第53回 日本原子力学会賞 論文賞を受賞

2021年3月17日、安全研究センターの和田 裕貴 研究員、佐藤 聡 研究副主幹、与能本 泰介 副センター長は、Journal of Nuclear Science and Technologyに掲載された"Liquid film behavior and heat-transfer mechanism near the rewetting front in a single rod air-water system"と題する論文が原子力平和利用研究開発に関し優秀な成果と認められ、第53回日本原子力学会賞 論文賞を受賞しました。

受賞概要

軽水炉の事故時燃料挙動に関し保守的に燃料の健全性を評価することを狙いとした研究が多くなされてきましたが、より合理的に運転条件を拡充する産業界の提案や近年の高度化された規制要求に対応するためには、従来よりも広い事故条件において生じる伝熱流動、特に、冷却状態が急変する沸騰遷移やリウェット現象(過熱した燃料棒が再び濡れる現象)などについて、現象の素過程まで考慮した適用範囲の広い機構論的予測手法の開発が重要視されています。

受賞者らは、リウェット時の液膜先端での先行冷却挙動を高速度ビデオで観測するため透明ガラス管と1本のヒーターロッドで構成される実験装置を製作し、液膜の生成方法に工夫を加えることにより、0.1 mm程度の厚みの液膜流の先端部が高温領域に流入する際に液滴等が多数生成される状況を観測することに成功しました。

また、観測された流動挙動を温度データから評価された伝熱挙動と比較し、先行冷却の特徴として、温度境界層が未発達であることから生じる入口効果と液滴等による二相流冷却効果を明らかにしました。さらに、この入口効果だけではリウェット速度が過小評価されることを示し、液膜先端近傍の液滴や液膜挙動の重要性を示す実験データベースを構築しました。本研究成果は、軽水炉における沸騰遷移後の熱伝達の予測性能の向上に大きく貢献することが期待され、この度、本賞をいただくことになりました。