【用語註】

(註1)J-PARCセンター

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (JAEA) と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 (KEK) が共同で建設・運営する最先端科学研究施設。

(註2)大連化学物理研究所

1949年に設立された中国大連市にある研究所で、触媒化学、化学工学などの実験を推進している。

(註3)音響フォノン、光学フォノン

音響フォノンとは隣り合う原子が同一の位相で振動するフォノン、光学フォノンとは隣り合う原子が反対の位相で振動するフォノン。原子振動の方向がフォノンの伝搬方向を向いているのが縦波モード、直交しているのが横波モード。

(註4)(220)ブラッグ点

単結晶に中性子線(X線でも同様)を入射すると、特定波長の中性子線が特定の方向にスポット状に散乱される。それぞれのスポットは、結晶の中で原子が規則正しく並んでいることで定義できる特定の結晶面と関係づけられる。結晶面の面間隔、入射する中性子線の波長、散乱の方向(結晶面と入射中性子線のなす角度に関係)を関係づける法則(発見者にちなんでブラッグの法則と呼ぶ)が成り立つので、そのスポットのことを、結晶面を特定づける指標となっているミラー指数とつなげてブラッグ点と呼ぶ。今回はミラー指数(220)で特定づけられる結晶面からのスポットを観測しているので(220)ブラッグ点とよぶ。

(註5)フォノン分散

音響フォノンは、結晶内の隣り合う原子がそれぞれの平衡位置から同じ方向にずれるような振動が集団的に生じたものであり、平衡位置からのずれが波として伝わっていく現象である。音響フォノンの波長が結晶面間隔と整合するときは、結晶格子を歪める必要がないので励起エネルギー0となる。不整合が小さい場合は、長い距離にわたって結晶格子の歪みを吸収すれば良いが、不整合が大きいと、結晶格子を強く歪めるように振動が伝わるので、音響フォノンの励起エネルギーはその不整合さの大きさに伴って高くなっていく。図3の横軸は波長ではなく、単位長さ当たりの波の数、つまり波数で表されている。ブラッグ点が結晶面間隔と整合したときに整数値をとり、整数値からのズレが不整合の大きさを表す。この波数と励起エネルギーの関係をフォノンの分散関係と呼ぶ。また、励起エネルギーは振動数に比例しているので、この分散関係の傾きがフォノンの伝搬速度と関係しており、急峻なほど伝搬速度が速くなる。一方光学フォノンは、隣り合う原子が互い違いに振動するような集団原子振動であり、原子間隔の伸び縮みが激しいため励起エネルギーが一般に高い。ブラッグ点ではこの光学フォノンは定在波となり伝搬しない。また振動が局在している場合も伝搬速度を持たないため、波数をずらしても一定の励起エネルギーをもつことになる。

音響フォノンは伝搬速度をもっているので、エネルギーを外側に伝える役割をもっており、エネルギー散逸に寄与する。一方、定在波になった光学フォノンや局所的な振動は伝搬しないので、むしろエネルギーをため込む役割を持つ。

【補足情報】

〇ダイナミクス解析装置DNA

J-PARC MLFのパルス中性子源BL02ポートに設置された高エネルギー分解能大強度を実現したシリコン結晶アナライザー背面反射型分光器。

図4

図4 ダイナミクス解析装置DNA

〇冷中性子ディスクチョッパー型分光器AMATERAS

J-PARC MLFのパルス中性子源BL14ポートに設置された中性子非弾性散乱分光器。

新開発の機器や新しい測定手法を組み合わせて、高精度、低バックグラウンドで微細な非弾性シグナルも測定できる。

図5

図5 冷中性子ディスチョッパー型分光器AMATERAS


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