核不拡散ニュース No.0036 2006.11.02
<北朝鮮が六者会合復帰に合意>
中国外務省の声明によると、北朝鮮は、31日、北京で極秘裏に開催された、中国、米国、北朝鮮の3カ国間の会合で、可及的速やかに六者会合に復帰することに合意した。六者会合における米国の首席代表である、ヒル国務次官(東アジア・太平洋担当)は記者団に対し、米国が求めていた無条件での復帰を受け入れたと述べた。また、ヒル次官補は「11月か12月に再開できる」と年内再開の見通しを示した。31日の非公式会合は、中国の呼びかけで行われ、ヒル国務次官補と北朝鮮の金桂寛・外務次官が出席。中国の武大偉・外務次官も同席したと見られる。
(情報ソース)
<北朝鮮がプルトニウム50キロ抽出と韓国軍当局が推定>
韓国国防部作成の報告書によると、北朝鮮は、最大で、核兵器7個分に相当する、50kgのプルトニウムを抽出したと分析している。実験直後の10日に開催された、軍幹部の会合の際の資料として配布されたものを26日、野党ハンナラ党議員が明らかにした。
(情報ソース)
北朝鮮がこれまでにどれだけの兵器級プルトニウムを抽出したかについては、特に、1994年の米朝枠組み合意以前のプルトニウム抽出量、2003年に5MWの黒鉛減速炉を再稼動させた後、発生した使用済燃料の再処理の状況に不確定要素がある為、確実なことは言えない。2006年9月28日に公表された下院情報委員会スタッフによる報告書(米国の情報機関のレビューを経たものとされている。)によれば、北朝鮮は90年代に1-2個の核兵器分のプルトニウムを抽出したとされており、また、2003年以降、再処理を開始したとされている、使用済燃料8,000本からは、核兵器約5個分のプルトニウムが得られるとしている。また、米国のISIS(科学国際安全保障研究所)の分析によれば、北朝鮮が2006年の半ばまでに抽出したであろうプルトニウムの量として、20-53kgという数字(同研究所によれば、4-13個の核兵器分に相当)をあげている。
いずれにせよ、北朝鮮が保有しているプルトニウムは数個から10数個分の核兵器に相当する分であることは大方の分析の一致するところであり、5MWの黒鉛減速炉が順調に稼動し続けたとしても、年間、核兵器1個分程度のプルトニウムの増加ペースにとどまる。ただし、現在、建設再開が宣言されている、50MW(寧辺)、200MW(泰山)の黒鉛減速炉が運転を開始すれば、プルトニウムの生産ペースは飛躍的に増大することになる。(前述の下院情報委員会スタッフの報告書が引用している、米国情報機関の情報によれば、両原子炉は、年間で核兵器50個分に相当する、275kgのプルトニウムの生産能力を有するとしている。)
【報告:政策調査室 山村】
<日本政府が核実験の実施を事実上認定>
日本政府は10月27日、北朝鮮が9日に発表した核実験について「核実験を行った蓋然(がいぜん)性が極めて高いと判断するに至った」として、核実験の実施を事実上認定する見解を発表した。関係省庁の専門家による会議において、米国及び韓国の発表内容も踏まえつつ、我が国独自に収集した情報や各国から提供された情報等を改めて総合的に分析した結果の判断としている。
(情報ソース)
- 読売新聞等(10/28)
【報告:政策調査室】
<対イラン制裁案を巡る動向>
イランの核兵器開発問題を巡り、英仏独が対イラン制裁決議案を安保理常任理事国に提示した。内容は、(1)核、弾道ミサイルに寄与する物資、技術、資金の移転禁止、(2)イランの核、弾道ミサイル計画関係者の資産凍結、渡航禁止、(3)IAEAによる技術協力の制限、を含む。また、採択後30日以内に濃縮活動を停止しなければ、段階的に制裁を強化するとしている。
ブシェール原子力発電所の建設に協力するロシアを配慮し、同原発は草案から外されたが、ロシアが来年3月から開始する同発電所への核燃料供給は対象となっている。ロシアのラブロフ外相は、従来の対話路線にそぐわないとして同案に反対している。なお、ドイツ政府高官によれば、制裁と同時に最低6ヶ月間のウラン濃縮活動停止を条件に、イランとの交渉再開に応じる方針だという。6ヶ月間の根拠は、IAEAが平和利用であることを明確に断定するまでの最低限度だという。
(情報ソース)
- 読売新聞(10/27)
- 毎日新聞HP(10/27)
- Guardian HP, October 26, 2006 "Russia opposes draft UN resolution on Iran"
- Reuters HP, October 26, 2006 "Russia criticizes new U.N. Iran resolution"
10月26日、マコーミック米国務省報道官は決議案に対する支持を表明しており、米国は、英仏独とともに制裁決議案の可決を目指している。ただし、ロシアによるブシェール原子力発電所への協力については否定的で、決議案の更なる強化も求めているとされる。
しかし、ロシアのシンクタンク・政策研究センター(The Center for Policy Studies)のKhlopkov氏が述べるように、「エネルギー分野での協力を制裁の対象とするか否かは、ロシアにとって非常に重要」であり、制裁の範囲が建設費8億ドルのブシェール原子力発電所に関わるものである以上、ロシアが今回の決議案に賛成する見通しは低いと思われる。
ロシアと同様に制裁に慎重な中国は、現在、決議案を分析しているとされる。制裁決議案は、対北朝鮮制裁決議のように、段階を追って、制裁を強化していくと警告しているが、まずは第一段階の制裁決議に合意できるかどうかが鍵となる。
今後の制裁決議案は、ブシェール原子力発電所を巡る調整が焦点となるだろう。そして、ロシアがイランの核兵器開発問題をどのように対処するかによって、今年7月15日に米露両首脳が共同声明において発表した二国間の原子力協力協定交渉の行方にも影響がでることも考えられる。
【報告:政策調査室 大塚】
<イラン、2つめのユニットのカスケードを設置>
10月25日、イランがナタンツの濃縮施設で10月11日前後に遠心分離機164機からなる2つめのカスケードを設置していたことが判明した。28日には、イラン原子力庁の傘下にある核科学技術研究所のガンナディ所長が、六フッ化ウランを注入して濃縮度3〜5%の低濃縮ウランを製造したことを明らかにした。IAEAの査察官が現地入りしているという。
(情報ソース)
- 産経新聞HP(10/28)
- 読売新聞HP(10/28)
イランの濃縮実験は、今年4月11日に続く2回目である。その時は、イランは遠心分離機164機のカスケードを約330ユニット組み、全体で54,000機の遠心分離機を連ねる計画が明らかになった。また、2007年3月までに遠心分離機を3,000機に増やす計画をIAEAに報告していた。
この計画通りに事を運んだ場合、月に200〜300機の遠心分離機を増やす必要がある。しかし、実際には半年経ってようやく2つめのカスケードを組んだ程度であることから、イランは遠心分離機の製造に苦心していることが窺える。なお、90%以上の高濃縮ウランを25kg(核爆弾1つを生産するのにおよそ必要な高濃縮ウランの量)生産するには、3,000機の遠心分離機だと約1ヶ月程度でできる。(2006年4月のイランの濃縮実験については、【核不拡散ニュースNo.0014】を参照)
北朝鮮の六者会合への復帰は、外交上の主導権を発揮した中国及びライス長官を始めとする、米国の外交重視派の得点であるということができるが、今後は、既に実行に移されつつある制裁を緩和するか否かで、日米と中露韓の間で外交上のせめぎ合いが始まることが予想される。また、たとえ六者会合が開催されたとしても、もし北朝鮮が、自らが核兵器国であることを前提として、交渉に臨むのであれば、それを認めないであろう他の5カ国との間で、実質的な進展を得ることは難しいものと考える。
【報告:政策調査室 山村】