核不拡散ニュース No.0028 2006.09.22
<GNEP Expressions of Interestについて>
<米英仏独露中の6カ国の包括的見返り案に対するイランの回答書>
6カ国の包括的見返り案に対するイランの回答書が、米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のHPで公開された。イランの濃縮活動停止を義務付けた6月の包括的見返り案(核不拡散ニュースNo.0023を参照)に対し、回答書でイランは、 条件次第では追加議定書の履行や濃縮活動停止の交渉に応じる構えを見せている他、NPTやIAEAを脱退しない旨表明する用意があるなどと回答している。
その条件としては、イラン核問題を国連安保理ではなくIAEAの法的枠組みの中で取り扱うこと、双方の交渉に入る前の予備交渉を設けること、などを挙げている。
更にIAEAとの協力については、非差別的にIAEAの評価基準を設定すること(査察で確たる証拠が見つけられなければ、未申告の原子力活動や核物質はないとみなすこと)、事務局長の最終報告書が出されるまでIAEA理事会でもイラン核問題を扱うことを一時中止すること、などを条件としている。なお、平和利用の権利については、NPTで規定された奪いえない権利であると従来通りの主張を繰り返している。
(情報ソース)
イランの回答書は、政治的影響のない法的且つ技術的な基準による枠組みを構築するよう要求したり、安保理決議を拒否したりするなど、安保理でのイラン核問題の検討を回避しようとしていることが伺える。また、回答書は予備交渉を設けるなど要求していることから、ISISは、この報告書の目的は計画通りに進んでいないパイロット型のウラン濃縮施設(ナタンツ)のための時間稼ぎであり、中国やロシアに安保理で欧米の制裁論議を遅滞させ、その間にイランは計画通り事を運ぼうとしているのではないか、と分析する。
最近の報道によれば、9月10日にイランが濃縮関連活動を最大2ヶ月間停止する用意があると提案した翌日、ライス米国務長官は、イランが濃縮活動を一時的に停止するのであれば交渉に応じる旨示唆したという。しかし、その後、米国は対イラン制裁を強調し続け、対話重視の欧州と認識に隔たりができつつある。イランに誤解されぬよう、欧米は一体となってイラン核問題に対応すべきである。
(参考)
【報告:政策調査室 大塚】
<日本とカザフスタンの原子力協力>
9月5日、資源エネルギー庁は原子力委員会で、8月下旬における小泉総理の中央アジア(カザフスタンおよびウズベキスタン)訪問結果について報告した。右報告によれば、すでに新聞各紙が報じているように、カザフスタンにおいては小泉首相、ナザルバエフ大統領の両首脳による政治、 経済(エネルギー、 輸送、科学技術、 他)、ODA協力、人的交流の促進などについて共同声明を発表するとともに両国政府は 「原子力の平和利用の分野における協力の促進に関する覚書」 (以下、「覚書」という)に署名した。
原子力分野にかかる共同声明のポイントは、以下のとおり。
- 双方は、カザフの石油、ウラン、その他の天然資源の探鉱、開発及び加工分野における日本企業などの積極的関与を歓迎し、エネルギー資源分野における両国の協力をさらに発展させる意向を表明する。
- 双方は、・・・、今後ともカザフにおける石油、ウラン等の探鉱、開発及び加工の分野における大型案件の成功裡の実現のため、効果的な措置をとる意向を有する。
- 双方は、特にウラン鉱山開発、より高い加工レベルのカザフのウラン製品及び加工役務の日本市場への提供を含む原子力分野における協力の戦略的有望性に立脚しつつ、「覚書」に基づき、カザフにおけるウランの探鉱、開発及び加工における協力を強化する意向を共有する。
また、「覚書」には、ウラン共同開発、ウラン燃料加工役務の提供等の具体的案件の実現を目指すこと、法的基盤整備、カザフにおける軽水炉導入に必要な人材交流、対話を進めるほか、核不拡散、核物質防護及び計量管理体制の整備状況を勘案しつつ二国間の原子力平和利用協定締結のための作業を開始することなどが盛り込まれている。
こうした合意事項を踏まえて資源エネ庁では以下の対応を推進するとしている。
- 二国間原子力協定締結に向けた作業を開始
- 原子力発電導入への支援(19年度:2,000万円新規要求)
- わが国企業によるウラン鉱山開発への支援(19年度:13億円新規要求)
また、 将来可能となりうる両国間の原子力産業協力の例として以下を挙げている。
- ウラン共同開発
- カザフのウランを原料とした濃縮ウラン(濃縮はロシア等第3国)をカザフで再転換・加工し日本を含む第3国へ輸出。
- カザフでの原子力発電導入に対し、日本の経験やノウハウを活用して協力
- 英仏で再処理して回収した回収ウランを再濃縮(フランス等第3国)し、カザフで再転換・加工して輸出(日本など第3国へ)
- 加工工程で生じたスクラップウランの再利用のための精製
今回の総理訪問による上記結果は、わが国の中央アジアとの良好な関係構築、わが国のエネルギー安全保障の観点から大きな成果となった。他方、国際的に関心が高くなってきており、今般、IAEA総会やその特別委員会にて議論されている国際核燃料供給保証構想に対して、資源エネ庁は、ウラン鉱山開発、濃縮ウラン(回収ウランを含む)の提供などをその貢献の選択肢の一つとして検討しており(2006年8月総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会報告書)、上記カザフとの協力はこれらの貢献にも当然関与してくるものと考えられる。 当センターとしては、今後、二国間の原子力平和利用協定の締結や燃料供給保証に関連した動向に注視していきたい。
【報告:核不拡散科学技術センター 持地】
<キリエンコ・ロシア原子力庁(Rosatom)長官がWNA(世界原子力協会)シンポジウムで演説>
9月6−8日にロンドンで開催されたWNAシンポジウムにおいて、 ロシアのキリエンコ原子力庁長官は、ロシアの原子力の現状、将来計画について発表したが、その中で、国際核燃料サイクルセンター構想についても説明がなされた。
本構想は、原子力新興国に対し、濃縮技術へのアクセスを認めることなく、燃料供給を保証することを目的とするものであり、2006年末までに国際核燃料サイクルセンターの原型立上げのため、ロシアは施設提供の用意があるとしている。また、既存の濃縮施設により燃料の供給がなされることになるが、当該施設はIAEAの監督下に置かれるとともに、燃料は保障措置の対象になる。
尚、発表の中で、どこにセンターを設立するかについては明言していないが、ITAR-TASS通信が、Rosatom関係者からの情報として伝えたところによると、最初の国際ウラン濃縮センターは、イルクーツクのアンガルスク電気化学コンビナートにある濃縮プラントをベースに設立される予定であり、 Rosatomは、センターの設立に関する諸問題を解決する為のミッションを9月末までに同地に派遣予定とされている。また、同プラントの責任者は同プラントが選定された理由として、以下の3点を挙げている。
- 軍事産業が関与していないこと
- 50年にわたる濃縮の実績、経験を有する技術者の存在
- 余剰供給能力
また、ロシアの通信社であるノーボスチでは、キリエンコ長官が、予め低濃縮ウランの在庫を確保しておく構想について、市場を不安定にする可能性があるものとして、懐疑的な見方を示したとの報道がなされている。
(情報ソース)
本構想は、プーチン大統領が2006年1月のユーラシア共同体首脳会議にて発表したことに端を発するものである。2006年末という時期を設定したことは、本構想の実現に向けてのロシアの政治的意思を感じさせるものであるが、IAEAや米国による同種の提案との整理も含め、実現には尚、紆余曲折が想定される。
19−21日に開催されるIAEAの特別イベント「燃料供給と核不拡散」においても、キリエンコ長官の発表が予定されており、他の構想への反応と合わせて、「燃料供給と核不拡散」に関して、参加国の間でどのようなコンセンサスが得られるか注目されるところである。
米国のGNEP(Global Nuclear Energy Partnership)構想では、 核燃料のリサイクルや廃棄物最小化のための新技術を実証・整備し、原子力技術の核拡散抵抗性を高めることで核拡散のリスクを最小化しつつ、温暖化ガス放出の少ない原子力を全世界に拡大しようとすることが提唱されている。
本構想は、2月に当初計画が発表された後、8月になって2トラック方式で進めることが新たに発表され、軽水炉使用済み燃料の再処理施設、燃焼に重点を置いた高速炉等を早期に実現するために、国内外の産業界から本構想への提案を受け付けるEOI(Expressions of Interest)が募集された。
これに対し、JAEAをはじめ、国内メーカーなど11社は、本構想のなかで重要な位置づけとされる統合核燃料取扱センター CFTC (Consolidated Fuel TreatmentCenter)、先進燃焼炉ABR (Advanced Burner Reactor)の2施設に対して、日本独自の提案を行った。
CFTCの提案においては、2020年頃の運転開始を目標とするトラック1と、その後の長期計画であるトラック2の各々に対して検討し、トラック1においては実績のある技術の改良・高度化を中心としたシステムを、 トラック2においては FS(Feasibility Study) で検討してきた革新技術を取り込んだシステムを提案した。
また、 ABRの提案においては、JAEAが2025年に計画している実証炉に取り込む予定の革新技術の一部を既存技術に置き換えた設計を基軸として提案した。我が国の保障措置に係る技術開発や経験に係る事項もCFTCの提案の中に含まれており、日本の技術提案が、 今後の施設設計の公募の内容に反映され、 採用されることとなれば、我が国で開発された技術や設計が、米国の施設で具体化することとなり、世界的なデファクト・スタンダード構築に大いに貢献できることとなる。 国内外のEOIを受け付けた米国が、どのような判断を行うのかに注目が集まっている。
【報告:技術開発支援室 鈴木】