平成29年3月10日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

原子力事故による海洋汚染を迅速に予測するシステムを開発
~日本周辺海域の任意地点から放出された放射性物質の拡散挙動の計算が可能に~

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」)原子力基礎工学研究センター環境動態研究グループの小林卓也グループリーダーらの研究グループは、日本周辺海域の原子力施設等で万一の事故により放射性物質が異常放出された際に、放射性物質の海洋拡散を迅速に予測する新たな計算シミュレーションシステム“STEAMER: Short-Term Emergency Assessment system of Marine Environmental Radioactivity(緊急時海洋環境放射能評価システム)”を完成させました。

STEAMERは、独自に開発した放射性物質の海洋拡散モデル1)に、気象庁による最新の海象予報オンラインデータ2)を入力し、放射性物質の海洋放出量の情報を設定することにより、海水中及び海底堆積物中の放射性物質の濃度を1か月先まで予測可能なシステムです。日本を含む東アジア諸国の原子力施設及び日本周辺海域における任意の場所からの放射性物質の放出に対して、その後の拡散状況を推定することが可能です。また、同研究グループが開発した放射性物質の大気拡散を予測する緊急時環境線量情報予測システム(世界版)WSPEEDI3)と結合して用いることで、大気を経由して海洋へ降下する放射性物質の分布を予測することも可能です。東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」)事故による海洋汚染状況の解析において、システムの中核となる計算モデルの高い予測性能を実証しました。福島第一原発事故当時は、計算結果を得るまで約3週間必要でしたが、本システムでは計算を開始してから数時間程度で予測情報を提供可能となります。また、約2年5ヶ月にわたる試験運用によりシステムの安定性と堅牢性を確認しています。

本システムにより、海洋汚染予測情報に基づく海洋モニタリング測点の設定、海洋モニタリング結果を用いた放射性物質の海洋への放出量推定と汚染分布の再現、これらに基づく禁漁海域及び航行禁止海域の設定など、緊急時対策の検討及び事故の詳細解析に資することが可能となります。なお、本研究の詳細は、日本原子力学会英文論文誌「Journal of Nuclear Science and Technology」のオンライン版に3月10日付けで公開されました。

参考部門・拠点: 原子力基礎工学研究センター

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