第54回核物質管理学会(INMM)米国本部年次大会参加報告
2013年7月14日から18日にかけて、米国カリフォルニア州パームデザートにて、第54回核物質管理学会(INMM)米国本部年次大会が開催された。本大会は、核物質管理、保障措置、核不拡散、核セキュリティ等の分野の管理者、技術者、研究者等で構成され、当該分野における新概念、手法、技術、機器等の研究開発を促進することを目的として毎年米国本国にて年次大会が開催されている。本大会では7つのテクニカルセッションが並行して設けられ、4日間にわたって核不拡散、保障措置、核セキュリティ等に関する約330件の発表が行われた。本大会では参加者約570人であり、例年に比べて少なかった。米国国立研究所からの参加者が少ないことに起因していると考えられ、米国における緊縮予算の厳しさが伺えた。核物質管理科学技術推進部の久野、井上、川久保、木村、寺尾らが関与したセッション・発表について以下に概要を示す。
【特別セッション:アジア太平洋地域における保障措置及び核セキュリティの協力強化に向けた取組み】(7月16日)
原子力機構,米国サンディア国立研究所(SNL)、韓国核不拡散核物質管理機構(KINAC)、韓国原子力研究所(KAERI)が共同で実施している「アジア太平洋地域の核不拡散透明性のための情報共有フレームワーク(ISF:Information Sharing Framework)の構築」に係るプロジェクトの成果と今後の展開に焦点を当てた発表が7件行われ、原子力機構からは以下の2件が報告された。
- 『原子力機構における核不拡散に関する専門家間での情報共有の経験と将来的なニーズ調査』:ISFの主な情報授受者である核不拡散専門家に対して、情報共有に関する経験と将来的なニーズに関して調査を行い、ニーズに基づいた情報共有は専門家間の満足度が高く継続的に実施されていること、また将来的に核不拡散R&D、核セキュリティ、教育・トレーニングの実施等の分野で、専門家間による情報共有に対するニーズが多く存在することが示された。(川久保)
- 『地域内透明性向上のための情報共有フレームワークに対する要求事項の開発』:本発表では、持続可能かつ情報授受者のニーズに基づいたISFをシステマティックな形で構築するために開発された要求事項が紹介された。要求事項の骨子は、“Requirement elements”と呼ばれるフレームワークの重要要素について明確に定義することにより情報共有の計画を策定し、これに基づいて情報共有を実施することでPDCAサイクルを回すことである。(井上)
これらの他、アジア太平洋保障措置ネットワーク(APSN)やブラジル-アルゼンチン核物質計量管理機関(ABACC)等、他の地域協力に関する取組みについて発表がなされ、ISFプロジェクトに反映すべき有用な知見が得られた。本セッションを通じて、ISFプロジェクトの次のステップとして、要求事項に従ってシステマティックな形で実際にISFを構築し、デモンストレーションを行うことは、透明性に関する取組みを前進させるために非常に有用であること、またISFのデモンストレーションを実施する際の枠組みとして、APSNにおいて新しいワーキンググループの設置が提案される等、今後APSNと連携してISFプロジェクトを継続するという具体的な方針が共有された。(川久保)
【核鑑識に係るセッション】(7月17日)
核鑑識に係るセッションにおいて、原子力機構で実施中の核鑑識分析技術開発及び核鑑識ライブラリ開発の現状と展望について報告した。また当該セッションにおいて、その他5件の発表が行われた。このうち超ウラン元素研究所(ITU)(ドイツ)により行われた2件の発表では、ITUにおける過去20年間の核鑑識分析の実例と、核鑑識に関する国際技術ワーキングループ(ITWG)における核物質の国際分析比較試験の成果が報告された。またその他特筆すべき発表として、熱中性子炉で生成される兵器級プルトニウム及び高速炉で生成されるプルトニウムが持つシグネチャ(核鑑識分析における、当該物質を他の物質と区別する化学的・物理的特性)を原子炉解析シミュレーションで分析する研究の成果が報告された。本セッションに関連して関係者と天然ウランに係る共同分析について打ち合わせを実施し、ITU、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、カナダ等このような比較的輸送が容易な物質の交換による共同比較分析(不純物、年代測定等)は可能であることを確認した(実現に向けた検討が必要)。また、核鑑識分析における透過型電子顕微鏡(TEM)の適用について、ITUにおける過去のTEMの使用例と、TEMで分析可能な核物質の結晶構造等のシグネチャとしての有用性についても議論が行われた。(木村)
【核分裂生成物随伴ガンマ線によるデブリ中の核物質計量管理用測定技術に係る発表】(7月17日)
現在の福島事故における計量管理対応のスケジュールのupdateを示すとともに、技術開発状況と研究課題など今後の計画を紹介した。測定対象のニーズが確実に定まらない中、適度に尤度をもつ技術開発推進の重要性、現実的な環境(サンプル分析ではなく現場でのデブリ取り出し用キャニスター対象としての測定、1つのキャニスターに許される測定時間やさまざまな内容物マトリックスなど)に適用できる技術開発の重要性を強調した。(久野)
【核不拡散の観点からの持続性のある核燃料サイクル多国間構想の研究-最終報告】(7月17日)
フロントエンドからバックエンドまで包括的な核燃料サイクルを対象とした実現性、持続性の高い多国間構想(MNA)についての最終的な枠組み提案について発表した。12の重要項目、即ち、核不拡散、核燃料サイクルサービス、ホスト国(立地国)の選定、技術へのアクセス、多国間への関与の程度、経済性、輸送、安全性、原子力賠償、政治的受容性、公衆の受容性、地政学、法規制などの特徴についての評価結果について併せて報告した。(久野)
【国際保障措置−プルトニウムリサイクル−測定技術セッション】(7月18日)
サバンナリバーサイトにおいて稼動中のキャニオンHリサイクル施設での新たな測定技術の適用、原子力機構において実施されたJ-MOXのためのバルク工程内MOX粉末・ペレット測定装置(AVIS)の性能確認試験の結果、韓国KAERIが担当するパイロプロセスでの計量管理の提案などが報告された。J-MOX用AVISでは、要求される精度が達成できることが確認できたことが紹介されたが、同時に、非破壊分析技術の限界や適用におけるユーザー側による測定への配慮点など、測定に必要な仕様を満たすために必要なポイントが理解できる発表であったと思われる。KAERIからは、従来よりパイロプロセスの弱点であった計量管理について、入量計量(ぺレット)、出量計量(インゴット)における物質(バッチ全体の)のミキシング(均質化)を行うこと、溶融プロセスにおいてモニタリングや近実時間計量管理(NRTA)を行うこと、など新たな提案が注目を引いた。(久野)
【核セキュリティ及び核物質防護の防護評価手法及びシミュレーションモデルに関するセッション】(7月18日)
SNLの開発した、特定の侵入経路における敵対者の行動を妨害する確率を計算する”EASI”というツールの考え方を参考に、ツールで取扱っていないセンサ性能や情報伝達の誤差の確率分布による表現について報告した。サンディア国立研究所の所員と情報交換をすることが出き、EASIの最新版である”ACCESS”というツールについて調べるべきとの助言を受けた。また当該セクションの原子力及び放射線サイトでの性能試験の試みという報告では、Y-12 National Security Complex (NSC)での映像ファイルを用いた性能試験の報告が行われ、センサで異常検出されにくい侵入者の行動等の現実の性能試験に関する知見を得た。
その他、核セキュリティに関する報告として内部脅威者防護技術に関する設計適用についてサンディア国立研究所から発表が注目された。思想や技能による内部脅威者の分類、予測される内部脅威者及び施設防護者の最適戦略に関する知見を得た。ゲーム理論を用いた保障措置及び濃縮施設での検査戦略選択の報告では、濃縮施設に対する敵対者の攻撃を想定し、ゲーム理論を用いた敵対者の防御側の戦略の決定手法が報告された。(寺尾)