核不拡散ニュース No.0015 2006.06.01
<イランの安保理決議関連>
イラン核問題に関する国連安全保障理事会の包括的な決議案において、イランが濃縮停止に応じた場合の「見返り」として原子力技術協力や貿易支援、安全保障、新型の民間航空機供与(ブッシュ政権は平成17年3月航空機部品の供与を決めたが、機体そのものの売却は認めていない。)また、濃縮停止に応じない場合の「抑止策」として、海外資産凍結など金融制裁や高官の渡航禁止といった制裁が検討されているようだが、5月24日の常任理事国に独を加えた会合では、合意に至らなかった。「見返り」としてのイランの安全保障をすることについては、ライス米国務長官は5月21日に拒否する姿勢を示しており、イランと周辺湾岸諸国による「地域安全保障メカニズム」の構築が検討されているという。
また、米国政府は5月15日の対リビア国交正常化発表の際に、「見返り」なしの「リビア・モデル」のように、核兵器計画の先行廃棄が不可欠だとの立場を強調した。なお、ライス米国務長官は4月30日、イラン核問題に関して、要人の渡航禁止や在外資産凍結など「有志国連合」による制裁措置もありうることを示唆しており、5月23日、欧州(スイス2銀行・オランダ・英国)主要4銀行が米政府の要請を受け、イランの個人や法人との直接取引や新規取引の中止などの措置を取っているという。さらに、米国は5月24日から「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の共同演習をトルコで行うなど、安保理以外でのイランへの圧力を強めている。
イランのアフマディネジャド大統領は5月14日、濃縮計画に関する「あらゆる妥協の提案を拒否する」と述べ、5月17日には民生用軽水炉技術提供の見返り案を、拒否する姿勢を明確にした。また、イラン外務省報道官は5月21日、米国による「安全保障」についても、米国は過去に多くの国との約束を破ってきたと強調し、「幻想」だとして取り合わない姿勢を示した。さらに、イラン国会の過半数の160人以上の議員は5月7日、安全保障理事会が平和的な解決に努力しない場合は、「IAEA追加議定書の署名を取り消し、NPT離脱検討を要請する」と表明した。
なお、イランのアフマディネジャド大統領は5月8日、ブッシュ米大統領あてに「科学研究は国家の基本的な権利」と主張した書簡を送ったが、ブッシュ大統領は「核開発をいつ放棄するのかという国際社会の疑問に答えていない」として、書簡が一蹴されている。一方、ロシアのラブロフ外相は5月16日、「中露両国は軍事行動の口実となる国連安保理決議を支持できない」と語った。
(情報ソース)
- 平成18年5月8日 日経新聞、5月10日 読売新聞、5月11、18日 朝日新聞、5月12、16、22、24日 産経新聞、5月17、25日 毎日新聞、ロイター通信 5月19日
<中国が各国の大量破壊兵器関連活動を支援>
米国中央情報局(CIA)の報告書が2004年に中国が、パキスタンの弾道ミサイル開発の支援、イランの弾道ミサイル国内生産支援、リビアと北朝鮮に弾道ミサイル関連資材や技術を供与、イラン化学兵器生産関連の機材と技術の供与を行ったと記している。また、BBCテレビによるとイランの濃縮ウランの製造に、かつて購入した中国製の原料が使用されている可能性が浮上。
(情報ソース)
- 平成18年5月18日、20日 産経新聞
中国は最近軍事費を急速に増加させていると批判されているが、それだけでなく他国の大量破壊兵器関連活動を支援していることも明確に示された。大量破壊兵器の運搬手段となるミサイルや関連資機材・技術の輸出管理を行う「ミサイル技術管理レジーム(MTCR)」に中国は参加しておらず、必ずしも条約等によって禁止されている活動とは限らないが、今後、中国との様々な原子力協力を考えていく上では、少なくとも中国の原子力分野における平和利用担保、透明性向上、輸出管理強化等を求めていく必要があると考えられる。
なお、1990年代末に米国は、中国が原子力の輸出規制を強化することを条件として原子力協力を開始した経緯がある。本件は原子力分野ではないが大量破壊兵器拡散の観点から重要な問題である。
【報告:政策調査室 倉崎・堀】
<イラン、4.8%の低濃縮ウラン製造に成功>
イラン原子力庁のアガサデ長官はナタンズで4.8%の低濃縮ウラン製造に成功したことを発表するとともに、国内のウラン鉱探査の結果、年間30トンのウラン精鉱が可能との見通しを示した。また「5%以上の濃縮は計画していない」と述べた。IAEAによると、イランのラザビンの元軍事関連研究所から極めて微量の90%程度を下回る高濃縮ウランが検出したと明らかにした。2003年にも検出された時、イラン側はパキスタンから持ち込んだ機器に付着と主張。
(情報ソース)
- 平成18年5月3、14日 朝日新聞、5月20日 産経新聞
本年4月上旬のイランの発表では3.5%のウラン濃縮に成功したとのことだったが、さらに研究を進めて4.8%まで濃縮したことになる。平和目的であり5%以上の濃縮は計画していないとのことだが、IAEA査察等によって厳格に確認していく必要がある。また、高濃縮ウランの検出に関しては、2003年に関連施設で環境サンプリングした試料から最高70%程度までの未申告の高濃縮ウランが検出されたことがあり、確定はしていないが、IAEAによる様々な分析等の結果、パキスタン等の海外から関連資機材を輸入した際に付着していたものとするイランの主張を裏付けるものが多い。今回の高濃縮ウランがまた別の場所での検出だとすると、イランはまた誠実に申告していなかったことになり、国連安保理決議の検討などにも影響を与える可能性もある。
【報告:政策調査室 倉崎】
<米、カットオフ条約の草案を提示>
米国政府は5月18日、ジュネーブ軍縮会議で兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の草案を提示。検証措置は盛り込まれず、違反の疑義が生じた場合は国連安保理へ付託する手続きが盛り込まれている。米国は、米印原子力協力との関係でインドなどの核兵器増産を防ぐことで議会の懸念を払しょくすることも狙っている。年内合意を図りたいとしている。
(情報ソース)
- 平成18年5月18日 共同通信:電子版、平成18年5月19日 読売新聞及び電気新聞
米印民生用原子力協力の中で両国はカットオフ条約締結に向けて取り組むことを合意している。米国は従来カットオフ条約の検証は不可能という立場に立ち、インドは検証可能なカットオフ条約の締結を支持している。このことから、米国の新たな提案に対しインドがどのような立場を示すのか注目される。
また、条約の履行が検証されない内容となることから、非核兵器保有国からの反発も予想される。フランスや他の核兵器保有国も含めて注1、これまで多くの国が検証可能なカットオフ条約についてジュネーブ軍縮会議での交渉開始を支持している。
(参考)
カットオフ条約は、1993年にクリントン米大統領の国連総会演説の中で提案された。同年11月には同条約をジュネーブ軍縮会議(CD)で交渉することが合意され、1995年には同条約を扱う特別委員会の設置が決定されている。
しかし、2000年NPT運用検討会議の会期内に「宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)」についての交渉をカットオフ条約交渉と同時に開始することを主張する中国と、PAROSに関して交渉を行うことは受け入れられないとする米国の対立により、特別委員会の再設置ができずに交渉が開始されずに現在に至っている(98年に印パの核実験を受けて特別委員会は設置されたが、実質的な条約交渉が開始されたわけではない)。日本としては、原子力の平和利用のための核分裂性物質は条約禁止対象に含まれるべきではないとの立場であるが、条約発効のために積極的に取り組んでいる。さらに、発効までの間、核兵器国が兵器用核分裂性物質の生産停止(生産モラトリアム)を一方的に宣言すべきことを主張し、毎年提出している核軍縮決議案の中でも言及している。
元来想定されている条約上の義務としては、自国における核爆発装置の研究・製造・使用のための兵器用核分裂性物質の生産禁止の他、他国の兵器用核分裂性物質の生産に対する援助禁止や条約履行を検証する措置の受け入れ等がある。このため、新たな核兵器国の出現を防止、核兵器国による核兵器の生産制限、という核軍縮と核不拡散の両面で極めて重要な条約である。
(情報ソース)
- 平成18年「(日本の軍縮・不拡散外交(第三版)」 外務省 軍縮不拡散・科学部編集
【報告:政策調査室 大塚】
<米国の北朝鮮関係法案>
ルーガー米国上院外交委員長が「北朝鮮関係法案」を近く提出予定。法案には、北朝鮮がプルトニウムの移管や再処理施設および原子炉の閉鎖などを実現すれば、米朝関係を正常化し、更に、ミサイルの廃棄、生物・化学兵器の廃棄が実施されれば、テロ支援国指定から解除することなどを明記しているほか、北朝鮮が求めている朝鮮戦争休戦協定(1953年)に代わる平和条約については、交渉開始の条件として「拉致問題解決」などをあげている。
なお、北朝鮮の国連次席大使は、5月22日に「米国と平和体制を構築し、関係改善しながら核兵器放棄が順序」としている。
また、米国シンクタンク「グローバル・セキュリティ」によると、北朝鮮の寧辺の実験用黒鉛減速炉(五千キロワット)(プルトニウムを年間で6キロの製造能力)で、今年1月煙突から煙が出ており、再稼動させていることが明らかになった。同炉は94年の米朝枠組み合意で閉鎖したが、03年2月末に再稼動させ04年に稼動を中断していた。
(情報ソース)
- 平成18年5月16日、20日 産経新聞、5月21日 読売新聞、5月20日 毎日新聞、5月24日 日経新聞
昨年9月の第4回六者協議での共同声明において、北朝鮮は全ての核兵器及び既存の核計画の廃棄やNPT等への早期復帰を約束するとともに、米朝の国交正常化のための措置をとることや、朝鮮半島の恒久的な平和体制について協議することなどが合意されている。しかし、その直後から、それら合意事項の解釈や手順について北朝鮮と他国の認識が一致していないことが明らかになっていた。今回の米国の法案の関連でも、北朝鮮の核兵器放棄と国交正常化、平和条約などとどちらが先かについて、様々な議論がなされる可能性がある。
ただし、1994年10月の「米朝枠組み合意」では、北朝鮮の黒鉛減速炉と再処理施設等の凍結・解体を前提として、軽水炉2基と重油の提供を約束し、実際にその提供等を行っていたにも関わらず、その後も北朝鮮側は様々な原子力活動を行っていたことを考えると、あくまでも最初に北朝鮮の核兵器関連施設の閉鎖・解体を実現すべきである。
【報告:政策調査室 倉崎】
<露、核兵器への依存を強める>
ロシアのプーチン大統領は5月10日、年次教書演説を行い、核兵器の宇宙配備や小型核兵器開発などに言及するとともに、エネルギー供給国として発言力を強化、核戦力を柱とする軍備近代化を進めるという強硬な外交戦略を明示。具体的には戦略爆撃機、大陸間弾道弾(ICBM)、潜水艦発射弾道弾(SLBM)の「戦略核の3本柱」の近代化に力点を置く方針。軍拡路線をとる理由について、テロの脅威に加えバルト三国やポーランド、グルジアなど近隣諸国が北大西洋条約機構(NATO)加盟に意欲を見せていることをあげ、「我が軍が強くなれば外交圧力をかけようとする誘惑は減じる」と、軍近代化を優先課題の一つに掲げた。また、ロシアが将来、エネルギー供給を第三国への圧力行使に利用する懸念を各国に植え付けた。
(情報ソース)
- 平成18年5月11日 日経新聞、読売新聞
エネルギー供給国として影響力を高めると明示したことは、ロシアが提案している核燃料サイクル・センター構想が実現し、将来ロシアが国際的な放射性廃棄物の受け入れ先となった場合でも、突如政治的な理由により受け入れを拒否するといった政策を行使する状況も考えられ、政治的な影響を出来る限り排除した燃料供給保証体制の構築を国際的に検討しようとする中で逆行する動きとして懸念される。また、他にも、旧型核兵器から発生する余剰プルトニウムなどの処分が進展しない、といった影響が考えられる。
なお、ロシアの軍近代化は以前から優先課題として位置づけられている。小型核兵器開発についても、2003年7月に訪英したイワノフ国防相は、米国の小型核兵器開発に倣って小型核兵器を開発する方針を示している(注1)。
【報告:政策調査室 大塚】
<GNEPでの日米協力、日米原子力協力協定に抵触の可能性>
5月5日、小坂憲次文部科学相がボドマン米国エネルギー省長官と合意に達した協力には、米国での再処理施設建設について日米で共同設計する旨が盛り込まれている。これは、日米原子力協力協定(日米協定)に抵触する可能性があり、改定など協定見直しも検討していることを米国エネルギー省のスパージョン次官補は明らかにした。
(情報ソース)
- 平成18年5月13日 共同通信、平成18年5月14日 西日本新聞:電子版
今回のGNEPにかかる合意は、
(1)米国の核燃料サイクル施設の設計、(2)日本の高速炉「常陽」「もんじゅ」を活用した燃料開発、(3)原子炉をコンパクト化する構造材料開発、(4)先進高速炉用の蒸気発生器の開発、(5)核燃料サイクル施設などの査察を含む保障措置の枠組み検討、の5分野であり、この内の「米国の核燃料サイクル施設の設計」には、日米協力しての再処理施設の設計などが含まれる。
現行の日米協定では、第2条1(a)により、「両当事国政府は、両国における原子力の平和的利用のため、この協定の下で次の方法により協力する。」と定める一方、同条1(b)で、「(a)の規定にかかわらず、秘密資料及び機微な原子力技術は、この協定の下では移転してはならない。」と例外を定めている。この例外の一つである「機微な原子力技術」については、第1条(j)で「公衆が入手することのできない資料であって濃縮施設、再処理施設又は重水生産施設の設計、建設、製作、運転又は保守に係る重要なもの及び両当事国政府の合意により指定されるその他の資料をいう。」と明記されている。
米国DOEスパージョン次官補の発言は、これを踏まえてのものであるが、実際に日米協定の改定が必要かどうかについては、以下の議論がある。
- 再処理技術であっても公知、あるいは重要でない、と判断されれば良い。
- GNEPは多国間の枠組みであるので、今回合意を多国間条約等の下に実施すれば良い。
【報告:政策調査室 栗林】
<IAEA事務局長、ライス国務長官と核不拡散対話で米印協定支持を表明、イラン核問題は交渉による解決を>
2006年5月24日、IAEAエルバラダイ事務局長とライス国務長官が、ワシントンで核不拡散に関する協議を行った。その中でエルバラダイ氏は、米印協定はWIN-WIN協定であり、議会にとってもそのような認識が得られることを期待する。この合意が実現されれば、インドが核不拡散の枠組みのパートナーになることが保証されるとの希望を述べた。
また、イランの核問題については、イランは、自らの計画が本質的に平和目的であるという信頼を国際社会が得るために必要ないかなる措置をも講ずることが重要であると述べるとともに、イランは、EUとの交渉のテーブルに戻ることが重要であると述べた。
(情報ソース)
- 2006年4月25日 ロイター通信及びHindustan Times、IAEA WEBSITE, USDOS WEBSITE
米印協定については、エルバラダイ氏は、これまでも一貫して、支持するとの立場を表明している。例えば、2006年3月2日の米印合意の当日に、この合意は、「インドに対する原子力技術や核燃料のアクセスの信頼性を保証するとともに、国際保障措置体制の普遍化に向けたステップであり、インドにとっても国際社会にとっても利益がある。」と表明している。
今回、ライス国務長官との対話で、再度、支持の立場を表明したのは、この協定を審議中の米国議会に対するメッセージの意味があると思料される。しかしながら、論点のひとつである印―IAEA保障措置協定については、メッセージはなく、議会審議にどのような影響があるかは不明である。また、イランの核問題については、ウラン濃縮の見返りと制裁案について、六者協議で合意を取り付け、イランとの交渉にあたることが重要であろう。
イランの原子力問題については、国連安保理でのイラン制裁決議をめぐり、各国の折衝が続いている。米国、英国、フランス、ドイツの欧米4カ国と、制裁に消極的なロシア、中国とのあいだでイランがウラン濃縮活動を放棄した場合のインセティブと、逆の場合の制裁の内容について協議が進められている。
一方、イランは米国との直接対話を求めたが、米国は6ヶ国での共通のアプローチを作ることを優先して直接対話を拒否したと伝えられる(5月25日、ニューヨークタイムズ)。また、イランの国会においては、ウラン濃縮などの原子力平和利用はNPTでの枢要な権利として、制裁が下されればNPTからの脱退をほのめかしている。イランが核兵器の取得を目指しているとしたら、それはイスラエルや米国の脅威が大きく影響しており、米国がイランを攻撃しないとの安全保障を与えることが問題解決に大きく寄与すると思われるが、イランには米国への不信があり、一方、米国も簡単には安全保障を認めないであろうし、現にライス国務長官は否定しており今後の6ヶ国協議での内容が注目される。
【報告:政策調査室 濱田】