核不拡散ニュース No.0026 2006.09.14
<イラン核開発をめぐる動向>
- 7.31
- 国連安保理は対イラン決議(1696)を採択。
- 研究開発を含めた濃縮及び再処理活動の停止
- IAEA事務局長が8月末までにイランの決議履行状況を安保理に報告
- 決議不履行の場合は、国連憲章第7章41条(非軍事的措置)に基づく措置を検討
- 8.22
- イランは包括的見返り案に回答。
- 8.26
- イランはイラン西部アラクの重水製造工場で重水製造開始を発表。
- 8.31
- IAEAは、イランの安保理決議の履行状況に関して安保理に報告。
- 少量の濃縮ウラン製造の継続など、国連安保理決議(1696)要請事項の不履行。
- 査察に対する非協力的態度など、疑惑解明に必要な措置を怠る。(例: 重要文書の未提出、査察官の施設立ち入りを拒否、査察官の入国ビザの発行を怠るなど。)
- イランの核兵器開発を示す証拠は不十分。
- 9.2
- EU3(英仏独)はイランに二週間の制裁猶予を与えることで合意。
【安保理決議(1696)の概要】
【新聞報道によるイランの回答内容】:ウラン濃縮停止を前提としない核協議再開を申し入れ、包括案への質問や新提案を盛り込んだ回答を示した模様。
【IAEA事務局長報告書の概要】(詳細は未公開。以下は新聞報道による)
【今後の見通し】
EU3(英仏独)による制裁猶予が切れる9月半ばまでのイランとEU側代表との協議の進展具合、また、制裁をめぐって温度差のある関係六カ国間の調整の見込みが、イラン核問題の今後の展開を左右する一つの鍵となる。9日にはソラナEU共通外交・安全保障上級代表とラリジャニ・イラン最高安全保障委員会事務局長による安保理報告後の始めての協議が予定されている。また、10日以降にはリービー米国テロ・金融犯罪担当財務次官が欧州を訪問し対イラン金融制裁について協議する予定となっている。今後の1-2週間、激しい外交合戦が展開されると思われる。
(情報ソース)
- 日経新聞 9月7日、8日、ワシントン・ポスト 9月7日
<北朝鮮の核実験をめぐる動き>
8月17日、米国ABC放送は、北朝鮮の咸鏡北道吉州郡の豊渓里(ブンガリ)において核実験の兆候あると報道。韓国が24時間の監視体制を敷くなど、関係各国は警戒態勢を布いている。
8月18日、韓国の雑誌「月刊朝鮮」が、韓国に亡命した北朝鮮元政府高官の証言として、1998年のパキスタンの核実験の際に北朝鮮はプルトニウムを持ち出して共同実験を行った、と日本のメディアが報道。
8月28日、韓国の情報機関、国家情報院の金昇圭院長は、国会の情報委員会において、「金正日総書記の決断さえあればいつでも(核実験の)可能性はある」との見解を示した。その一方で、「現在、北朝鮮が核実験の準備をしていると断定する直接的な兆候はない」と強調。
9月4-6日にヒル国務次官補が日本・中国を訪問し日米・米中による対北朝鮮警告メッセージを発するなど、関係各国閣僚による北朝鮮への牽制発言が続いている。
(情報ソース)
- ABC放送 8月17日、毎日新聞 8月18日、日経新聞 8月29日、日経新聞9月4日、5日、6日
1998年5月末にパキスタンにより一連の核実験が実施されたが、米軍機が収集した大気中のサンプルをロスアラモス研究所で分析した結果、最後に実施された核実験の後に収集されたサンプルに微量のプルトニウムが混入していることが判明した。パキスタンは、全ての核爆弾はウラン濃縮によるものであると発表していた為、この事実は驚きをもって捉えられ、米国が認知していないプルトニウムを輸入または生産しているのではないかという疑いが生じた。
しかし、ロスアラモス研究所とライバル関係にあったローレンスリバモア研究所は、サンプルは誤って研究者によって汚染されたものであるとし、この分析に異を唱えた。両者の論争は長らく解決されなかったが、2004年2月にA.Q.カーン博士がリビア、北朝鮮、イランに核技術を提供したと告白したことで、北朝鮮とパキスタンの核開発における密な関係が浮き彫りとなった。
このような背景から、北朝鮮元政府高官の証言はロスアラモス国立研究所の分析を裏付ける発言であり、パキスタンの核実験が北朝鮮のプルトニウム型の核兵器開発計画を進めた可能性があるものとして注目される。
(参考)
- "U.S. Labs at odds on whether Pakistani Blast Used Plutonium", The Washington Post, 17 January, 1999.
- "Pakistan May Have Aided North Korea A-Test", New York Times, 27 February, 2004.
【報告:政策調査室 山村 大塚】
<北朝鮮のミサイル発射をめぐる最近の動き>
9月3日、韓国の聯合ニュースは、北朝鮮のミサイル基地がある江原道旗対嶺において、中・短距離ミサイル、ノドンとスカッドの追加発射の兆候が見られると報じた。しかしその翌日、韓国軍の合同参謀本部関係者はミサイル基地周辺で「追加発射の新たな兆候はない」との見解を示した。
<「大量破壊兵器委員会」報告書>
[概要報告]
2006年6月1日、国際原子力機関(IAEA)前事務局長であるハンス・ブリックス氏を委員長とする「大量破壊兵器委員会」により「恐怖の兵器―核兵器、生物兵器、化学兵器からの世界の解放」と題する報告書が発表された。
概要について以下の通り報告する。
本委員会は、大量破壊兵器(核兵器、生物兵器、化学兵器及びこれらの兵器の運搬手段)の軍備管理、軍縮、不拡散の分野で、近年、進展が滞っていることを踏まえ、これらの問題に国際的に如何に取り組むべきかを議論し、提言をまとめることを目的として、2003年に発足したものである。スウェーデン政府の資金、イニシアティブによって設立され、各国の専門家が個人の資格として参加した。(日本からは、西原前防衛大学学校長が参加)
報告書は、「核不拡散」、「核テロの防止」、「核軍縮」、「核の非合法化」、「生物兵器」、「化学兵器」、「大量破壊兵器の運搬手段」、「輸出管理」等の項目に関しての60の提言で構成されている。
核不拡散分野では、核兵器不拡散条約(NPT)に規定された、核不拡散、軍縮という2つのコミットメントのバランスのとれた追求、1995年のNPTの無期限延長の際に採択された文書の履行、全ての非核兵器国による追加議定書の受け入れ、NPTの常設事務局の設置、非核兵器国に対する、法的拘束力を有する消極的安全保障の提供、核燃料サイクルに関する核拡散リスクを低減することを目的として提案されている種々の構想の検討にあたってのIAEAの積極的な活用等の提言の他、個別の課題であるイラン、北朝鮮問題に関しても、解決に向けた具体的提言を行っている。
また、核軍縮分野では、特に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始の重要性を強調し、究極的には、生物兵器、化学兵器と同様、核兵器の非合法化を目指すべきとしている。(尚、その他の提言については以下を参照。)
(情報ソース)
全体を通して、条約、国際機関を通したマルチラテラリズムを重視し、ブッシュ政権のユニラテラリズムには批判的な論調になっている。また、個々の提言については、新規性のあるものがそれほど多く含まれているわけではないが、各国の有識者が大量破壊兵器全般に関し、総括的な提言をまとめたという点において、意義を有する。本報告書は、国連やスウェーデン政府に提出されたが、今後、本分野における国際的な議論にいかに反映されるか、注目していく必要がある。
【報告:政策調査室 山村】
<中央アジア5ヶ国が非核兵器地帯条約に署名>
2006年9月8日、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5ヶ国は、旧ソ連の核実験場である、カザフスタンのセミパラチンスクで、中央アジアに非核兵器地帯を設立する条約に署名した。本条約は、トラテロルコ条約(南米)(1967年)、ラロトンガ条約(南太平洋)(1985年)、バンコク条約(1995年)(東南アジア)、ペリンダバ条約(アフリカ)(1996年)に続く、5番目の非核兵器地帯条約である。(内、ペリンダバ条約は未発効。また、モンゴルが1992年に、非核の地位を宣言)
本条約の構想は、1993年にウズベキスタンのカリモフ大統領が国連総会の場で、提案したことに端を発するが、具体化の動きが始まったのは、1997年に、中央アジア5ヶ国の大統領によるアルマティ宣言の中で、非核兵器地帯を設置する方針が確認されてからであり、条約交渉に約10年を要した。
本条約の中では、他の非核兵器地帯条約と同様、域内における、核兵器その他の核爆発装置の開発、製造、保管、取得、配備等を禁止しているのに加え、署名国に対し、追加議定書の締結、原子力施設の保安に関する国際基準の受け入れを求めている点に特徴を有する。
本条約に対する核兵器国の反応は割れており、中露両国は、署名式に使節団を送るなど、支持を表明しているのに対し、米英仏3ヶ国は反対の意思を明確にしている。米英仏は反対の理由として、1992年に締結された、タシケント安全保障条約との整理が明確でなく、ロシアが、中央アジア5ヶ国の領域に、核兵器を通過、あるいは配備する余地を残していること等をあげている。
(情報ソース)
- IAEAニュース等
核兵器国である、中国、ロシアと隣接する地域に非核兵器地帯を設置する条約が署名されたことは評価に値する。ただし、条約をより実効性あるものとする為には、他の非核兵器地帯条約と同様、核兵器国が、付属議定書により、条約の主旨を尊重する旨を誓約することが重要である。
【報告:政策調査室 山村】
<ミツトヨの輸出違反>
8日、経済産業省は、3次元測定器を無許可で輸出した、精密機器大手「ミツトヨ」(川崎市)を外為法違反の罪で警視庁に告発したと発表した。報道によると、ミツトヨは、2001年10−11月、外為法で輸出が規制されている高性能の3次元測定器2台を、経産相の許可を得ないままマレーシアにある同社の現地法人に輸出したとされる。また同年以降も、シンガポールなどに測定器を、計1万件以上、不正輸出したという。
マレーシアに送られた測定器2台は「核の闇市場」との関係が深いとされるマレーシア企業に納入され、このうち1台は、国際原子力機関(IAEA)が2003年12月−2004年1月にリビアを訪問した際、核関連研究施設で見つかっていた。ミツトヨでは8月、元社長ら5人が同法違反容疑で警視庁公安部に逮捕されている。
(情報ソース)
ミツトヨが不正輸出をしたとされる、3次元測定器は、部品のゆがみを3次元的に測定する機器で、ウラン濃縮で使用する遠心分離機の部品の形状測定にも用いられる。ミツトヨが、輸出に際して「核の闇市場」との関連を認識していたかどうかについての公安部の取り調べが行われているが、同社幹部が「核の闇市場」との関連を認識して輸出を行っていたとすれば、外為法違反ばかりでなく、核兵器関連技術の拡散に故意に荷担していたことになり、核兵器の廃絶を願う国民世論と解離した行為で、非常に残念である。
大量破壊兵器の拡散を防ぐため、すべての貨物・技術の輸出を規制する「キャッチオール規制」の導入等の輸出規制の強化が進められているが、この強化によって、今回のミツトヨのような不正が2度と起こらないことを願いたい。
【報告:政策調査室】