核不拡散ニュース No.0024 2006.08.02
<米印原子力協力>
7月26日、米下院本会議は「米印原子力協力促進法案」を359対68の賛成多数で可決した。上院本会議の可決は9月以降となる見通し。
(情報ソース)
- 米国上院ホームページ、ワシントン・ポスト紙 7月26日、共同通信7月27日、ケララ・ニュース 7月24日、NTI 7月21日
<パキスタンの重水炉建設>
7月24日、ワシントン・ポスト紙は、パキスタンが、大型重水炉(兵器級プルトニウムを年間核兵器40〜50個分生産能力があると推定)を新たに建設中とする、米国のシンクタンク・科学国際安全保障研究所(ISIS)の分析結果を報じた。
(情報ソース)
ISIS報告内容概要
パンジャブ州クシャブに熱出力50MWの重水炉(中国の協力により建設、1998年臨界)がある。衛星写真から、同施設敷地内に隣接して、大型の重水炉と目される施設が建設中であることが確認されている。原子炉容器とみられる直径(約5メートル)から推定すると、重水炉とすれば、熱出力1,000MW以上の出力。年間220日間稼働と仮定した場合、200kgの兵器級プルトニウム(核兵器約40〜50個分)(現存重水炉は年間核兵器約2〜3個分のプルトニウム生産能力と推定)に相当するプルトニウム生産能力を有すると分析している。この規模でのプルトニウム生産のためには、パキスタンは重水生産力、再処理能力が十分ではない上、建設状況も捗っている様子はなく、大型重水炉が完成する時期は不明である。
【報告:政策調査室 濱田】
「Pu生産量について」
ISISによると、重水炉の熱出力は1,000MWthとしており、これが220日稼動すると年間200kgの兵器級Puが生産されるとしている。1MWDあたり、1.06gのU-235が核分裂し、核分裂あたりの転換率を0.4として試算してみる。1,000MWth*220D*1.06g/f *0.4=93kg/yとなる。即ち93kgであり、したがって年間200kgという値にはならない。一方、100万kW電気出力(熱効率を33%とした電気出力と熱出力の換算を行う)の重水炉が年間300日稼動すると350kgのPuが生産との値が文献にある (Plutonium,M.Taube,1974)。
上の式に当てはめて計算すると1,000MWe*1/3*300*1.06*0.4=380kgと350kgと似た数値になる。いずれにしても、ワシントン・ポスト紙の記事の数値は理論的な数値よりかなり大きくその根拠は不明であるが、以下の推定は出来る。
200kgの根拠は50MWthの現在炉でのPu生産を10kgとしている、出力が1,000/50=20倍なので、よって10kgx20倍=200kg/年としたのであろう。稼働率の220日がどういう意味を持つか理解していないようである。
なお、核兵器に必要な量としてPu4-5kg/個という値は妥当と思われる。
本法案は当初、夏季休暇(8月4日〜9月4日)前に、下院本会議のみならず上院本会議でも採決に付されるとみられていた。しかし、7月19日、ルーガー上院外交委員長は、インド・アメリカ友好協会(インドのロビイストグループ)との会合で、核不拡散体制に与える影響についての懸念、法案の細目内容をめぐる調整の必要等から、夏季休暇前の上院本会議での審議の見通しが低いとの見方を述べた。
下院本会議の争点は、米国の原子力協力がインドの核兵器開発や核分裂物質生産を助長しない点の確認方法にあった。その方法として、米国大統領による「判断(determine)」や「証明(certify)」を求めた修正案が提案されたが何れも否決され、米国の核物質・技術の使用状況等に関する「定期的報告」を米国大統領に求めた修正案が可決された。
【解説:政策調査室 濱田】
今後同法の成立には、上院本会議の承認及び日本も加盟している原子力供給国グループ(NSG)の同意を条件とあるので、我が国においても、しっかりとした議論を行う必要があろう。NPT体制の枠外で核を保有するインドに、原子力平和利用の協力を行うというインパクトは大きい。核不拡散体制を今後どのように改善し、維持するかといった体制見直しを含めて、議論を重ねる必要がある。
【解説:政策調査室 直井】