1) 原子放射線の影響に関する国連科学委員会
(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, UNSCEAR)

電離性放射線の程度と影響の情報収集及び評価を目的として1955年に設置された国際連合の委員会。委員会が刊行する報告書「Sources and Effects of Ionizing Radiation」には,放射線の人体影響や線量評価に関する知見がまとめられており,国際放射線防護委員会など,様々な組織が放射線被ばくに関する勧告や法令を決める際の基礎資料として用いられています。

2) 自然放射線

自然放射線とは,宇宙線及び地球誕生以来存在しているカリウム40やウラン・トリウム崩壊系列核種などの自然放射性核種に由来する放射線を指します。この言葉は,原子力利用や放射線発生装置の利用によって発生する人工放射線と対比して用いられます。UNSCEARの2008年レポートでまとめられている自然放射線による公衆の被ばく線量の平均値と代表的な範囲を以下に示します。

図5

UNSCEARが評価した自然放射線による公衆の被ばく線量(mSv)

3) 実効線量

国際放射線防護委員会が定義した人体への被ばくの程度を表す指標で,その単位はSv(シーベルト)です。実効線量は,各臓器の吸収線量に放射線の特徴や組織の感受性の違いを考慮する係数を乗じて計算することができます。なお,本資料中での「被ばく線量」は,全て実効線量を表します。

4) 宇宙線被ばく線量の高度・緯度・経度依存性

大気による遮へいの影響により,宇宙線被ばく線量は高度の上昇に従って高くなります。また,地球の磁場の構造により宇宙線は極地方に集中して降り注ぐため,高緯度地域において宇宙線被ばく線量が高くなります。ただし,地球磁場の構造が複雑であることから,宇宙線被ばく線量は,緯度のみならず経度にも依存します。

5) 太陽活動周期

太陽活動は,約11年周期で極大期と極小期を繰り返しています。太陽活動が活発になると,太陽フレアを通じて太陽風と呼ばれるプラズマ状の粒子が太陽圏内に大量に放出され,それが銀河から太陽圏内に侵入してくる宇宙線をブロックするため,地表面の宇宙線被ばく線量は低くなります。ただし,巨大な太陽フレアが発生した場合は,太陽から放出された高エネルギー放射線が大気圏内に直接侵入することにより,地表面での宇宙線被ばく線量が一時的に上昇する場合もあります。

6) 高度補正係数

標高0mにおける宇宙線被ばく線量から人口平均値を導出するための補正係数。標高の高い土地の人口割合が増加するに従って大きくなります。UNSCEARでは,明確な根拠は示さず,中性子成分に対しては2.5,それ以外の成分に対しては1.25と推定しています。これに対して,本研究でより精緻な人口分布などを使って導出した高度補正係数は,UNSCEARの推定値よりも低い,それぞれ1.71及び1.17でした。

7) 宇宙線強度計算プログラムPARMA/EXPACS

PARMA/EXPACSは,大気中の任意地点・時間における宇宙線強度を計算可能なプログラムです。このプログラムは,原子力機構のホームページよりダウンロードすることができます。宇宙線被ばく線量の計算のみならず,宇宙線が引き起こす半導体エラー発生率や地球惑星科学で重要となる宇宙線による放射性核種生成量や電離量の評価など,幅広い分野で利用されています。

参考URL(http://phits.jaea.go.jp/expacs/jpn.html

8) 標高・人口データベース

本研究では,全世界の標高データベースとしてGlobal 30 arc-second elevation (GTOPO30)を,人口データベースとしてGridded Population of the World version 3(GPW3)の2000年版を利用しました。GTOPO30は,緯度・経度の関数として全世界の標高が30秒(1秒は1度の3600分の1)刻みで格納されています。GPW3は,世界230の国や地域の人口が2.5分(1分は1度の60分の1)刻みで格納されています。どちらのデータベースもインターネット上で一般公開されています。

GTOPO30 https://lta.cr.usgs.gov/GTOPO30

GPW3  http://sedac.ciesin.columbia.edu/data/collection/gpw-v3

9) 粒子・重イオン輸送計算コードPHITS

あらゆる物質中での放射線の振る舞いを第一原理的に計算するシミュレーションコード。放射線施設の設計,医学物理計算,宇宙線科学など,工学・医学・理学の様々な分野で国内外2000名以上のユーザーに利用されています。

参考URL (http://phits.jaea.go.jp/indexj.html)

10) 建屋の遮へい効果

建屋の屋根や壁により一部の宇宙線が止められるため,建屋の中の宇宙線被ばく線量は外と比べて低くなります。UNSCEARでは,建屋内外の宇宙線被ばく線量の比をいくつかの建物に対する実験データから0.8と推定していました。しかし,本研究におけるシミュレーション結果から,宇宙線の被ばく線量を20%もカットするためには,建屋の屋根や壁の厚さが約80g/cm2も必要となることが分かりました。この値は,コンクリートマンションなど重厚な建物の壁厚に相当します。そこで本研究では,世界の人々が住む平均的な建屋の屋根の厚さを日本の標準的な一軒家に対する値である30g/cm2と仮定し,建屋の遮へい効果を推定しました。その結果,建屋内外の宇宙線被ばく線量の比は約0.9であることが分かり,この値を用いて,屋内滞在時の宇宙線被ばく線量を導出しました。

11) 屋内外滞在時間比

屋内に滞在する時間が長くなるほど,建屋の遮へい効果の影響を受けやすくなり,宇宙線被ばく線量は低くなります。UNSCEARでは,屋内の滞在時間が全体の80%と仮定して年間の人口平均宇宙線被ばく線量を推定しており,本研究でもその値を用いました。


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