核不拡散ニュース No.0034 2006.10.18
<北朝鮮動向:10月16‐17日>
北朝鮮核問題をめぐる動向として北朝鮮側と米国側からの主な発言・声明を以下にまとめる。
10月16日に、北朝鮮のナンバー2とされる金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が、「わが軍隊と人民を大きく鼓舞し、喜びを与えた歴史的な出来事であり、 朝鮮半島と周辺地域の平和と安全を守ることに寄与した」とし、核実験は「米国の孤立圧殺策動が極限点を超えた情勢の下で、核戦争の挑発と制裁・圧力の策動に対処する新たな対抗措置」との声明を発した。朝鮮中央通信(東京)が平壌放送の報道として伝えた。
また同日、ネグロポンテ米国家情報長官は、北朝鮮が核実験したことを確認したと発表。11日に気象観測機 「WC135」(コンスタントフェニックス)で採取した大気中のサンプルから放射性物質が検出されたことにより、核実験を確認したとし、分析した結果より核実験の爆発はTNT火薬相当で1キロトン未満 (初期型の核爆弾の爆発規模はTNT火薬相当で5キロトン以上) であったこと、 場所は豊渓里近くであったとの見解を発表した。発表は実験の成否については言及しておらず、採取された放射性物質の詳細などについては公開されていない。
10月17日、朝鮮中央通信は北朝鮮外務省報道官の声明を発表。対北朝鮮安保理決議に対して、「米国のシナリオに沿った宣戦布告」と非難し、制裁決議について始めて言及した。また、「堂々たる核保有国になった今日、誰かの圧力や脅しに屈服するというのは話にもならない」 として 「核保有国」 の立場を強調した上で、「我々は平和を望むが、 戦争を恐れない。 対話を望むが対決にも常に準備している」とも述べ、米国の出方次第あると滲ませた。
<米国政府の核不拡散関係者の人事について>
最近、米国政府内の核不拡散関連のポストにおいて、いくつか人事異動があったので、まとめて報告する。
国務省(DOS)では、 2006年5月、核不拡散担当次官補にチャールズ・ジョン・ルード氏が任命され、9月初めに上院外交委員会により承認された。同氏はまだ30代半ばという異例の若さであり、これまでは国防総省の次官補代理のポストに就いていた。また、エネルギー省(DOE)では、2006年8月18日、原子力科学技術局の次長にポール・リソウスキー氏が任命された。彼は、ロスアラモス国立研究所の中にある中性子科学センターの所長であった。 今後は、DOE原子力科学技術局次長として主にGNEPを担当することになる。
DOE国家核安全保障庁(NNSA)では、 2006年9月7日、防衛・核不拡散担当の次官補として、ウィリアム・トビー氏が就任した。彼は、前職は、国家安全保障会議の拡散対抗戦略担当の部長として、イラン、北朝鮮、リビアにおける核不拡散問題を担当していた。
(情報ソース)
- 日本経済新聞 10月17日、18日
- 米国国家情報省ホームページ
【報告:政策調査室 山村】
<GNEP-EOIへの提案者名の公表>
米国内及び海外からCFTC及びABRに対して18の関心意思表明があったGNEPのEOIについて、DOEは6日にEOI提案者リストをGNEPウェブサイトにて下記のように公開した。提案者に対して事前の名前公表の可否を問い、了解を得た者のみの公開となった。なお、米議会での発言で明らかとなったAREVA社(米企業WGI社とBWX Tech.社との共同提案)の名前は含まれていない。
- AECL Technologies, Inc.(カナダ)
- Belgonucleaire(ベルギー)
- Electric Power Research Institute(米)
- Energy Solutions(米:パイプライン運営ソフト開発会社)
- Fuel Cycle Concepts(不明)
- General Atomics(米)
- General Electric(米)
- Japan Atomic Energy Agency(日)
- Kiewit Federal Group, Inc.(米:ゼネコン)
- Shaw Group(米)
- Thorium Power, Inc.(米:海軍用原子炉及び民生原子力開発)
- Mr. William Peterson(不明)
知的所有権の関係から公開された企業等に関するより詳細な情報は明らかとなっておらず、DOEは次の対応を検討しているとのこと。
(情報ソース)
【報告:技術開発支援室 鈴木】
<市民アカデミア2006「新しい核不拡散体制を求めて」の第1回を開催>
10月6日(金)、市民アカデミア2006「新しい核不拡散体制を求めて」の第1回講義「NPT体制とIAEAの役割」が開催され、政策調査室から山村が出席した。 本講座は、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センターの主催による一般市民向けの講座である。吉田康彦氏(同センター客員教授、元IAEA広報部長)を講師とする第1回目の講義は、 NPT/IAEA を中心とする核不拡散体制の誕生とこれまでの経緯を振り返るもので、11月と12月に開催される第2回講義(講師:遠藤前原子力委員長代理、テーマ「ゆらぐ核不拡散体制とその立て直し-日本の対応」)、第3回講義(講師:鈴木達治郎東大大学院客員教授、テーマ「新核不拡散国際秩序を求めて」)につなげる基礎編として位置づけられている。第1回講義の出席者は、25名程度であり、電力、メーカー、マスコミ、政府関係者の他に、講師である吉田氏との個人的なつながりで出席した人も目立った。
今回の講義そのものは、核不拡散体制の歴史を整理するものであり、その点においては、新味には乏しかったが、今日的課題として、北朝鮮問題にも言及されており、興味深かった点については以下の通りである。
まず、10月6日時点で動向が取りざたされていた核実験については、10月10日ぐらいまでが実験を実施するかどうかの山場であり、それまでに動きがなければ、しばらく実施しないのではないかという観測を述べていたことが印象に残る。観測の根拠については明かされていないが、北朝鮮が実際に10月9日に核実験を実施したことに鑑みると、この観測は結果的に正しかったことになる。
また、1994年の米朝枠組み合意が履行されなかった点について、責任は北朝鮮だけでなく、最初から合意内容を履行する意思が薄かった米国にもあるとし、2002年に発覚したウラン濃縮活動にも一定の理解を示していた。
今後の見通しとして、北朝鮮が核実験を実施したとしても、結局のところは米朝による直接対話が唯一の解決方法であるとして、その前提としての、双方の信頼関係の再構築の必要性を強調していた。他方で、北朝鮮がリビアのように核兵器を放棄する可能性については否定していたが、具体的な解決方策は示されなかった。
次回以降、核不拡散体制の現状の課題、今後の展望をテーマに議論が行われる予定であり、引き続き、フォローしていきたい。
【報告:政策調査室 濱田】