核不拡散ニュース No.0025 2006.08.11
<イラン安保理決議案採択>
7月31日、国連安全保障理事会は、
- 国連憲章第7章40条に基づき行動し、
- イランに対し、濃縮・再処理関連活動の停止を要求し、
- IAEA事務局長に対し、8月31日までにイランの決議履行状況に関し安保理への報告を要請し、
- イランが決議不履行の場合は、国連憲章第7章41条に基づいた措置を取る意志を表明する安保理決議(1696)を、賛成14、反対1(カタール)の賛成多数で採択した。これに対し8月1日、イランのアハマディネジャド大統領は、「脅しの言葉に屈しない」とし同決議を拒否する姿勢を示した。
(情報ソース)
- 日本経済新聞 8月1日、2日
<再処理の経済性>
7月25日、「米国における使用済燃料管理の経済性評価」と題する報告書がボストン・コンサルティング・グループ(米国のコンサルティング会社)により発表された。本報告書は、今後、GNEPの中で指向されているリサイクル路線に経済性の面で正当性を与えるものであり、今後の米国の核不拡散政策に影響を与える可能性が高いと考えられることから、以下に概要を報告する。
本報告書はAREVAの要請により作成されたものであり、使用済燃料を再処理した場合と直接処分の場合の経済性を比較した結果、再処理は、経済的に直接処分に十分対抗できるものであるとしている。本報告書は、現在の米国の状況(使用済燃料が各原子力発電所サイトに貯蔵されている状況、ヤッカマウンテン処分場の進捗)を前提とせず、理論的に、再処理と直接処分の経済性を比較するアプローチと、現在の米国の状況を勘案した上で、ヤッカマウンテンでの廃棄物処分を補完するものとして、再処理を導入した場合(portfolio strategyと称している。)と、直接処分を維持した場合(once-through strategy)のコストを比較するアプローチの2種類で構成されている。
前者においては、直接処分のコストUS$500/kgに対し、再処理した場合のコストをUS$520/kgとしている。
第二処分場の費用、輸送に要する費用等を含む、US$470-500億と算定している。報告書では、結論として、コスト評価の前提となる様々な想定が不確実性を有するものであることに鑑みれば、両者のコストの差は決定的なものではないことから、再処理は直接処分に較べて経済的に対抗できるものであるとし、ヤッカマウンテンでの処分を補完するアプローチとして、再処理導入を検討するメリットを主張している。
米国上院エネルギー天然資源委員会委員長のピート・ドメニチ議員は同日、歓迎声明を発表した。
従来のコスト評価においては、直接処分路線の方が再処理路線よりも経済的であるとの見方が大勢であった注1。従来の経済性評価が公知の情報に基づいたものであったのに対し、本報告書は、ラアーグやメロックスといった、AREVAが実際に仏で運転しているプラントに関する情報を取り入れている点に特徴を有する。
注1)例えば、MITが2003年に発表した報告書では、リサイクル路線を採用した場合、直接処分の約4倍のコストがかかるとしている。
尚、本報告書は以下のwebsiteから入手可能である。
(情報ソース)
原子力委員会の新計画策定会議においても、「核燃料サイクル政策についのて中間取りまとめ」の中で再処理と直接処分とした場合のコスト評価がなれている。この評価では原子力発電コストとして再処理の場合約5.2/kWh、直接処分の場合約5〜4.7kWh(政策変更コスト含まず)となっている。単純な比較はできないが、コスト差は決定的なものではないという点では類似している。
(情報ソース)
- 内閣府 原子力委員会 原子力政策大綱
イランは、決議に応じる意図がないことを明らかにする一方、6月の「六カ国包括的見返り案」に対して、8月22日までに回答するとしており、イランの回答振りが第一の注目点である。次いでIAEAは8月末までにイランの決議(濃縮・再処理停止)履行状況に関する報告を提出することになっており、この報告内容が第2の注目点である。第3の注目点は、安保理がIAEA報告書の提出を受けてどのような対応を取るかである。米国がこの決議をイランに対する最後通達とみなしているのに対し、ロシア・中国などは「前向きな(positive)」結果を促すためのステップの一つだとみなしている。経済制裁に持ち込むには、安保理で新たな決議が必要であり、安保理常任理事国が共通の立場を取り得るか、レバノン情勢の混迷も相俟って不透明な度を増している。
【注釈:国連憲章第7章第39条‐42条】
国連憲章第7章は、安保理による紛争の強制的な解決の権能を中心に定めている(第39条から第51条で構成)。
まず第39条(安保理の一般的機能)では、安保理が脅威、侵略等の存在を判断し、平和の回復のために取られる諸措置が記されている。
第40条(暫定措置)では、安保理が、強制措置の前段階として暫定措置を講じるとしている。
第41条(非軍事的措置)では、安保理が、武力行使を除く経済・通信・交通および外交の中断・断絶を決定できるとしている。ローデシア制裁(66年)、南ア制裁(77年)、リビア制裁(92年)等がある。
第42条(軍事的措置)では、安保理が軍事行動を取ることが出来るとしている。なお第42条に基づく国連軍は組織されておらず、第42条措置は実施されていない。
【報告:政策調査室 濱田】