核不拡散ニュース No.0031 2006.10.05
<イラン動向:ロシアのイラン原子力発電所建設協力とEUとの協議>
9月26日、ロシアのキリエンコ原子力庁長官は訪露中のアガザデ・イラン副大統領兼原子力庁長官と会談し、同国が建設協力を約束しているブシェール原子力発電所(BNPP: Bushehr Nuclear Power Plant) の稼動開始時期と核燃料の供給時期について合意に至った。
AP通信がタス通信の報道として伝えたところによると、ロシア国営原子力機関アトムストロイエクスポート(Atomstroiexport) とイラン原子力庁は、同原子炉の起動時期を2007年9月に、80トンの核燃料供給時期を同年3月に、それぞれ設定した協定に署名した。本協定通りに進むと、2007年11月から電力供給が始まることになる。
完成すればイラン初の原子力発電所となる。ブシェール原子力発電所は、イラン中西部のペルシャ湾岸都市、ブシェールに位置し、低濃縮酸化ウラン (U-235が最高5%程度)を燃料とする1,000MW(e)軽水炉である。
1995年に当時のロシア連邦原子力省(MINATOM)が約8億ドルで建設協力することでイランと合意し、2005年の完成が予定されていたが、イランの核兵器開発を懸念する米国の圧力などで建設協力は中断され、完成の見通しはたっていなかった。しかし、今回建設工程が合意されたことにより、当初の予定より約一年遅れた完成を目指すことになる。
(情報ソース)
- AP通信 9月26日、日本経済新聞 9月27日、10月2日、3日、CBCニュース電子版 2月28日、「イラン自由支援法(Iran Freedom Support Act)」米国議会ホームページ
<エジプトが原子力導入を計画>
8月22日、エジプトのホスニ・ムバラク大統領と息子ガマル・ムバラク氏が、党の年次大会で原子力計画の必要性を論じた結果、24日に政府は20年間開かれなかった最高エネルギー委員会を初めて開き、10年以内に原子力発電所を稼動させることを決定した。
地中海沿いのダブアでIAEAの監視のもと、 1,000MWの原子力発電プラントや600MWの原子力発電所3基を建設する予定である。これに対し駐エジプト米国大使は「エジプトは核兵器計画を有するイランとは異なり、 米国として協力することは可能。」と対エジプト原子力協力に積極的な姿勢を示した。
(情報ソース)
- http://www.reuter.com "U.S. could cooperate with Egypt on nuclear energy:envoy" Sept. 21
- http://www.thestate.com "Egypt developing nuclear program" Sept. 27
エジプトの電力は石油や天然ガスに依存しているが、エジプトが原子力を代替エネルギーとして導入が必要と判断した背景には、石油輸出余力の低下、国内エネルギー需要の増加、石油価格の高騰、といった事情があると伝えられる。
エジプトは、 1979年の米国を仲介としたイスラエルとの平和条約を締結して以来、米国と同盟関係にあり、イスラエルに次ぐ世界最大の援助を米国から受けている。米国が協力に前向きなのは、こうした背景もあるようだ。
2005年10月、 エジプトは過去に未申告の原子力関連活動があったとして問題となった。その後のIAEAの調査で、核拡散の懸念はなく医療用の研究目的であることが認められたが、イラン核問題などで緊張が続く中東地域で原子力を導入するためには、エジプトにはIAEAや国際社会との更なる協調を示し国際的信頼を獲得していくことが望まれる。
(備考)
現在、エジプトには1961年に旧ソ連の支援で建設された研究炉と、1998年にアルゼンチンの企業の協力の下で建設された研究炉がある。
【報告:政策調査室 大塚】
<米印原子力協力法案の上院本会議での採決は中間選挙後に先送り>
米国議会は9月29日に会期を終了し、11月7日に行われる中間選挙に向けて、休会に入った。動向が注目されていた米印原子力協力法案(インドへの原子力資機材等の輸出にあたって原子力法の例外的取扱いを認める法案)の上院本会議での審議は休会明けに持ち越しとなった。政権側は再三にわたり、中間選挙前に本法案を採決するよう、議会指導部に働きかけたが、成功しなかった。
報道等によると、本法案が中間選挙前の会期中に採決されなかった理由として、選挙戦略上の思惑から、国内問題に関する法案の処理が優先されたこと、共和党、民主党両党の一部にそれぞれの立場から、法案修正の動きがあり、コンセンサスを得るに至らなかったこと等があげられている。
特に同法案の第二編として付加されている米国追加議定書履行条項については、共和党の一部から、このままの条文では、IAEAに対し、米国の原子力施設への過剰なアクセスを認めることになるとして、修正あるいは、米印原子力協力法案からの切り離しを主張する意見が出されていた。
本案は11月中旬に開催される、いわゆるレイムダックセッション(選挙前の議員構成で開催)において審議される可能性が高いが、その後、7月に下院本会議で可決された法案との間で調整がなされ、統一された案として、再度、両院で可決される必要があり、年内に決着がつくかどうかは不透明である。
もし、決着が年明けに持ち越されれば、これまでの法案は廃案となり、中間選挙で新しく選出された議員により、委員会の段階から、改めて審議が開始されることになる。
【報告:政策調査室 山村】
<北朝鮮高官が寧辺の黒鉛減速炉からの燃料の抜出しの可能性言及>
北朝鮮専門家であるセリグ・ハリソン氏(米国のシンクタンク、国際政策研究所のアジアプログラム部長。 ワシントンポスト紙の元北東アジア支局長)は、 9月19-23日に北朝鮮を訪問し、政府、軍の要人と会談した。 同氏が訪問の直後に(9月23日)、北京で、記者団に対し、語ったところによれば、金桂官外務次官(6カ国協議首席代表)は、今年秋、遅くとも年末までに、核兵器製造の為のプルトニウムを得ることを目的として、寧辺にある黒鉛減速炉から燃料を抜き取る予定である旨、述べるとともに、核分裂性物質を国外に移転する可能性についても言及した。核実験を実施する可能性については、肯定も否定もされなかった。
ハリソン氏によれば、北朝鮮は、当初、2007年6月まで燃料の抜取りはしないとしていたが、今回の動きはその予定を早めるものである。また、従来、北朝鮮は、核兵器や核分裂性物質を第三国やテロリストグループへ移転する可能性について否定的見解を示していたが、 今回の金次官の発言は従来の方針を変更するものであり、米国との二国間交渉を実現する為の圧力とすることを意図したものではないかとの見解を表明した。
(情報ソース)
- AP通信、BBC等の報道
イランは、安保理決議1696によるウラン濃縮活動の停止要求を無視してウラン濃縮を継続している。イランの核開発の意図が不透明な中、ブシェール原子力発電所から出る使用済燃料の軍事転用の可能性も懸念される。同原子炉の使用済燃料に関しては、ロシアが全量引き取ることで2005年2月に協定が締結されたが、輸送費の負担に関し両国は合意に至っておらず、使用済燃料の取扱いについては依然不安がある。イランの原子力開発の意図が不透明な限り、ブシェール原子力発電所の建設も懸念の一つであり、ロシアの建設協力に対する米国の反発も必至だ。
9月30日、米国は、「イラン・リビア制裁法」の失効に伴い、イラン関連制裁法「イラン自由支援法」を発効させた。米国は自国企業とイランとの取引をほぼ全面的に禁止し、制裁強化の余地はほとんど残されていない。従って、この制裁法は、対イラン制裁の対象を外国企業にまで拡大することでイランへの締め付け強化を狙ったと思われる。
また、本制裁法は、イランの濃縮及び再処理に関連する活動の停止が検証可能な方法で確認されない限り、平和利用を含むイランの核開発を支援する国との原子力平和利用協力協定の締結を禁止する条項を含む。この制裁法の発効によって、イランの濃縮及び再処理活動停止の確認を待たずに、ロシアがブシェール原子力発電所の建設に協力した場合、7月の米露首脳会談で交渉開始が合意された米露間の原子力平和利用協定の締結は難しくなる。ロシアにとってイランとの協力は高い代償を伴うことになり、政治的リスクを回避するためにロシアがウラン濃縮停止をイランに強く求める可能性もある。
このようなことを背景に、ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長とソラナEU共通外交・安全保障上級代表との協議の行方がさらに重要となる。9月27−28日、両者はベルリンで会談したが、濃縮停止などの合意には至らず、10月3日に行われた電話会談でも具体的な進展は無く、再協議することを決めたにとどまった。一方、ライス米国務長官は、イラン問題を協議するために近々英米仏独中露の6カ国協議が開かれる可能性もあるとしている。6カ国による包括的見返り案をめぐって、イランがウラン濃縮停止に応じるのか、 6カ国がいつまで忍耐強くイランの譲歩を待っていられるのか、一層注目される。
【報告:政策調査室 濱田】