棄の見返りとして実施するエネルギー支援・経済援助などを具体的に提示した模様。北朝鮮は態度を保留し米朝の隔たりが残る中、中国が米朝に対して独自案を提案し、今回の再開に至った模様。
中国案は、核関連施設の稼動停止や査察の受け入れなどを求めていると報道されるが、それらの実行に関しては会合の中で協議することを想定していると思われる。また、中国案には、米朝、日朝国交正常化などに関する作業部会の設置などが盛り込まれており、今後、核兵器・核開発計画の廃棄や検証、エネルギー支援、米朝・日朝などの国交正常化問題などが並行して協議される見通しとなった。
(情報ソース)
- ニューヨーク・タイムズ紙 12月6日
- 日本経済新聞 12月2日、12日、
<イラン動向:決議案、安保理理事会に配布>
12月8日、英仏独は、イランの核問題に関して、ロシアの要望をある程度受け入れ制裁内容を緩和した制裁決議案を安保理理事国に配布した。11月28日に同3カ国が提出した案では、イランのブシェール原発は対象外とする一方で、同原発への核燃料供給は監視対象として含まれていたが、ロシアの強い反発を受け、今回提出された修正決議案ではブシェール原発に関する言及は一切含まれていない。中露は今後も決議案に修正を試みることが考えられるが、米国務省のマコーミック報道官は「溝は狭まり始めた。舞台はニューヨークに移りつつある。」との見解を示し、イラン問題が近々協議される可能性を示唆した。
(情報ソース)
【報告:政策調査室】
<「米印原子力平和協力法案」が米国議会上下両院にて可決>
米議会での動向が注目されていた、「米印原子力平和協力法案」は、12月7日、両院協議会での調整の結果、上下両院で11月、7月にそれぞれ可決された法案の一本化がなされ、12月8日夜から9日早朝にかけて上下両院の本会議で可決された。近々、ブッシュ大統領の署名を経て成立する見込みである。
ホワイトハウスは、9日、本法案が、米印間の戦略関係を強化し、両国に貴重な利益をもたらすものとする歓迎声明を発出した。一方、インド外務省も、歓迎声明を発出したが、その中で、法案の中に米印協力とは異質かつ、他国の政策に介入するような条項注1が含まれていることを指摘することにより、米国を牽制している。また、声明の中では、インドの義務及びコミットメントは、今回承認された米国国内法ではなく、あくまでも米印原子力協力協定で規定されるものであり、同協定の条項が2005年7月の米印共同声明、2006年3月のインドの原子力施設の軍民分離計画に沿ったものとなるよう、早期締結に向けて、米国側と協議していきたいとの意向が述べられている。
注1)暗に、イランの核開発の封じ込めに対するインドの協力を米印協力の要件とする条項を指していると見なされている。解説参照
(情報ソース)
本法案は、米国の原子力法上、非核兵器国との間で原子力平和利用に関する協力を実施するにあたって、要件とされている、包括的保障措置の受け入れに関して、インドを例外扱いすることを一定の条件の下に認める権限を大統領に与えるものである。両院協議会で一本化された法案は、上下両院でそれぞれ可決されたバージョンと較べて、全体的に、インドに要求する条件を緩くしたものとなっている。これは、11月に行われた米印原子力協力協定の交渉の中で、インド側が、上下両院でそれぞれ可決されたバージョンに対し、強い懸念を示したことにより、国務省が議会に対し、修正を働きかけたことによるものとされている。
特に、上院で可決された法案には、イランの核計画を封じ込めることなどを目的とした、米国や国際社会の取り組みに、インドが、十分かつ積極的に参加していることを大統領が認定することが協力の条件として規定されていたが、両院で合意した法案では、協力の条件からは除外され、大統領が議会に提出すべき情報として、インドがこうした取組みに十分かつ積極的に参加する為にとった特別な措置の記述、評価を要求するにとどまっている。
それにもかかわらず、インドが外務省声明の中で、本条項に暗に言及されているのは、外交政策の手足を縛られることに対するインドの警戒感が強いことを示している。
上下両院で異なっていた条項についての調整状況は以下の通りである。
・上院の当初の法案に附属していた「米国によるIAEA追加議定書履行法案 」注1の取り扱い
両院協議会で合意されたバージョンでもそのまま残された。
・ウラン濃縮、再処理、重水生産に関連する機器、物質、技術のインドへの輸出、移転等の取り扱い
上院の当初の法案を基本的に踏襲し、エンドユーザーとなる施設が、IAEAにより認められたプログラムに参加する、多国間管理施設であること、あるいは、核拡散抵抗性が高い核燃料サイクル開発の為の二国間あるいは多国間協力プログラムに関連する輸出、移転等であることなど、厳しい条件を満たす場合にのみ認められる。
・インドに対する原子力法上の例外扱いを認める条件の一つとして、NSGがガイドライン対象品目のインドへの供給を認めることを決定すべきことが規定されているが、その決定の中での、インド以外で包括的保障措置を受けていない国の取り扱い上院の当初の法案では、そうしたNSGの決定には、インド以外でIAEAの包括的保障措置を受けていない国に対するガイドライン品目の供給の許可は含まれるべきではないとの規定があったが、削除された。
注1)追加議定書は2004年に上院で承認されたが、履行する為の法案が未整備である為、発効していない。
インド国内では、野党BJP(インド人民党)が、両院協議会で合意された法案はインドの核政策に過度の制約をもたらすものである一方、インドの原子炉に対する燃料が中断することなく供給されることを保証するものではないという点において不公平であることについて批判し、連立パートナーである共産党も、インドの外交政策を縛るものであることについて懸念を示している。ただし、インドの国内法制度においては、米印原子力協力協定に関し、議会での承認は必要とされていないことから、このような批判、懸念が、協定の発効を阻害する要因となるとは考えにくい。
今後、米印間の原子力協力協定の交渉が本格化するものと考えられるが、インド外務省が声明の中で述べているように、2005年7月18日の米印共同声明、2006年3月2日の原子力施設の軍民分離合意の内容を超えた制約をインドが受け入れるか否かが鍵となる。
米印協力を実現するにあたっては、NSGがガイドライン注2対象品目のインドへの供給を認めることを決定することが必要であるが、4月に南アフリカで開催される予定のNSG総会において、コンセンサスが得られるかどうかが焦点となる。インドのシン首相の訪日にあたり、日本は、従来の立場を転換し、米印間の原子力協力への支持を表明する方向で調整に入った旨、事前の報道により伝えられており、首脳会談の動向が注目されていた。シン首相も14日に行われた衆議院本会議での演説の中で、インドが軍縮にコミットし続けることに言及しつつ、民生原子力利用に対するに日本の支持を求めたが、結局、首脳会談の中で、支持表明はなされず、日本の立場は検討中であること、インドが国際社会の関心に応える形でIAEAとの保障措置協定の交渉等に対応していくことが重要であることを伝えるにとどまった。既に英仏露などは支持を明らかにしており、胡錦濤主席の訪印時に原子力協力に合意した中国の動向と合わせ、日本の動向は、これまで懸念を表明してきた国、あるいは態度を保留してきた国に対し、大きな影響を与えるものと考えられ、日本がどのタイミングで本問題に対する立場を明らかにするか、注目されるところである。
注2)原則、受領国に対し、包括的保障措置の受け入れを要求している。
【報告:政策調査室 山村】
<英国、将来の核抑止力に関する方針を発表>
英国ブレア首相は、「将来の英国の核抑止(The Future of the United Kingdom's Nuclear Deterrent)」と題する報告書を発表した。今後20年〜50年先の安全保障環境を正確に予測することは不可能で、あらゆるリスクの可能性を排除せず、引き続き核兵器を保有することが脅威に対する抑止となる方針が述べられている。また、核兵器は非国家主体を抑止できないにせよ、核兵器や核技術をテロリストに渡す国家に対して影響を持つ、と述べられている。
報告書の焦点は、2020年初めごろに老朽化により寿命を迎える、英国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「トライデント」を搭載する原子力潜水艦4隻の更新である。更新には、設計、製造など一連の過程でおよそ17年の歳月を必要としているため、この時期に方針を決定しておく必要があるという。費用は4隻で150億ポンド〜200億ポンドかかる見込みである。トライデントの耐用年数延長も計画しており、実施されれば2040年初期まで配備可能となる。
一方、4隻全てを更新するのではなく、抑止力を維持し配備できるのであれば、3隻のみ更新する可能性、搭載する核弾頭を合計160発以下にする旨が述べられており、核軍縮への姿勢も示している。予定では、来年3月の下院において、これらの更新の是非について議決される。
(情報ソース)
今年6月下旬、下院の防衛委員会は、冷戦後における核の脅威の減少や、テロとの戦いで核抑止力を疑問とする報告書を出しており、政府の方針は冷戦終結、ポスト・セプテンバー・イレブンという安全保障環境の中で核抑止政策をどのように位置づけるかという点で注目されていた。方針は、核抑止力を放棄しないという点では予想通りの結果であったが、同時に核軍縮の姿勢を示したことは、他の核保有国だけでなく、核軍縮の進展状況に不満を持つ非核保有国に対しても、NPT核保有国として一定の模範を示したものとして評価できよう。
英国内では、野党保守党も核抑止力の重要性について認識していることから、下院で方針が否決される可能性は少ないと思われる。
【報告:政策調査室】