平成29年11月10日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人福井大学
発表のポイント
※)ベローズ式伸縮管継手
一般産業プラントで広く使用されており、原子力発電施設における原子炉格納容器では、格納容器を貫通する配管がプラントの運転状態に応じて温度が変化し、膨張や収縮を起こすため、これに伴う配管の変位時にも格納容器のバウンダリ機能(気密性)を維持する目的で使用されている。(詳細は「用語解説」1)参照。)
(要旨)
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」) もんじゅ運営計画・研究開発センターと国立大学法人 福井大学(学長 眞弓光文、以下「福井大学」) 附属国際原子力工学研究所は、ナトリウム冷却高速炉における格納容器破損防止対策に関する研究の一環として、原子炉格納容器等においてバウンダリ機能(気密性)を維持しながら配管等の熱膨張を吸収するために設置されるベローズ式伸縮管継手に対して、最大設計圧力を大きく超えた内圧を負荷する実験を行い、その破損様式を実験的に明らかにするとともに有限要素法解析による座屈後の変形挙動の再現に成功しました。
本研究は文部科学省の国家課題対応型研究開発推進事業「原子力システム研究開発事業」として、福井大学および原子力機構(再委託先)が実施した「ナトリウム冷却高速炉における格納容器破損防止対策の有効性評価技術の開発」の研究成果の一部です。
なお、本研究成果は、圧力機器を有するプラントの構成機器の破損について新たな知見を与える重要な研究成果として、2017年7月に開催されたASME Pressure Vessels & Piping Conference(米国機械学会における圧力容器および配管に関する国際会議)でOutstanding Conference Paper Awardを受賞しました。また、一連の研究成果をとりまとめた論文が米国機械学会の発刊する国際論文誌「Journal of Pressure Vessel and Technology, Volume 139, Issue 6, 2017」に掲載されました。
原子力発電施設等では、原子炉格納容器を貫通する配管に対して、バウンダリ機能(気密性)を維持しつつ熱膨張を吸収するために蛇腹構造を有するベローズ式伸縮管継手1)が使用されます。このためベローズ式伸縮管継手には熱膨張の吸収とバウンダリ機能(気密性)の維持という二つの機能を同時に達成されることが求められますが、その機能要求上、蛇腹部は非常に薄い(数mm)鋼板により成形されます。設計では熱膨張の吸収性能の確保の観点から座屈2)と呼ばれる破損形態は許容されず、最大設計圧力はこれにより制限されていました。しかし、重大事故時において必要とされる機能はバウンダリ機能(気密性)の維持であり、重大事故時に最大設計圧力を超えてもその機能は見込まれると考えられていました。このため本研究の立案にあたり広く文献や論文等を調査しましたが、これまでベローズ式伸縮管継手の座屈試験やその評価法の検討等は実施されてきたものの、座屈後にバウンダリ機能(気密性)の喪失に至る領域についての試験や解析研究は報告例がありませんでした。一方で、原子炉内の放射性物質の外部放出に対する封じ込め機能が要求される原子炉格納容器において、バウンダリを構成するベローズ式伸縮管継手の、重大事故時における破損様式や破損圧力は、原子炉格納容器の破損防止対策を検討する上で重要となるため、これらの実験的な検証と評価のための解析手法の構築が求められていました。
内圧破損試験を実施するための試験体を設計の上で、蛇腹部の山数や蛇腹部を成形する薄板の厚さなどを変えた総計11体の試験を実施しました。試験の結果、内圧の増加に伴いベローズ式伸縮管継手は、座屈挙動を経て蛇腹部は初期の形状を失うものの、蛇腹部が大きく張り出すような変形に至るまでバウンダリ機能(気密性)を維持し、最終的には、延性破損(張り裂けるような破損)、もしくは局所破損(変形が集中した部位での小規模な破損)によりバウンダリ機能(気密性)を喪失することが示されました(図1)。
一連の試験の結果、座屈で制限される最大設計圧力に対しておおよそ10倍以上の圧力までバウンダリ機能(気密性)が見込まれることが明らかになりました(図2)。また、これらの試験を模擬するとともに、ベローズ式伸縮管継手のバウンダリ機能(気密性)を担保できる圧力を解析的に評価することを目的に有限要素法による解析を実施し、座屈を経て蛇腹部が張り出すような挙動の模擬を可能とした上で、蛇腹部のバウンダリ機能(気密性)の維持が見込まれる最大圧力を解析的に評価する手法について提案しました(図3)。図3に示す様に解析結果に基づき評価した破損判定時の蛇腹部の張り出し量(図3中の青の点線)は試験で得られた蛇腹部の張り出し量(図3中の黒の実線)と概ね一致しました。一方で、その時の圧力は3.9MPaであり、試験で得られた最大圧力7.53MPaを保守的に見積もることができました。
本研究成果は、放射性物質の外部放出に対する封じ込め機能が要求される原子炉格納容器においてバウンダリを構成するベローズ式伸縮管継手について、重大事故時のような最大設計圧力を超えた場合に、どのような破損が想定されるのか、最大設計圧力に対してどの程度の余裕を有しているのかを示す重要な知見であり、高速炉のみならず軽水炉を含めた原子力発電設備の安全・安心に貢献する成果となります。
また、日本機械学会より発刊されている鋼製格納容器のシビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン3)では、ベローズ式伸縮管継手の座屈を放射性物質の漏えい防止の観点から、これを防止することとしていますが、本件の成果より座屈を生じてもバウンダリ機能(気密)が維持される見込みが得られたことから、同ガイドラインをはじめとして、原子力発電設備のシビアアクシデント対策の有効性を評価する際の検討などへ反映されることが期待されます。
[図中表記 解説]
蛇腹部の板厚 | : | 蛇腹部を成形する薄板1枚あたりの厚さ |
接触破損 | : | 延性破損もしくは局所破損に至る前にシッピングロッドマウントとの干渉により破損 |
延性破損 | : | 蛇腹部が縦方向に張り裂けるような破損。漏えい量は大きい。 |
局所破損 | : | 変形が集中した部位での局所的な破損。漏えい量は小さい。 |
層 | : | 2層は2枚の薄板により蛇腹部を成形したもの |
[図中表記 解説]
EJMA | : | Expansion joint manufactures association (EJMA)のこと。ここではEJMAの基準に従った評価の意味 |
複式 | : | 複式(蛇腹部を2つ有する)のベローズ式伸縮管継手のこと |
単式 | : | 単式(蛇腹部を1つ有する)のベローズ式伸縮管継手のこと |
座屈固有値(1次) | : | 有限要素法解析で得られる座屈圧力の最も小さいもの |
提案評価手法により最大設計圧力を超えた条件に対してバウンダリ機能(気密性)が維持可能な圧力について評価が可能と考えられますが、本研究で対象とした試験体条件以外のベローズ式伸縮管継手に対する適用性を見通すためにはさらに蛇腹部の山数や板厚等を変えた試験や解析が必要であると考えています。なお、今後は原子炉格納容器の破損防止対策の有効性評価技術の高度化としてバウンダリ機器の破損した場合の内部流体の漏えい量の評価に係る検討などに着手したいと考えています。
雑誌名:Journal of Pressure Vessel Technology, Vol.139,Issue 6, 2017
論文タイトル:Experimental Study on the Deformation and Failure of the Bellows Structure Beyond the Designed Internal Pressure
著者:安藤勝訓(1), 矢田浩基(1), 月森和之(1)(2), 一宮正和(2), 安濃田良成(2)
所属:(1)日本原子力研究開発機構, (2)福井大学
DOI: 10.1115/1.4037564
伸縮管継手は、変位を吸収するための構造で、配管等の熱膨張による変位や2点間の相対変位を吸収するために使用される。ベローズと呼ばれる蛇腹部を有するものが広く使用され、通常は薄板のステンレス管を波状に成形し、そのたわみにより変位を吸収する。ベローズ式伸縮管継手は、一般産業プラントで広く使用されており、原子力発電施設における原子炉格納容器では、格納容器を貫通する配管がプラントの運転状態に応じて温度が変化し、膨張や収縮を起こすため、これに伴う配管の変位時にも格納容器のバウンダリ機能(気密性)を維持する目的で使用されている。
構造物に荷重が加わっている状態で、荷重を増加させていくと、ある一定の荷重を超えた場合に、急に変形の状態が変化し、急激な変形を生じるような現象。
ここでは下記の二つのガイドラインを参考としています。
なお、これらは日本機械学会よりシビアアクシデント時の格納容器に対して、主として下記を評価することを目的として策定されたガイドラインです。
参考部門・拠点: | もんじゅ運営計画・研究開発センター |