廃棄物・環境安全研究グループ

研究の目的

放射性廃棄物の安全管理に資するため、福島第一発電所(1F)の事故で発生した汚染物を含む廃棄物等の処分及び原子力施設の廃止措置に係る安全評価手法を確立し、公衆や作業者への影響を定量化できるようにするとともに、安全機能が期待される材料の長期的な性能評価モデル・評価手法を構築することを目指しています。

研究内容

本研究グループでは、原子力規制庁や内外の関係機関との連携を図りつつ、2つのテーマに取り組んでいます。

  1. 放射性廃棄物処分の安全評価に関する研究
図1:熱水力安全研究の全体像

中深度処分、高レベル放射性廃棄物などの安全規制や実際の審査のために、必要な評価手法及び科学的知見を整備し、安全規制に貢献する。

  1. 原子力施設の廃止措置に関する研究
図1:熱水力安全研究の全体像

廃止措置作業のリスク評価、適切な廃止措置の最適化評価手法、核種分裂技術の信頼性確保に係る知見を整備し、安全規制に貢献する。

放射性廃棄物処分の安全評価に関する研究

天然バリア

天然バリアとは、処分場周辺の地下環境が持つ物質を閉じ込める機能のことで、物理的隔離(地上の生活圏からの隔離)と移行抑制(地下水流速が遅いこと・収着・還元性)の2つがあります。将来数万年スケールの評価では、これらの機能に影響を及ぼす様々な自然事象を考慮する必要があります。我々は、自然事象に伴う影響に関する科学的・技術的知見の整備を行っています。

  • 浅地中処分:斜面崩壊によるイベント性の侵食評価
  • 中深度処分:隆起・侵食および気候・海水準変動を考慮した万年スケールの地形変化評価・地下水流動解析
  • 中深度処分・地層処分:堆積岩中の地下水水質形成モデルの開発(水-岩石相互作用モデル)
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

人工バリア

人工バリアの一つである圧縮されたベントナイトには、放射性核種の漏出を抑制する機能として低透水性等が期待されていますが、周囲に用いられるセメント系材料から溶出するアルカリ成分によってモンモリロナイト(ベントナイトの主成分)が溶解し、その機能が劣化することが懸念されています。我々は、ベントナイト-セメント相互作用で起こる変質(鉱物反応)及びそれに伴う物質移行特性の変遷に関する科学的・技術的知見の整備を行っています。

  • セメント系材料と地下水の化学反応
  • セメント系材料中の間隙水中物質の移行挙動
  • ベントナイトとアルカリ成分との化学反応
  • ベントナイト間隙中のアルカリ成分の移行挙動
  • ベントナイトの低透水性の劣化挙動
ベントナイト-セメント相互作用
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
モンモリロナイト圧縮体とベントナイト-砂混合圧縮体の溶解速度の比較
モンモリロナイト圧縮体とベントナイト-砂混合圧縮体の溶解速度の比較

核種移行

人工バリア、天然バリア中における核種移行

長半減期核種を含む放射性廃棄物の処分では、長期の間に核種が処分場から漏出し、地下水の流れに沿って生活環境に移行することが想定されます。この移行過程において、人工バリア中では、核種の沈殿や鉱物への収着、地下水流を止水することによる遅い水の動き(拡散)により遅延が生じます。さらに天然バリア中でも鉱物への収着により遅延を生じることから、核種の減衰による生活環境での被ばく線量の低下が期待されます。このような遅延過程を考慮した被ばく線量の評価には、核種の溶解度、拡散係数、収着分配係数といった核種移行パラメータが必要であるため、実験的データ取得やモデル構築により現象を理解し、パラメータ設定のための科学的・技術的知見を整備しています。

地下水組成、人工バリア材特性、天然バリアでの岩石特性などを考慮した

  • 核種の溶解/沈殿挙動
  • 核種の拡散挙動
  • 核種の鉱物への収着挙動
核種移行研究の概要
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
モンモリロナイトへのNbの収着分配係数
(プロット:実験値、曲線:計算値)
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
生活環境における核種移行

廃棄物埋設地から漏出した核種に起因する被ばく線量の評価においては、漏出した核種が地下水を経由して海洋、湖沼、河川等の生活環境へ到達する際及び到達後の放射性物質の移行挙動を把握することが重要となります。従来この挙動の評価には、生活環境中を種々の領域に分割し、その間の物質移動を簡易的に移行係数や濃縮係数で表現するコンパートメントモデルが用いられてきました。一方、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、環境中における核種移行に関する個別現象に関する新しい知見が蓄積されております。そこで我々は最新知見を踏まえ、コンパートメントモデルにおける分割領域や各種モデルについての検討を行っております。

  • 懸濁粒子の凝集・沈降、核種脱離挙動
  • 土壌中の核種移行挙動
  • 最新知見を踏まえたコンパートメントモデルの整備
生活環境における代表的な核種移行経路の概念図
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

ボーリング孔等の閉鎖確認

ボーリング孔の閉鎖確認

中深度処分では、埋設終了から廃止措置の開始まで期間(300~400年間)は、廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏えいを監視・測定するためのモニタリング設備の設置が求められています。また、モニタリング設備の撤去に際しては、天然バリアの機能を著しく損なうことがないこと、放射性物質が移行しやすい経路が生じないよう撤去、閉鎖を行うこと等を考慮した設計がなされることが重要となります。我々は、モニタリングに使用されたボーリング孔及び周辺岩盤が適切に閉鎖されていることを確認するために必要となる科学的・技術的知見を整備するため、埋戻し材の設計条件や原位置で直接埋戻し材の性能を確認する試験に係る検討を行っています。

埋戻し材の設計条件を検討するための地下水流動解析の一例
(粘土層が存在する地質構造における粒子追跡線結果)
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
坑道の閉鎖確認

中深度処分では、天然バリアの性能に影響を及ぼすような水みちが形成されないよう、アクセス坑道や処分坑道(廃棄物埋設地)を最終的に埋め戻す必要があります。しかしながら、坑道周辺の岩盤は掘削に伴い損傷を受けた領域(EDZ)が形成されること、支保工等のセメント系材料から溶出する成分により化学環境の変化が起こること等が懸念されております。我々は、これらを考慮した上で適切に埋め戻されていることを確認するために必要となる科学的・技術的知見の整備を行っています。

  • 施工条件等を考慮した埋め戻し材(ベントナイト-砂混合圧縮体)の透水性評価
  • 堆積岩-セメント界面で起こる変質現象の理解
中深度処分における処分坑道の概念図
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
透水試験装置の概念図
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

原子力施設の廃止措置に関する研究

現在我が国では多くの原子力発電所、原子力施設が廃止措置段階にあります。廃止措置の計画、実施、終了の各段階で、それぞれ計画の認可、原子力規制検査、終了確認が行われます。また、福島第一原子力発電所は特定原子力施設に指定され、廃止措置に向けた作業が行われ、いずれ廃止措置段階に移行すると考えられます。これらの活動が適切であることを確認するための科学的・技術的知見の整備に取り組んでいます。

廃止措置終了確認

廃止措置終了確認においては、終了後に敷地を利用する公衆の被ばく線量が基準以下となることを確認できるように、サイト特性を反映した表層・地下の放射能分布評価を行い、被ばく線量を評価できる方法論及びコードシステムの作成を進めています。表層の放射能分布については、事前サーベイで得られた着目核種の計数率と試料採取による放射能濃度測定結果の両方を用いて、外生ドリフトクリギングを用いた放射能濃度分布の評価方法を開発しました。地下の放射能分布については、地下水の流れを考慮した統計学的な分布評価手法を開発しています。

外生ドリフトクリギングを用いた放射能濃度推定結果
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
地下水中の流れを考慮した統計学的な地下汚染分布評価
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

廃止措置リスク評価

原子力施設の運転段階ではリスク情報に基づく原子力規制検査が行われています。廃止措置段階でも同様の検査を行うために解体作業工程に沿った被ばくリスクの変動を評価できる手法・コードの整備を進めています。起因事象ごとにイベントツリーを作成し、起因事象の発生頻度、事象進展確率を設定するとともに、事故シーケンスごとに放出される移動性インベントリを評価して、事故時の公衆被ばく線量を求めます。事故シーケンスごとの線量と確率をかけあわせて、被ばくリスクの時間変化を評価します。

火災のイベントツリー
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像
気中切断を仮定した場合の移動性インベントリの経時変化の例
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

廃止措置の最適化

レベル区分別廃棄物発生量を低減するために追加的な除染や切断等を実施すると、作業時間が長くなり作業者被ばく線量が増加するというトレード・オフの関係にあります。そのため、これらの条件を最適化する手法を整備しています。廃止措置安全評価コードDecAssessで解体した機器を収納する容器の種類と、収納効率を上げるための切断片サイズ(切り出し係数)を変えて、発生する収納容器数と被ばく線量を評価して、最適なシナリオを抽出しました。現在は3DCADを活用して、自動探索した収納効率の高い切断片の切り出しと収納状況に基づいて、容器数の削減と被ばく線量の削減を両立させた最適化を行う手法の開発に取り組んでいます。

作業員被ばく線量と収納容器数を指標とした作業条件の解析結果例
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像

L3廃棄物の収納容器数と作業員の被ばく線量の最小ケースが異なる場合にも、費用便益分析を用いることで、解体条件の切り出し係数(作業時間、収納効率に影響)を最適化することができました。

核種分析

1Fの原子炉建屋内で採取された試料から環境試料まで、様々な試料に含まれる測定が難しい放射性核種の分析法の開発や分析、その妥当性評価を行っています。分析結果は、放射性廃棄物のインベントリ評価や放射性核種の移行経路推定、汚染の起源の推定などに利用できます。

  • 135Cs/137Cs同位体比による放射性Csの起源推定
  • 環境試料中90Srの高効率な分析法の開発
  • 試料溶解に用いる試薬の分離工程に与える影響評価
135Cs/137Cs同位体比(上段)及び134Cs/137Cs放射能比(下段)による主な汚染源の推定(2011/3/11に補正)
断層(派生断層の成長)を対象とした地下水流動解析例像