小型軽量ガンマカメラを用いた
放射性物質の3次元可視化技術を開発
―福島第一原子力発電所建屋内で放射線イメージング測定を実施―

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉 敏雄、以下「原子力機構」という。)は、東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の円滑な廃炉作業に向けて、建屋内の汚染分布を測定する小型軽量ガンマカメラ(小型コンプトンカメラ)を開発し、測定結果を3次元的に表示するシステムを開発しました。この度、福島第一原発の建屋内において測定試験(放射線イメージング測定)を実施し、短時間で放射性物質の汚染分布を表示できることを確認し、当該システムの現場での利用の目処を得ました。

[研究の背景と目的]

福島第一原発の事故により、放射性物質が発電所の建屋内から環境中まで広い範囲にわたって拡散しました。廃炉作業の円滑化のためには、これら放射性物質の除染が重要であり、そのためにはまず汚染分布の把握が必要です。しかし、建屋内は床面だけでなく壁や天井、機器、ガレキ等も汚染されていることから汚染分布は3次元的であり、また、建屋内での放射線の散乱もあることから、単に建屋内の放射線量を測定するだけでは、除去すべき汚染源を特定することは困難です。さらに、建屋内は放射線量が高いことから、人が長時間立ち入って線量を測定することが困難です。

このような高線量空間において3次元的な汚染の分布を遠隔によって測定することにより、汚染源を特定し、効率的な除染や効果的な遮へい等の対策に役立てることができれば、廃炉作業の一層の加速につながります。

飛散した放射性物質の汚染分布を測定するための技術としては、放射性物質の分布を可視化できるガンマカメラという放射線測定器が有望視されています。しかし、従来のガンマカメラは数kgから数10kgと重いため、廃炉現場での活用が容易ではありませんでした。原子力機構では、現場に持ちこみ易く、ドローンにも搭載可能な約680gまで小型軽量化したガンマカメラを開発するとともに、従来のガンマカメラでは測定が困難な比較的線量率が高い場所で、短時間(1分以下)で測定でき、リアルタイムで汚染分布を表示できるシステムを構築しました(図1)。また、3次元化を行うために複数箇所の測定結果を組み合わせることで、汚染分布の3次元的な表示を可能とするシステムを開発しました。

図1

図1 開発した小型コンプトンカメラ

図2

図2 コンプトンカメラの原理

[研究内容と成果]

原子力機構では、放射性物質による汚染分布を簡便に測定する装置として、小型コンプトンカメラを開発しました。本カメラは1.5mm角の15×15ピクセルのGAGGシンチレータ※3、4が2層になっており、入射したガンマ線(放射線の一種)が1層目(散乱体)と2層目(吸収体)の各々で相互作用した位置と、受け取ったエネルギーから、ガンマ線の飛来方向を特定することができます(図2)。さらに、コンプトンカメラで測定された放射線分布と、光学カメラで取得した実画像を重ね合わせることによって、福島第一原発建屋内における汚染分布を可視化することに成功しました。得られた汚染分布はカラーのコンター図※5でパソコン上にリアルタイムで表示することができます(図3)。

図3

図3 福島第一原発における実証試験の様子(3号機タービン建屋内における汚染分布のコンター図)。床面に這わされたホース付近の床面・壁面に局所的な汚染を映し出すことに成功。

本システムは、複数個所での測定データを組み合わせることにより、汚染分布を3次元的に表示することで、汚染源(ホットスポット)の位置を正確に捉えることも可能となります。

今回、東京電力ホールディングス㈱の協力により、福島第一原発3号機タービン建屋内で、本システムを使って汚染分布の測定試験を行いました。その結果、空間線量率が0.4~0.5mSv/hの場所で、表面線量率が数mSv/hの局所的な汚染源(ホットスポット)の撮影に成功しました。また、複数個所での測定により、汚染源を3次元的に表示することが可能となりました(図4)。

図4

図4 測定データの3次元マップ
(図中のサイズ表記は3次元再構成空間のサイズ)

原子力機構では、帰還困難区域の環境中でドローンに本システムを搭載して測定試験を行っていますが、今後福島第一原発の建屋内でドローンやロボットに搭載し遠隔で詳細な3次元汚染分布が把握できるよう研究を進めていきたいと考えています。本システムの完成により、建屋内で任意の方向から汚染の分布を可視化できるようになり、汚染源の効率的な撤去や効果的な遮蔽により廃炉作業の円滑な推進に貢献できると考えています。

【用語解説】

1) ガンマカメラとコンプトンカメラ

ガンマカメラには、大別して下記の「ピンホールカメラ」と「コンプトンカメラ」があります。
各々の特徴は以下のとおりです。

図5

ピンホールカメラは簡便ですが、大型、高重量となり、狭い現場での測定には向いていません。コンプトンカメラは、入射したガンマ線(放射線の一種)が散乱体と吸収体の各々で相互作用した位置と、受け取ったエネルギーから、ガンマ線の飛来方向を特定します。解析的に放射線源を求める手法を採用しているため、高重量の遮蔽体が要らず小型化が可能ですが、技術的には高度なものです。

2) 散乱体・吸収体におけるコンプトン散乱とエネルギー付与

コンプトン散乱は光子(ガンマ線)が物質中の原子に束縛された電子と相互作用して、エネルギーの一部を失う過程です。失われたエネルギーは電子に与えられ、この電子が散乱体もしくは吸収体の中を走行することによってエネルギーが付与されます。

3) シンチレータ

放射線によって発光(シンチレーション光)する蛍光物質。シンチレーション光を電気信号に変換して、入射放射線数、エネルギーを計測します。

4) GAGGシンチレータ

シンチレータ結晶のひとつ。組成は、ガドリニウム、アルミニウム、ガリウム、ガーネットです。GAGGは従来のシンチレータ結晶(NaI、CsI)に比べ密度が高いため、小さな結晶でも高感度の放射線測定が可能です。また、潮解性もなく空気中の水分による劣化の心配もないため、長期間安定して使用することができます。

5) コンター図

図面上で、ある量の値が同じであるような点を結んだ線のこと。一定値ごとに等値線を描いた図面を等値線図(とうちせんず)とよび、属性・分布状況が感覚的にわかるようになっています。等値線図を見やすくするため、各等値線の間の帯ごとに段階的に色彩を施すことも多いです(カラーコンター図)。

参考部門・拠点: 福島研究開発部門

戻る