燃料安全研究グループ

研究内容

燃料安全研究グループにおける研究活動

燃料安全研究グループでは、発電用原子炉で核分裂エネルギーを取り出すために設計された核燃料(燃料)のふるまいを研究し、原子炉の安全性を評価する上で重要なデータ・知見を集めたり、安全評価に役立つシミュレーションツールを開発して事故など様々な状況を正しく予測できる範囲を広げ、これらを通じて原子力発電の安全確保や継続的な安全性向上に貢献しています(図1)。軽水炉では、二酸化ウラン等を焼き固めたペレットを金属製の管(被覆管)に詰めて両端を密封溶接したものを燃料として使用しています(同図(A))。この燃料が、原子炉の安全を確保できるよう、いくつかの非常に厳しい事故が想定され(設計基準事故)、そうなっても燃料が壊れないか、原子炉を冷やせない事態とならないか、燃料の設計が適切かが確かめられています(同図(B))。

図1_研究活動
図1_研究活動

しかし燃料は一般に強い放射線を放ち、事故ではしばしば非常に高い温度に達するので、このような燃料が実際にはどう壊れるのか、壊れた場合に周りにどのような影響を及ぼすのか、確かめるのは容易ではありません。さらに、東京電力福島第一原子力発電所事故では、設計基準事故の範囲を超えて事故が進展し、燃料が極めて過酷な条件下(SA、同図(B))に置かれた結果、燃料中の放射性物質が発電所外へ放出されるに至りました。同様の事故を再び起こすことのないよう講じられる対策の有効性を評価する上で、設計基準事故よりさらに厳しい条件で燃料に生じる変化も、よりよく把握していく必要があります。

JAEAが擁するホット試験施設、研究用原子炉、各種専用実験装置を使うことで、このような特殊な条件下に置かれた燃料のふるまいを調べることが可能です(同図(C))。私たちはこれら世界有数の研究施設を活用するとともに、新しい試験技術やシミュレーション技術の開発を進め、これまでより高い安全性を謳う新しいタイプの燃料へと研究対象を拡げつつ、これらの現象に関するメカニズムの解明と燃料の安全性の確認に取り組んでいます。

最近の研究活動の全体像

図2は、現在の私たちの取り組みの全体像を見渡したものです。第一の課題として、現在の安全評価の基準に対し、それらが作られて以降に新たに見出された色々な燃料のふるまいがどの程度の影響を及ぼすのか、正しく把握し、原子炉の安全確保をより確かなものとするための評価の方法を確立することです。例えば、冷却材喪失事故時に膨れ、破裂した被覆管から放出される燃料ペレットの問題、最近改良型燃料の一種である添加物燃料で見られた破損限界低下などがこれにあたり、国内外で年々知見が更新され、これに対応して燃料挙動解析コードのアップデートを進めているところです。これにならんで重要な動向として、1F事故後10年を経て、より高い安全性を備えた事故耐性燃料(ATF)の開発研究が国内でも進み、ATFの事故時の限界性能把握や事故対策の有効性評価方法の見直しに役立つ知見取得が求められています。第二の課題は、こうしたATF材への材料変更が原子炉にもたらす影響を正しく理解し、また定量的に効果を把握すること、さらにやはり、継続的な取り組みであるシミュレーションツール群の開発整備に反映していくことです。 これらの課題解決を達成する為には、評価対象の拡大、材料で言えばATFのような新しい材料のモデル化、また評価条件でいえば設計基準を超えさらに厳しい事故条件や、個々の燃料棒ではなく炉心全体を見渡す規模のシミュレーションが求められており、新しい材料を対象とした実験研究に加え、燃料分野だけでなく、材料、熱流動計算、炉物理計算、統計解析等、様々な分野の専門家の協力を得て、統合的なシミュレーションツールの構築を進めています。

図2_全体像
図2_全体像

主な研究テーマ

LOCA

原子炉の冷却材喪失事故(LOCA: Loss-of-Coolant Accident)とは炉心で発生した熱を除去する役目をもつ冷却材が配管の破断等によって炉心から流出する事故です(図3)。水位の低下に伴い冷却性が低下、燃料棒温度が上昇し、高温になった金属製の被覆管は水蒸気と反応し酸化します。非常用炉心冷却系(ECCS)の作動により原子炉内の水位はやがて回復し、燃料棒は冷却されますが、被覆管の酸化が著しく、脆くなった場合には、急冷された際に生じる熱衝撃により燃料棒が破断し、炉心の冷却可能な形状が失われる可能性があります。

図3_冷却材喪失事故
図3_冷却材喪失事故

ECCSがLOCA時の燃料棒の破断を防止し、炉心の冷却可能な形状を維持しつつ、事故を収束させる機能及び性能を有していることを確認するため、被覆管の最高温度や被覆管酸化量を制限する基準が定められています。本研究グループでは、LOCA条件を模擬した実験を行い、燃料棒の破断が起こる条件を調べることで、燃料の設計及び運用の変更、新たな科学的知見、等を考慮してもなお、これらの基準値が妥当性を有することを確認するとともに、新たに得られた知見の規制基準への反映を支援しています。

上記の基準制定以降、燃料の炉内滞在期間の延伸(高燃焼度化)や改良型燃料被覆管の開発など、燃料の使用環境は大きく変化してきましたが、これらの変化がLOCA時の被覆管の破断条件に及ぼす影響については明らかになっていませんでした。私たちが近年までに実施したLOCA模擬実験により、被覆管の破断限界は高燃焼度化に伴い若干低下するものの、被覆管材質の変更を考慮しても著しい変化はなく、現在の規制基準の適用性が明らかとなりました。

現在特に注力しているテーマは、高燃焼度燃料が膨れ、破裂(図3)した際に生じることのある、燃料ペレットの細片化と放出です。崩壊熱を発するペレットが移動したり、炉心内で堆積したりする現象は、その規模によっては原子炉の冷却を阻害しかねないことから、発生条件把握の実験や定量的な影響評価ツールの開発を進め、安全評価の信頼性向上に貢献していきたいと考えています。また、現在の標準的な燃料に比べ事故の進展を大きく抑制する効果が期待されている事故耐性燃料についても、LOCA時にどの程度の効果を発揮するのか、専用の事故模擬実験装置によりデータを取得していく計画です。

RIA

本研究グループでは研究用原子炉であるNSRRを用いて反応度事故(RIA: Reactivity-Initiated Accident) 条件を模擬し、燃料が破損する条件や破損時の燃料挙動を調べています。 RIAとは、制御棒の引抜け(あるいは落下)により原子炉出力が異常に増加する事故です(図4)。制御棒が引き抜かれると、その周囲で出力が急速に上昇し燃料温度が高くなり、燃料が破損する可能性があります。研究で得られたデータや知見は、高燃焼度燃料に関する安全基準の策定や原子炉施設の安全審査に活用されます。

図4_反応度事故
図4_反応度事故

現在は、燃料の長期利用(高燃焼度化)に対応し、高燃焼度燃料のRIA時破損条件の決定や破損機構の解明に関する研究を中心に進めています。高燃焼度燃料では、長期間の炉内使用により延性の低下した被覆管がペレットの熱膨張に耐えられなくなり、燃料が破損する可能性があります。これまでの研究で、高燃焼度化に伴い燃料は壊れやすくなる一方、旧原子力安全委員会が定めた安全評価の基準は、現在の標準的な設計の燃料に関して約80 GWd/tまで適用可能であること、またMOX燃料に対する適用も妥当であることを明らかにしてきました。

一方、ごく最近の実験では、沸騰水型原子炉(BWR)用に設計された改良型燃料の、従来の傾向から予想されるよりも低いエンタルピーでの破損、また加圧水型原子炉(PWR)用に設計された高燃焼度MOX燃料の、従来見られなかった内圧破裂型での破損が確認され、新しい知見として注目を集めています(何れも現在国内の原子力発電所では導入されていないタイプの燃料です)。これらの破損の原因について詳しく調査を進めています。さらに、軽水炉の安全性向上のために1F事故以降開発が加速し、国内でも導入が検討されている事故耐性燃料についても、反応度事故時の挙動解明を進める計画です。

燃料ふるまいシミュレーションツールの開発

燃料安全研究グループでは、自らの実験研究成果や海外の研究で得られた最新の知見を束ね、通常運転時から事故時まで幅広い条件下の燃料ふるまいをよりよく理解し、より正しく予測するためのシミュレーションツールとして、また研究成果を誰もが利用しやすい形で社会へ還元する手段として、燃料ふるまい解析コードFEMAXIを開発しています(図5)。 FEMAXIの最新バージョンであるFEMAXI-8は、原子力機構のコンピュータプログラムなどの検索システム「PRODAS」(https://prodas.jaea.go.jp/)を通して公開しており、無償で利用することができます。機構外でもこれまで大学、原子力規制庁、燃料メーカー、研究所で利用があり、燃料ふるまいの研究や新しい燃料の設計・開発、教育などに広く活用されています。さらに、現在は設計基準事故よりも厳しい条件を含め詳細に扱える燃料コードが世界的にも少なく、これを解決する事故専用モジュールであるRANNSもあわせて開発を進めており、逐次公開版FEMAXIへ統合していく計画です。

図5_ツールの開発
図5_ツールの開発