シビアアクシデント研究グループ

研究内容

シビアアクシデントとは、原子力施設の設計想定を大幅に超えて炉心溶融のような過酷な状態に至る事故のことです。

当研究グループは、原子力施設のもつ潜在的なリスクに関する情報を活用したより科学的・合理的な規制の構築を支援するため、シビアアクシデントの進展過程や、そのときに環境に放出される放射性物質の種類、物理的・化学的形態、量、放出のタイミングなど(これらを総合して「ソースターム」と呼びます)を評価するための研究を行っています。

下の図は現在の私たちの取り組みの全体像を表したものです。

国際協力や実験等から得られる知見や重要な個別事象のモデル化また、得られた知見の集約としてシビアアクシデント総合解析コードの開発を行い、さらに解析結果から得られる予測の不確かさを評価モデル開発に還元することで成果を円環的に活用し、総合的な評価手法の構築を進めています。

全体説明
全体説明

また、事故進展(時間軸)を考慮したリスク情報を導出するため、シミュレーションと確率論的リスク評価(PRA)を結びつける動的PRA手法の開発に重点を置いているところも特徴的です。

最近では、既存の軽水炉に係る課題だけでなく、事故耐性燃料等の新技術に対応した課題への対応も行いつつあり、これらは動的PRAの手法を用いることで導入効果をより明らかできるもので、我々の強みを活かす取り組みです。

これらの研究は機構内外の機関・部門と連携して進めます。

本研究成果は、原子力施設における多様な対策の成立性及び有用性の評価や継続的な安全性向上の評価に役立てられると同時に、事故影響評価コードOSCAAR等を用いて行われる放射性物質の大気拡散解析や周辺住民の被ばく線量評価などのいわゆるレベル3PRA解析の入力情報としても活用されます。

国際協力プロジェクト

当研究グループはこれまで、OECDの原子力機関であるNEAのプロジェクトを始め、この表に示されるように、多くの国際プロジェクトに積極的に参加し、原子力安全研究の最新知見の収集や動向の調査に務めてきました。

また、参加にとどまらず、共通の課題に取り組むワーキンググループやベンチマーク解析へのデータ提供などを通じて、解析技術の研鑽に励んでいます。

これまで及び現在の国際協力プロジェクトへの参加
機関計画目的
OECD/NEABSAF2福島事故の事故進展解析ベンチマーク
THAI3/THEMIS水素の爆燃及び再結合、水プールの泡立ちや沸騰時における放射性核種の再飛散及びヨウ素化学種の再蒸発
STEM2塗装壁面へのヨウ素の吸着及び壁面から脱離、ヨウ素エアロゾルの分解及びRu沈着物の再蒸発
BIP3塗装壁面へのヨウ素の吸着及び壁面から脱離、有機ヨウ素の生成及び分解
ESTERソースターム遅延放出メカニズム
PreADES燃料デブリ分析予備調査
ARC-F/FACE原子炉建屋及び格納容器内情報分析
CEAVERDON5原子炉冷却系内における放射性核種の放出、移行及び化学反応
ETSONMITHYGENE水素燃焼解析
NUGENIAIPRESCAプールスクラビング
MUSAソースターム解析の不確かさ評価

核分裂生成物(FP)の挙動や移行

FP移行挙動モデルの開発では、事故時に原子炉施設から環境中に放出されやすいガス状のFPに焦点をあて、計算モデルを整備するとともに個別効果実験によるモデルの検証を進めています。

下にあるのはプールスクラビング実験の動画で、二相流条件下で水に溶けたガス状のFPが気泡へどの程度移行するのかを調べたものです。

プールスクラビング実験
気泡発生・観測装置
図5_ツールの開発
気泡発生装置
図5_ツールの開発
高速度カメラで撮影した気泡の上昇

下に示しているのは、化学反応によるガス状FPの生成に係る移行挙動を明らかにするためにJAEA内の他グループと協力して実施している実験と、化学平衡論によるセシウムとヨウ素化学種の温度分布の一例です。

Cs-I-Mo-B-C-O-H系FP化学形データベースの整備

(原子力基礎工学研究センター 燃料高温科学研究グループと協力)

FP放出移行再現実験装置(TeRRa)
FP放出移行再現実験装置(TeRRa)
Cesium
Iodine

燃料デブリ冷却性評価

プール水による燃料デブリの冷却性を評価するために、模擬物質を用いて溶融炉心の粒子化及びデブリの堆積実験を実施している他、実験の結果などに基づき、下に示すようなスキームに沿って溶融炉心/冷却水相互作用をシミュレーションする計算コードを開発し、継続的に改良しています。

モデル開発のスキーム
図1_研究活動

下の動画は、当研究グループで整備した実験装置を使って、模擬物質が水中で実際に粒子化する様子を高速度カメラで撮影したものです。

模擬物質を用いた溶融炉心の粒子化及びデブリの堆積実験
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水素燃焼・再結合解析

事故時の水素燃焼を評価することによって、格納容器や建屋へのダメージやシビアアクシデント対策の有効性を評価することができるようになります。

水素が関連する現象の詳細な解析を行うことを目的に、数値流体力学CFDに基づく解析技術の開発を行っています。

この動画は水素燃焼及び爆燃の実験をCFDで再現することを試みたものです。

水素爆燃の数値流体力学(CFD)解析
ENACEFF No.153 実験の解析例
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また、こうしたCFD解析は、次に示すように水素燃焼のリスクを低減する水素再結合器の設置の妥当性を検証することにも役立っています。

水素再結合のCFD解析
THAI HR-5実験の解析例
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動的PRA計算手法の開発

動的PRAとは、設備の作動状況や事故対策の順序等によって変化するプラント状態の時間依存性を明示的に考慮し、事故シナリオ及びその発生頻度と影響を確率論的に評価する手法です。

当グループでは、SA解析コードと機械学習モデルを共用できる手法を構築して画期的な動的PRA計算ツール(RAPID)を開発し、PRAの網羅性も向上しながら、低頻度高影響度の事故シーケンスを効率的に生成することが可能になっています。

こうした手法開発によって、SAにおける緩和対策の有効性評価や検査の重要度評価、新技術(ATF等)の導入に係る意思決定のためのリスク情報を提供でき、原子力施設のもつ潜在的なリスクに関する情報を活用した、より科学的かつ合理的な原子力規制の構築に貢献できると考えています。

動的PRAツールRAPIDの機能と構造

図5_ツールの開発
機械学習モデルの活用により~?
図5_ツールの開発

MLによる重点サンプリングでは、低頻度高影響事象を含む可能なシーケンスを効率的にくまなく抽出することができる。

図5_ツールの開発