第55回日本原子力学会賞 論文賞を受賞

熱水力安全研究グループの孫 昊旻 研究員、柴本 泰照 グループリーダー、廣瀬 意育 研究員は、Journal of Nuclear Science and Technologyに掲載された"The dependence of pool scrubbing decontamination factor on particle number density: modeling based on bubble mass and energy balances"と題する論文が原子力平和利用研究開発に関し優秀な成果と認められ、第55回日本原子力学会賞 論文賞を受賞しました。

受賞論文の概要

粒子状の放射性物質を含む気体(エアロゾル)をプール水中に吹き込んで粒子を気泡から水側に移行させて除去するプールスクラビングは、原子力発電所の重大事故時に環境への放射性物質の放出を抑制する有効な手段とされています。受賞者らが過去に実施した水に溶けない粒子を用いたプールスクラビング実験では、プールに注入される入口粒子数濃度の増加に伴ってDF(除染係数=入口粒子質量/出口粒子質量)が最大で1桁程度低下する結果が得られました。この実験結果は過去に多少の報告例があったものの、その理由が検討されたことはありませんでした。

このメカニズムについて、本論文では、プール水中を上昇する気泡内では粒子表面に水蒸気が凝縮して粒子が大きくなること(いわゆる粒子径成長)が原因であるという仮説を立て、モデル化に臨みました。気泡の上昇過程では水頭圧の減少によって気泡が膨張するため、これが凝縮の駆動力となり、凝縮は粒子表面で生じるので成長スピードは粒子数濃度に影響を受けます。粒子径はDFを決定する最も重要な因子であり、粒子径が大きいほど慣性が増して粒子は速やかに気泡表面に移動するのでDFが増加することになります。本現象を気泡内気体のマス・熱バランス式を用いて解析したところ、確かに気泡の上昇に伴って気泡内の気体は凝縮可能である相対湿度100%以上の状態となり、粒子数濃度が高いほど粒子総表面積(つまり凝縮面積)が大きいために水蒸気消費が大きく、相対湿度が低下し、粒子径成長が進みにくくなるという結果が得られました。これにより、粒子数濃度の増加でDFが下がるというメカニズムの説明に成功しました。

本研究成果は、粒子数濃度がDFの影響因子であることを示しただけでなく、気泡上昇中に粒子径が成長しうることを定量的に示したことに意義があります。従来では、水分を吸収する潮解性粒子でもない限り凝縮成長は起こらず気泡内で粒子径は不変と考えられていましたが、本研究ではあらゆる粒子に成長する可能性があることを示し、これは固定した粒子径でDFを整理する従来手法には注意が必要であることを指摘するものです。また、粒子径成長は気泡内のマス・熱バランスで決まるため、それに影響を与える気泡上昇速度などの不確かさを低減すべき物理モデルの特定にも繋がるものです。このように、本研究は波及効果も含めてスクラビング評価手法の信頼性向上に貢献するものであり、この度、原子力学会から高い評価を頂くことができました。

拝受した盾