核不拡散ニュース No.0004 2006.01.11
<フランス、ロシアに使用済燃料を廃棄>
反原発団体の「世界エネルギー情報サービス」(以下、WISE)の調査で、フランスはロシアに使用済燃料を送りながら、再処理後の1割しか回収していないことが判明した。年間1万5千トン発生する使用済燃料のうち、4,500〜6,000トンをロシアに送り、9割がシベリアの核施設に保管されているという。ロシア国内に2万トンを超える総量が保管されているという。
(情報ソース)
- 毎日新聞、2005年12月31日
<2006年も引き続き核拡散の危険性は高い>
核拡散のリスクは2006年も引き続き高い。北朝鮮問題は今後も長引き、疑惑は続く。イラン問題は、強硬派の政権下で核不拡散上の主要懸念事項になっている。2006年は、米国またはイスラエルの単独、あるいは両国による先制攻撃の可能性が更に高まるだろう。
(情報ソース)
- Jane's Intelligence Digest, 03 January 2006
イラクでシーア派の政権が誕生したため、主要民族スンニ派で構成される湾岸諸国はシーア派台頭の危機感を募らせている。主要民族をシーア派とするイランが先制攻撃された時、スンニ派湾岸諸国はどう対応するのか動向が注目される。ただ、同記事では核兵器か、または通常兵器による先制攻撃かについては、不明。また、来年にも実現するかもしれない核燃料施設の多国間管理構想との関係においては、イランが自前の濃縮施設を保有した場合、ブッシュが提案した多国間管理はサイクルの保有を既存施設のみに限定していることからイランを多国間管理構想にどう組み込むかが焦点となるだろう。
【報告:政策調査室 大塚】
<パキスタン 中国原子炉購入>
パキスタンが中国から最多で8基の原子炉を購入する方向で交渉に入った。総発電量にして3600〜4800MWatt、購入費は70〜100億ドルで、2015年から10年計画で原子炉を建設する。
(情報ソース)
- Financial Times, January 3, 2006
パキスタン政府関係者の発言によるものと記事にあるが、BBCによると、パキスタンは報道を否定したとの事である。パキスタンの核開発の父と呼ばれるカーン博士が、イラン、リビア、北朝鮮といった各国に核技術を流出させた経緯もあり、この原子炉購入が新たな核拡散リスクになる事が懸念される。
米国は、幾度となく中国に対し、パキスタンへの核協力を停止するよう求めてきており、この原子炉供給が実現する事となれば、米中関係のへの影響も考えられる。尚、事実上の核保有国であるインドとパキスタンに対して、米国はインドと原子力協力協定の早期締結を目指す共同声明を、中国はパキスタンと「友好、協力と善隣」という協定を、2005年に発出/締結しているが、米中両国とも、NSG(原子力供給国グループ)に参加しており、IAEAとの間で包括的保障措置協定を発効させていない、インドやパキスタンに対しての原子力資器材や技術の輸出は行わない、というのが、これまでのスタンスである。
「友好、協力と善隣」協定 −The treaty of Friendship, Cooperation and Good-Neighborly Relations betweenthe People's Republic of China and the Islamic Republic of Pakistan
【報告:政策調査室 栗林】
<米国予算におけるバンカーバスターの扱い >
米国議会は、先月(2005年12月)、国防省が2006年に在来型の地中貫通試験を実施する予算400万ドルを承認。試験は、模擬弾頭をコンクリートブロックに打ち込むもので、地中に打ち込むのに既存の貫通弾よりも十分耐える兵器を開発可能かを評価するために必要。議会としては、新たな核兵器(地中貫通核兵器)開発の予算は認めず、在来型兵器のためのものとしているが、在来型貫通弾だけでなく貫通核兵器にも関連したデータが得られる。
(情報ソース)
- Global Security Newswire, 2006.1.3
昨年から、2006年度の地中貫通型小型核兵器(バンカーバスター)開発に関して、エネルギー省から要求されていた予算400万ドルが議会で削除され、国防省予算に切り替える動きがあったが、最終的に、バンカーバスターではなく、在来型貫通弾の試験として、国防省予算として承認された様子。ただし、実質的にバンカーバスターにも利用可能なデータが得られるという点では、実体は変わっていないものと考えられる。
【報告:政策調査室 倉崎】
<イラン 原子力開発再開を通告>
1月3日、イランは自発的に停止していた平和的原子力エネルギー計画に関する研究開発(R&D)を2006年1月9日から再開するとIAEAに通告した。IAEAのエルバラダイ事務局長は、イランを含めた各国がNPT下での原子力の平和利用の権利を有するが、イランは過去の原子力計画に係る問題を解決する必要がある、と強調した。これに対し、1月4日、イラン外務大臣は、「独立国家は平和的原子力活動実施に(他国の)許可は不要である。イランの原子力戦略は、国際法の下で保障された権利と透明性とを基礎としている。」と発言し、原子力開発はイランの意思で再開できる事を再度主張した。
(情報ソース)
- IAEA HP, January 3, 2006及びイラン外務省 HP
過去に未申告での原子力開発を実施していたという事実が、透明性を基礎、というイランの主張を国際的に認めがたいものとしている。イランの通告には再開を表明したR&Dの内容は明示されていないが、ガーディアン紙には、遠心分離機を用いた実験ではないか、と記されている。イランは一大産油国である事、国際的濃縮組織であるEURODIFに資本参加していながら応分の製品(濃縮ウラン)を必要としていないなど、原子力エネルギーの利用という観点からは、その核燃料サイクル活動に疑問が残る。
【報告:政策調査室 栗林】
<イランの核の危険>
イランが核武装した場合、湾岸諸国、欧州やロシアに及び、そして米国の国益や国際的安定性に損害をもたらすことになるが、イスラエルは歴史的に最も直接脅威を受ける国である。2003年1月にイスラエルと米国の防衛専門家による研究グループがシャロン首相に提出した報告書では、イスラエルはWMD武装した敵(アラブ・イスラム諸国を想定し、明確にイランとは言っていないようである)に対する先制攻撃をとる準備をすべきだと主張し、同研究グループ長は小型核兵器による攻撃の効用さえも説明する。テルアビブ大学のハト派のシンクタンクの所長は、イランの核兵器インフラを出来る限り破壊することを目的とした先制攻撃に賛成の意である。
(情報ソース)
- The Washington Times, January 4, 2006
イランの核計画に対し、イスラエルが先制攻撃する可能性についてのニュースが多くなっている。イランの動向によっては、イスラエルの先制攻撃は現実味を帯びてくる。
【報告:政策調査室 大塚】
<ダーティボムよる被害対処方法のガイドラインを発表>
米国土安全保障省は、ダーティボム被害の際の汚染除去に関する指針を公表した。しかし、原子力施設や廃棄物処分場などよりも被爆基準が甘いと批判の声が上がっている。例えば、NRCが認可した施設では年間1ミリシーベルト以下の規制になっており、ユッカマウンテンの核廃棄物処分場でも年間0.15ミリシーベルトに制限される。指針では汚染除去後の長期被爆は年間100ミリシーベルトにまで至り、癌に至るほどの危険なレベルの放射線に人をさらすのではないか、と批判の声がある。
(情報ソース)
- NTI, January 4, 2006
ダーティボム被害への対処としては、原子力災害時の対応の様に、予測される被ばく線量を「介入(措置)」によって低減できるメリットと「介入」コストとのバランスで対処が決まるものと考えられるが、原子力災害対応の例では、50mSvの被ばくが予測される場合には「コンクリート建家への避難」となっているのと比べても、100mSv/年という値は高すぎると思われる。
【報告:政策調査室 倉崎】
<日本とインド、不拡散問題で今後協議>
麻生外務大臣はアハメド外務担当国務相との会談で、東アジア共同体構想や両国の安保理入り等を議題とする双方の戦略的対話や、局長級の軍縮・不拡散協議を開き北朝鮮やイランの核開発問題等の意見交換を開始することに合意した。
(情報ソース)
- 日経新聞、平成18年1月5日
北朝鮮やイランだけでなく、NPTに加盟していないインドの核不拡散活動を日本がどう評価するのか、インドの不拡散の取り組みに対し日本として何が協力できるのか、今後の協議の動向が注目される。
【報告:政策調査室 大塚】
<日本とパキスタン、不拡散協議で合意>
麻生外務大臣は、パキスタン訪問の際にカスリ外相と会談し、核廃絶の目標やパキスタンの核不拡散を向上させるための輸出管理の徹底、局長級の軍縮・不拡散協議を開催することで両国は合意した。
(情報ソース)
- 外務省HP、平成18年1月5日
劣化ウランと使用済燃料を間違えた毎日新聞の誤報。WISE自身、劣化ウランと認識しているし英文でもdepleted uranium(劣化ウラン)と明示されている。
なお、フランスでは、ガス拡散工場からの濃縮に伴い、発生する劣化ウランを多量に保有しており、資源利用の観点からその劣化ウランをロシアに送って、再濃縮している。ロシアではウラン濃縮能力が余っており、外貨獲得のためにウラン濃縮サービスを売り出してしる。即ち、両国の利害が、劣化ウランの再濃縮に関しては一致している。
【報告:政策調査室 高橋】