平成29年8月10日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

99番元素アインスタイニウムを用いた研究の開始について
― 日米の協力で実現する世界初の実験 ―

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」)では、このたび米国オークリッジ国立研究所(米国エネルギー省DOE管轄、以下「ORNL」)との協力で、0.5マイクログラムのアインスタイニウムを特別に入手することとなりました。アインスタイニウムの取り出しは、ORNLでも2003年以来のこととなり、日本がこれを入手するのは初めてとなります。

原子力機構では、このアインスタイニウムを用いて、平成29年度に2つの研究計画を立案しており、どちらの研究も原子力機構の施設及び開発した装置を利用しての研究となります。

【本研究の内容と目指す成果】

<研究計画①>

・ 新たに開発した実験手法により、100番元素フェルミウム以上の領域で出現する核分裂の仕方の急激な変化を観測する。

・ 理論を含めてこの急激な変化の原因となる原子核の内部構造の違いを調べ、この領域の核分裂のメカニズム解明を目指す。

核分裂のメカニズムの解明は、天体での元素合成を通じて物質の起源を理解するなど、広い分野へ波及することが期待される。

<研究計画②>

・ 世界で初めて水溶液中におけるアインスタイニウム元素のまわりの水分子の結合の様子を観測する。

・ 理論を含めて重元素の電子配置に影響を与える相対論効果を調べ、水中におけるウランやプルトニウムなど重元素の挙動解明を目指す。

福島第一原子力発電所の燃料デブリ処理や、高レベル放射性廃棄物の処理処分法の開発など、原子力のさまざまな課題の解決に貢献することが期待される。

【アインスタイニウム(元素名Es、原子番号99)とは】

アルベルト・
アインシュタイン

20世紀最大の物理学者といわれるアインシュタインの名を冠した自然界には存在しない人工元素であり、1952年に水爆実験の過程で初めて発見されました。

現代においては研究用原子炉中での材料照射によってわずか1マイクロ・グラム(1円玉の100万分の1の重さ)程度生成されます。

物理および化学実験のための試料として人類が利用できる最も重い元素ですが、生成できる量が少ないことから、これまでにその特性はほとんど解明されていません。

今回の実験は、ORNL/DOEが重元素核科学分野における原子力機構のこれまでの研究成果を高く評価し、アインスタイニウム等の特性解明を期待して特別に提供を決めたことにより実現するものです。

アインスタイニウムの半減期は276日と短く、半年のうちに37%が壊変してしまうことから、原子力機構では今回のチャンスを最大限に活かすべく、以下の最先端の研究計画を進めています。

【研究計画① 100番元素フェルミウム以上の原子核を生成して研究】

タンデム加速器

研究計画①では、核分裂の解明を目指します。原子力機構 原子力科学研究所(茨城県東海村)にあるタンデム加速器*1で加速した原子核の中性子や陽子の一部をアインスタイニウムの原子核に吸収させることで、100番元素フェルミウム以上の、中性子の多い原子核を生成し、これらの核分裂のメカニズムを調べます。

100番元素以上の領域では、原子核が持つ中性子の数が一つ変わるだけで、分裂のメカニズムが劇的に変化することが知られていますが、原子力機構が昨年、世界に先駆けて開発したユニークな核分裂測定技術*2を組み合わせることで、40年近くなされてこなかったこの核分裂メカニズムを解明します。この領域の核分裂のメカニズムの解明は、天体での元素合成を通じて物質の起源を理解するなど、広い分野へ波及することが期待されます。

【研究計画② アインスタイニウム元素の化学的特性を研究】

研究計画②では、水溶液中におけるアインスタイニウム元素と水分子との結合について、SPring-8(兵庫県佐用町)の大型放射光施設で調べます。この水との結合状態の解析から、アインシュタインによって提唱された相対論効果*3によってイオンのサイズが大きくなるか否かが明らかになります。原子力機構は、0.1マイクログラムの極微量の試料であっても元素のまわりの水分子の配位が調べられる装置をビームラインとともに開発、世界で初めてアインスタイニウム元素の周囲の水分子の配置を調べることが可能となりました。この結果は、まだ十分に理解されていない重い元素の性質、特に水中に溶けだしたウランなど放射性元素の複雑なふるまいの解明に役立つもので、東京電力福島第一原子力発電所の燃料デブリ処理や、高レベル放射性廃棄物の処理処分法の開発など、原子力のさまざまな課題の解決に貢献することが期待されます。

*1:タンデム加速器

静電加速器としては世界最高性能を有し、水素からビスマスまでのイオンを加速した実験が可能です。

2段階で加速(負イオンを加速後、正イオンに変換して更に加速)することから「タンデム(2頭立ての馬車)」型加速器と呼ばれます。

タンデム加速器の仕組み

高電圧発生の原理は、理科実験で用いられるバンデグラフ型静電高圧発生装置(上の写真)と同じ。
ゴムベルトの代わりに金属製のペレットを絶縁体で連結したもの(ペレットチェーン)が回転している。

*2:世界に先駆けて開発したユニークな核分裂測定技術

重イオン反応による新たな核分裂核データ取得方法を確立 ― 核分裂現象の解明にも道 ―

*3 相対論効果

アインスタイニウムのように重い元素は多くの陽子(プラスの電荷)を持つため、周囲を回る近くの電子(マイナス)は原子核の近くに引きつけられます。一方、この反動により、化学的性質を決定づける外側の電子は遠ざかり、電子軌道に変化が生まれます。重い元素で現れる、元素の化学的な性質の変化を指して相対論効果といいます。

参考部門・拠点: 先端基礎研究センター

戻る