核不拡散ニュース No.0030 2006.10.04
<北朝鮮核実験声明>
3日午後6時、北朝鮮外務省は「安全性が徹底的に保証された核実験をすることになる」との声明を発出し、2005年2月に核保有を宣言後、初めて核実験の可能性を公式に宣言した。 北朝鮮核問題を協議する六者会合関係国 (日、米、韓、中、露)に加え英・仏も自制を呼びかけるなど国際社会は反発を強めている。
声明では具体的な実施時期については言及しておらず、徐々に緊張を高めることで金融制裁解除などの日米の譲歩を「瀬戸際政策」との見方が優勢。 米CNNテレビは、米情報当局の話として核実験場と見られる地点で最近、人員や装備、車両の新たな動きを察知したと報じた。
北朝鮮外務省声明概略
- 米国の増大する核戦争の脅威と制裁圧力はわが国の安全を侵害し、民族の存亡を決する状況を生んでいる。
- ブッシュ米政権は、我々が屈しなければ懲罰を科すという最後通牒を突きつけている。
- もはや我々は事態を傍観していられない。
- 戦争抑止力強化のための新たな措置を取る必要があることを明らかにする。
- 核実験の予告:北朝鮮科学研究部門は、今後、安全性が徹底的に保証された核実験を行うことになる。
- 先制使用と核移転を否定:北朝鮮は核兵器を先に使用しないし核をもちいた威嚇をあくまでも許さないだろう。また、 北朝鮮は責任のある核保有国であり、 核移転をあくまでも許さない。核拡散防止分野において国際社会に担った義務を誠実に履行する。
- 朝鮮半島の非核化と世界的な核軍縮:我々は朝鮮半島の非核化実現と世界的な核軍縮推進のために努力するであろう。
- 朝米関係改善:我々の最終目標は朝米敵対関係を清算し朝鮮半島とその周辺から核の脅威を排除することである。
各国の反応
日本
対応
- 安倍首相は塩崎官房長官に情報収集と分析を指示。塩崎氏は外務省の佐々江賢一郎アジア太平洋州局長に対応を命じた。
- 防衛庁は情報本部の国内6か所の通信施設で北朝鮮内の電波交信状況を監視。
- 地震波を観測する施設との連絡体制を整えるなどの警戒水準を引き上げた。
- 塩崎官房長官とハドリー米大統領補佐官は電話で協議し、米国との連携作業を本格化した。
- 塩崎官房長官は、今のところ(3日未明)切迫した状況を示す情報はないと説明。
- 首相官邸や関係省庁の幹部クラスとも連絡を取り、核実験実行時には迅速に参集するように指示。
- 小池百合子首相補佐官が訪米してハドリー米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会談
発言
- 「万一、核実験を行えば日本としても国際社会としても断じて許すことができない。 核実験を行えば国際社会で厳しい対応を取ることになる」 安倍晋三首相。
- 「北東アジアに重大な影響を与える。平和の脅威であり断じて許すことはできない。国連を含めて連係する。対応は (ミサイル発射より) 厳しいものになる。」麻生太郎外務大臣
- 「日本や関係国にとって非常に深刻な懸念だ」大島賢三国連大使
- 「北朝鮮が先の(ミサイル発射に関する)国連安全保障理事会決議を履行することを改めて強く求める。国際社会も本件を懸念しており、すでに3日、国連安保理の非公式協議でも取り上げられた。我が国としては、米国を始め中国、韓国など関係国と連携しつつ適切に対応する。」(4日午前の参院本会議 安倍晋三首相)
- 「「断じて容認できない。」として、実験阻止に向けて日米が緊密に協力していくことで一致。また、実験に踏み切った場合の対応でも日米で連携していくことを確認。国連安全保障理事会で、北朝鮮に核実験の自制を求める議長声明などの早期とりまとめを進めることで一致」(ハドリー米大統領補佐官との会談後、小池百合子首相補佐官)
米国
発言
- 「状況打開の助けにはならず、実験の強行は地域の平和と安全保障へ脅威である。北朝鮮の孤立を深めるだけだ」ホワイトハウス
- 北朝鮮の核実験は「国際社会と平和に対する重大な脅威だ。今朝(4日)の安保理で議論する。(どのレベルで対応するかは)今後検討する」ボルトン米国連大使。
韓国
対応
- 3日、青瓦台(大統領府)は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領にこの事実を報告。
- 関係官庁の次官クラスを集めた緊急対策会議を招集し、韓国政府が堅持してきた原則に基づいて対応するという基調を確認し、深い遺憾の意を表明することで合意。
- 青瓦台は、核実験は7月のミサイル発射とは次元の違う問題であり、実験実行の際には既存の核問題解決策や北朝鮮へのアプローチの根本的な見直しも必要となると認識。今回の事態を重く見て動向を見守る姿勢。
- 4日、安保政策調整会議を開き対応を検討。
- 4日、韓国政府は外交通商部の秋圭昊(チュ・ギュホ)報道官名義で声明を出した。
【声明の内容概略】
- 北朝鮮が核兵器を保有することは決して認められないという政策を再確認し、北朝鮮が核実験計画を即刻取り消すことを求める。
- 北朝鮮の核実験宣言が朝鮮半島の非核化に向けた共同宣言を完全に破棄しようとするものであり、深刻な懸念であり遺憾。
- 韓米首脳会談を契機に六者会合再開と共同声明履行のために関係国が協議する中、北朝鮮が核実験宣言は、対話を通じた問題解決に逆行するものであることは明らか。
- 安保理決議に基き、これ以上状況を悪化させず、速やかに六者会合に復帰するよう北朝鮮に求める。
- また、対話を通じた問題解決に向けた韓国の努力を無視し北朝鮮が核実験を強行した場合には、これによって引き起こされるすべての結果について北朝鮮が全面的な責任を負わなくてはならないと警告。
ロシア
発言
- ロシア政府は、北朝鮮の核実験の予告声明に対し「深刻な懸念」を表明。
- 「動機が何にせよ、そのような動きは、朝鮮半島の非核化という宣言されている目標に反し、朝鮮半島の政治的軍事的状況を著しく損ねるだけではなく、国際的核不拡散体制にとっての更なる打撃となると、 我々は信じる。」 セルゲイ・ラブロフ外相。
- 我々は、北朝鮮の懸念に理解と慎重な配慮を示すが、この問題の解決は六者会合の枠組みの中にあると信じる。」セルゲイ・ラブロフ外相。
中国
発言
- 核兵器実験に関して、北朝鮮が自制し抑制を働かすことを中国は望む。我々はまた、全ての関係国が、事態を緊張させる代わりに、対話と協議を通して懸念に対応することを求める。」劉建超外務省スポークスマン。
国連安保理の動き
国連事務総長発言(スポークスマンを通して)
- ロシア政府は、北朝鮮の核実験の予告声明に対し「深刻な懸念」を表明。
- 北朝鮮が核実験を強行すれば、地域の緊張が高まるのは必至であり、国際社会の非難は免れない。
- 北朝鮮の安全保障強化という目標達成の助けにならない。
- 北朝鮮に最大限の抑制と国際規範の遵守を強く要請し、現在の核実験モラトリアムを守るように求める。
- 対話を通じて朝鮮半島及び地域の安全保障上の問題が解決できるようにするためには、北朝鮮は六者会合に復帰するべきであると信じる。
対応
- 3日、北朝鮮の外務省声明を受けて国連安保理は非公式協議を開いた。
- 日本(10月の議長国)とフランスは議長声明などの安保理としての文書案を提示し、採択を目指し4日も協議する。
- 日本、声明の中で、北朝鮮の自制を求め、核実験実行の場合の追加制裁の可能性も言及したいという方向。
- 米朝二国間会談を迫る交渉カード。
- 日米両国などによる「金融制裁」解除を求める瀬戸際政策。
- 追加制裁論議への強い反発。
- 協議復帰も視野にいれ米国の最終的な譲歩を促す目的。
- この時期の声明は、訪中・韓を控えた安倍政権の日中・日韓関係改善の機先を制し揺さぶりをかける思惑との分析もある。
CTBT国際監視システム(IMS: International Monitoring System)
JAEAでは、包括的核実験禁止条約(CTBT)に基づき、核実験の実施に伴い大気中に拡散する放射性ダストをモニタリングするステーションを高崎で運営している(沖縄観測所は整備中)。大気中のダストを24時間捕集し、バックグランド放射能低減化のため24時間放置し、その後24時間かけてGe半導体検出器で測定して核種の同定を行い、ウィーンにあるCTBT国際データセンターにデータを送信するものである。JAEAには、ウィーンの国際データセンターから送られる世界中のIMSデータのデータベースを構築し、 観測データの中に人工放射性核種の有無を評価するための国内データセンターがある。
北朝鮮核問題の経緯:クロノロジー
2002年
- 10月
- 北朝鮮のウラン濃縮活動疑惑の浮上から第二次核危機が始まる。
- 12月
- ウラン濃縮疑惑を受けてKEDO理事会は毎年50万トンの重油の供給を停止。
- 12月
- 北朝鮮は核関連施設の運転再開の旨を発表し、同施設に施されていた封印・監視装置を順次撤去し、IAEA査察官を国外退去に追い込んだ。
2003年
- 1月10日
- 北朝鮮はNPT からの脱退を表明。IAEA保障措置協定の無効化も宣言。
- 2月
- 寧辺にある 5MW(e)黒鉛減速実験炉の運転を再開。
- 4月
- 米国、中国、北朝鮮による三者会合(北京)
- 8月
- 第一回六者会合(北京)(日・米・中・韓・露・北朝鮮)
2005年
- 2月10日
- 核兵器保有を表明。
- 4月
- 黒鉛減速炉の運転を中断(使用済み燃料取り出しの疑いあり)。その後再開。
- 9月19日
- 第四回六者会合 六者の目指すべき目標が合意文書として取りまとめられ、目標実現への取組みとして「約束対約束、行動対行動」の原則も示された
- 9月
- 米財務省が金融制裁(バンコ・デルタ・アジアに対するマネーロンダリング規制強化含む)を発動。
- 11月
- 第五回六者会合(その後の開催なし)
- 12月
- 北朝鮮は、米国の金融制裁を理由に六者会合への参加を拒否する見解を表明。
2006年
- 7.5
- 「テポドン2」を含む7発のミサイルを発射
- 7.15
- 国連安保理にて、北朝鮮のミサイル発射を非難する決議(1695)を採択
- 8.17
- 米国ABC放送が、北朝鮮が核実験を行う兆候があると報道。
- 9.11
- アジア欧州会議(ASEM)は、北朝鮮に六者会合への即時無条件復帰と安保理非難決議の履行を求める議長声明を採択した。
- 9.19
- 日本政府は北朝鮮の15団体1個人を対象とし支払いと資本取引を規制する金融制裁を発動。
- 9.19
- オーストラリア政府は、対北制裁措置を発動した。
- 9.21
- 日米韓他計8か国(中露不参加)の外相らによる多国間会合がニューヨークで開かれ、決議1695の履行の重要性で認識を一致させた。
- 9.21
- 米国が北朝鮮の六者会合復帰を条件に金融制裁に関する米朝二国間の作業部会設置を提案していることが明らかになった。
- 9.22
- IAEA第50回年次総会は、北朝鮮の六者会合への無条件・即時復帰と核兵器放棄を求める決議を全会一致で採択。
- 9.22
- IAEA第50回年次総会は、北朝鮮の六者会合への無条件・即時復帰と核兵器放棄を求める決議を全会一致で採択し、閉会。
- 9.23
- 北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官が、19日〜23日まで訪朝した米国の北朝鮮専門家、セリグ・ハリソン国際政策センター・アジア計画部長に対し、寧辺(ヨンビョン)の黒鉛減速炉(5000キロワット)から「今秋に、遅くとも年末までに」新たに使用済み核燃料棒を取り出す計画であることを明かした。同日にハリソン氏が北京で会見して語った。
- 10.3
- 北朝鮮外務省が核兵器実験予告声明を発する。
【報告:政策調査室 濱田】