核不拡散ニュース No.0018 2006.06.22
<イランの原子力活動と核問題>
IAEAは6月8日、理事国に4月下旬以降のイラン査察の報告書を提示。ナタンツのウラン濃縮施設の164基の遠心分離機での濃縮活動をいったん縮小したが、6月6日、新たなカスケードに六フッ化ウランの投入を開始し、さらにもう一組のカスケードも準備しているという。また1月にイラン国内の大学で採取したサンプルから新たに高濃縮ウランの痕跡を検出。報告書では「イランの情報開示は不十分」とし、疑問点も数多く残っていると指摘。
6月12日からのIAEA理事会冒頭でエルバラダイ事務局長は、イランでの保障措置に関し、未解決の検証問題があまり進んでおらず、イランに協力を要請し続けるとし、また、核問題の外交的解決に対する期待を述べた。AFP通信が6月13日に入手したイランに対する包括案では、IAEAが報告した未解決の問題・懸念が解決されたことが証明されるまでウラン濃縮を凍結するよう要求しているが、拒否した場合の制裁措置は盛り込まれていないという。専門家によると、問題解決の立証まで十数年かかる可能性があるという。
包括案に対しては、イランのモタッキ外相は6月10日、修正案か独自の対案を提示する可能性を示し、研究目的のウラン濃縮容認をもとめる模様。一方、米国のスノー財務長官は谷垣財務相と6月9日に会談し、金融面でのイランへの制裁などの検討を公式に初めて要請。中露は制裁に慎重で国連決議は困難であり、それを見越して米国は「有志連合」の協力を要請している。だが、「日本は制裁には国連決議が必要」との立場を崩していない。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年6月10、11、13日、日経新聞 6月10〜13、15日、読売新聞 6月10〜13日、毎日新聞 6月10〜12、14日、朝日新聞 6月11〜13、15日、電気新聞6月15日、IAEAホームページ
<非核保有国でも大国に>
国際原子力機関の前事務局長ハンス・ブリクス氏は12日、ロンドン市内で講演後に質問に答え、「核兵器非保有国でも、大国になれることを示していくことが重要だ」と述べ、核不拡散問題での日本の積極的な取り組みに期待感を示した。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年6月14日
これは非核兵器国でも大国になれる例についての言及であるが、非核兵器国でも十分な国際的信頼が得られれば核燃料サイクル活動も実施できる例として、日本の保障措置をはじめとした核不拡散対応等の取組みをアピールしていくことも重要である。問題国に対しても核燃料サイクルを推奨する訳ではないが、国際的規範の遵守や透明性・公開性などによって十分に国際的信頼が得られるのであれば、核燃料サイクル活動を実施できるという可能性を残しておくことが、問題国としても信頼醸成に取り組むインセンティブになるものと思われる。
また、ブリックス前事務局長が言うように、唯一の被爆国であり非核兵器国である日本が世界の核不拡散問題に積極的に取り組んでいくことが重要であり、原子力機構としても支援・貢献していく必要がある。
【報告:政策調査室 倉崎】
<中国企業に米が制裁>
米国政府は13日、イランにミサイル関連の部品を供与したことを理由に、中国企業4社と米国にある子会社1社に制裁を科すと発表した。対象企業は米国民との取引ができなくなるほか、米国管轄下にある財産が凍結される。イランのアフマディネジャド大統領がオブザーバー出席する上海協力機構(SCO:中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)首脳会談を前に、中国とイランの接近を牽制する狙いもあるようだ。
こうした中、6月14日、経済産業省は貿易管理規制を強化し、日本に寄港して積み替えたり、日本の領海を通過する際にも輸送をとめることが出来る法令や、テロ関連団体や個人への輸出入を禁止できる枠組みも検討する方針を固めた。テロリストに指定している個人や団体の資産凍結と連動して貿易全体を凍結するとしている。貿易管理の目的を事実上、経済制裁にまで拡大させることになる。
なお、SCOは5周年宣言の中で、国際的な大量破壊兵器不拡散の枠組み強化に今後貢献していくと明記された。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年6月13、14、15日、日経新聞 6月10、14日、読売新聞 6月9、13日
中国では、2002年以降に様々な輸出管理に関する法令を施行したが、近年、多くの中国企業がイランへ大量破壊兵器やミサイル関連技術の部品を輸出したとして米国から制裁(制裁の内容については、米国政府機関との政府調達からの排除、米国政府からの支援停止等、個々に定められている。)を課されている。大量破壊兵器につながる部品をイランへ輸出したとして中国企業5社に2年間の制裁(2003年6月)、イランの弾道ミサイル改良につながる協力をしたとして中国企業7社に制裁が課されている(2004年12月)。
紳士協定的な国際輸出管理の枠組みへの参加に対しても中国は消極的である。原子力供給国グループ(NSG)注1にのみ加盟し、他のオーストラリアグループ(AG)注2、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)注3、ワッセナーアレンジメント(WA)注4には未加入である。
日本では経済産業省が、大量破壊兵器開発に懸念がある外国企業や団体について、米国務省や商務省が作成したリストを反映して纏めた「外国ユーザーリスト」も使って輸出規制を実施している。これに対し、中国は本年2月と5月に自国企業14社全てを同リストから削除するよう経済産業相に要請した経緯がある(結果、削除していない)。今般、経済産業相による貿易管理強化の内容は、米国が中心となって関係国と連携して船舶の臨検などによって大量破壊兵器等の拡散を阻止する「拡散に対する安全保障構想(PSI)」に貢献する機能が予想される。貿易管理体制の強化が東アジアを会した大量破壊兵器拡散の防止に資することは言うまでもなく、今後も日本は国際的な貿易管理強化に積極的に貢献していくべきである。
注1)NSG:原子力専用品・技術及び原子力関連汎用品・技術の移転に関する輸出規制
注2)AG:生物・化学兵器の不拡散を目的とする輸出規制
注3) MTCR:大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与しうる関連汎用品・技術の輸出を規制することを目的とする輸出規制
注4)WA:通常兵器及び関連汎用品・技術の過度の蓄積防止による国際社会の安全、テロリストグループ等による通常兵器及び関連汎用品・技術の取得の防止を目的とする輸出規制
(参考)
- 平成18年「日本の軍縮・不拡散外交(第三版)」 外務省 軍縮不拡散・科学部編集
- 平成18年5月30日 産経新聞
【報告:政策調査室 大塚】
<エルバラダイ事務局長、核不拡散政策を提言>
IAEA事務局長のエルバラダイ氏は、6月14日のワシントンポスト紙に原子力保障措置の再考と題する論文を発表し、その中で、次の3点を提言した。
- 核兵器に依存する安全保障政策からの脱却
- 核燃料サイクルの機微部分の多国間管理と原子炉燃料の供給保証
- NPT未加入3カ国の核不拡散問題解決にむけた措置
- NPTは、5核兵器国に対し、恒久的に核保有の正当性を認知したものでなく、米-印合意では、インドの核保有について中立である。
- インドは、NPTに未加入であり、法的約束に違反していないのみならず、核拡散を助長した実績もない。
- 原子力以外の技術分野では、米と印は緊密に協力しているのに、原子力の民生利用のみを協力の対象外にする論理は理解しがたい
- インドがNSGガイドラインにコミットし、民生利用施設を保障措置下におき、FMCTの締結を支持することで、核不拡散上の利点がある
- 国際テロ対策にも、効果が期待される など
エルバラダイ氏の論文の中には、米国議会で指摘される核不拡散上の懸念(民生協力による核開発の助長、IAEA保障措置の内容、他国の核拡散への影響)については、具体的言及がない。
IAEA事務局長の立場として最優先すべきは、インドとの保障措置協定の締結であり、その内容が米国や国際社会に受け入れられるものとするよう努力することが重要である。
(情報ソース)
- 平成18年6月14日、Washington Post紙
【報告:政策調査室 濱田】
<米印民生原子力協力>
『米印協議始まる』
6月12日、米国とインドの両政府代表団が民生用原子力協力の実施に向けた協議を開始した。インド政府は「インドが核実験を実施した場合には協力を停止できる」とした同協定の条項に反発している。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年6月11日、電気新聞 6月14日
2005年7月の米印共同声明にて、インドは一方的な核実験モラトリアムの継続を宣言しており、それを前提に米国は民生原子力協力に合意していることから、今回のインドの反発は、議会への協定承認を諮る上で重大な障害となり得るものである。
米国の要求は、インドに対して特別なものでなく、日米原子力協力協定にも、"日本が核爆発装置を爆発させる場合には、協力の停止、終了と返還要求の権利を有する"旨の規定がある。因みに、同協定には、日本にも、"米国が協定に基づいて日本から移転された資材、核物質等を使用して核爆発装置を爆発させた場合には同様の権利を有している"旨の規定もある。
【報告:政策調査室 栗林】
インドの反発は、核実験モラトリアムが二国間協定で正式に成文化され法的拘束力を持つことを嫌っているためとの見方と、日米協定と同様に相互で対等でない条項が提案されているからとの見方がある。尚、過去に以下の決定があったことを参考に示す。
《大気圏内核実験を終了させるというフランスの一方的宣言について、1974年に国際司法裁判所では、「公に、かつ、拘束される意思を持つ」とされるとの決定がなされた。》
【報告:核不拡散科学技術センター兼務 小鍛冶】
『米国からの支持依頼』
「小泉首相は今月末の日米首脳会談で米国とインドの民生用原子力協力の合意支持を表明する意思を固めた模様。インドが民生用原子力施設へのIAEAの査察を受け入れ、英仏なども支持を表明したことを考慮した。
(情報ソース)
- 日経新聞 6月13日
原子力供給国グループ(NSG)及び米国議会の動向が定まっていない段階での支持表明は、これまで慎重な態度を取ってきた日本政府の方針から見てあり得ないのではないか。これまでの主張を覆すだけの理由は見当たらない。ただし、この協力を契機にインドが兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)を批准することなどが現実とするのであれば、世界にとって核不拡散上のメリットは大きく、支持する価値は出てくる。
【報告:政策調査室 濱田】
『NSGでの例外扱い』
先日のブラジルでの原子力供給国グループ(NSG)会合において、中国は、「単一国の例外を認めるのではなく、例外基準を設けて対処すべし。」と提案した。
(情報ソース)
- Times of India 6月6日
中国の提案は、インドのみを例外としたい米国の要求に対して、事実上対応困難な提案をすることによって拒否の意向を示したものと考えられる。NSGにおいては、米国ブッシュ大統領提案やそれを踏まえた2004年のシーアイランドG8サミットでの合意を踏まえ、現在、機微技術の移転の際の条件を厳しくするための議論が為されている状況であり、NSGの輸出制限を厳しくすることはあっても、それを例外基準によって緩めるという提案に加盟各国の理解を得られるとは考え辛い。
【報告:政策調査室 濱田】
<北朝鮮問題>
韓国外交通商高官は6月9日、北朝鮮の長距離ミサイル「デポドン2号」の発射準備の「兆候が強くなっている」と述べた。
米国政府は12日、長距離弾道ミサイルの発射実験が約1週間のうちに実施可能であると語った。だが、北朝鮮の動向に詳しい情報筋は14日、「北朝鮮の活動は続いているが、燃料搬入はされておらず、具体的兆候は把握されていない」、ソウルの外交筋も「発射が差し迫るなど状況が悪化している認識はない」と語った。
日米両政府は警戒を強め、米軍は電子偵察機による監視飛行を始めたが、北朝鮮政府は監視されているのを承知しており、見られることも計算のようだ。米国政府関係者は中断している六カ国協議の再開をめぐり「議長国・中国による説得工作が不調に終わって以降、北朝鮮はミサイルの動きを強めた」と指摘。北朝鮮は米国の金融制裁に対し、ミサイル発射の動きを利用しながら、米国の柔軟な対応を要求している。過去のミサイル実験騒動と同じように今回もデモンストレーションで終わる可能性もあると見られる。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年6月13、14日、日経新聞 6月10、14日、読売新聞 6月9、13日
テポドン(大浦洞)は弾道ミサイルの一種で、その中でも中距離弾道ミサイル(IRBM)と考えられる。「テポドン」とはこのミサイルが確認された地名からアメリカがつけたコードネームであり、北朝鮮側では「白頭山1号(ペクトゥサン・イルホ) 」とよばれている。 テポドンは2段式の弾道ミサイルで、燃料は液体式である。1段目に「ノドン」を、2段目にスカッド・ミサイルを使用し、ペイロードは750kg、射程は約2,000kmといわれる。テポドン-1は1998年8月31日に発射され日本列島の上空を飛び越して波紋を呼び起こした。なお北朝鮮側は、このミサイル発射は人工衛星の打上げためとした。
北朝鮮北東部の咸鏡北道花台郡にあるミサイル実験場で発射準備の兆候は5月上旬から確認され、これは新型のテポドン-2として次第に注目されつつある。1段目に新型ブースター、2段目にノドンを利用し、最大射程がテポドン-1の2,000kmから6,000kmに延びて、米国のアラスカまで到達されるとされる。北朝鮮はミサイル発射を政治的な駆け引きに用いており、中断している6ヶ国協議再開及び、金融制裁問題と関係付けると思われ、発射の決定は最後の段階になるまで不明である。
イランの核問題に関して濃縮活動の停止が重要なポイントになっているが、イランは正当な権利であり、誰とも交渉するつもりはないとして、濃縮活動を停止する気配はないどころか拡大を計画している様子。一方で新たに未申告の高濃縮ウランが検出されたことにより、原子力利用は平和目的と主張するイランに対して更なる不信感が募るおそれがある。原子力の平和利用は正当な権利かも知れないが、そのためには国際的な信頼を得ることが不可欠であり、まずはIAEAによる未解決の問題や新たな疑問に対して透明性と誠意を持って対応し、国際的な信頼醸成を図るべきである。その様なインセンティブとして、未解決の問題・懸念が解決され十分な国際的信頼を得ることができれば、濃縮活動の再開容認の可能性を残しておくことは重要である。
一方、イランへの制裁に関しては、日本は原油の15%程度をイランから輸入している上、日本が75%の権益を持つイランのアザデガン油田の問題もあり、日本は厳しい判断を求められることになる。
【報告:政策調査室 倉崎】