【研究開発の背景と目的】

高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価においては、地下深部に埋設したガラス固化体から地下水に溶け出した放射性物質は、地表に届くまでの時間が長ければ長いほど放射能が低下し、人間環境への影響が小さくなるため、物質の移動を遅らせるような地層の閉じ込め能力の把握は重要な研究課題とされています。

花崗岩などの硬い岩石では、地下水に溶け込んでいる物質の移動経路としては、肉眼で把握できる大きさの割れ目に加え、顕微鏡を使わないと観察できない微細な空隙が考えられます。物質が割れ目を移動する際には、割れ目周辺の岩盤に発達する微小空隙に拡散することが知られています(以下「マトリクス拡散」という)。マトリクス拡散は、物質の移動を遅らせることのできる重要な現象の一つであり、このような微小空隙は、花崗岩が形成された後の熱水の侵入によって変質を被った花崗岩に多く存在していることが知られていました。しかし、このような花崗岩の変質部は岩体全体のごく一部に過ぎず、大部分は肉眼では変質の認められない健岩部からなります。

そこで、本研究では、瑞浪超深地層研究所の地下300m及び500mの研究坑道から花崗岩の健岩部の試料(拡散試験用岩石ブロック試料:1試料、観察用ボーリングコア試料:11試料)を採取し(図1)、物質の拡散試験や顕微鏡を用いた詳細な観察を行い、マトリクス拡散に寄与するような微小空隙の存在やその特徴について検討しました。

図2

図1 瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウト(左側)と花崗岩試料の採取個所(右側)

【研究の成果】

岩石ブロック試料を用いた拡散試験の結果、花崗岩の健岩部においても、マトリクス拡散が起きることが確認されました(図2)。また、拡散した物質(蛍光染料)は、花崗岩の主要な構成鉱物の一つである斜長石に選択的に分布することが分かりました(図2の右側)。一方、ボーリングコアの健岩部から採取した試料を顕微鏡で詳細に観察した結果、全ての試料で斜長石の中に微小空隙が特に多く観察され(図3)、この斜長石中の微小空隙がマトリクス拡散を生じさせていることが明らかとなりました。

斜長石の中の微小空隙は、地下深くでマグマが冷却・固化した際に生じた液体と斜長石が反応して粘土鉱物が形成されたこと(以下「初生的変質」という)に伴って形成されたと考えられます。また、このような初生的変質は国内の他の花崗岩でも確認されていることから、国内に分布する花崗岩中には同様の微小空隙があることが推察されます。

図3

図2 岩石ブロック試料を用いた拡散試験の結果
(Aに示す物質の添加孔に物質(蛍光染料)を添加し、拡散試験を行いました。B及びCに示す黄緑色の部分に拡散した物質(蛍光染料)が分布しています。この箇所は、主に岩石中の斜長石であることがわかります(C)。)

図4

図3 ボーリングコアから採取した花崗岩試料(左)と斜長石の中の微小空隙の分布(右)の例
(左に示す花崗岩試料の四角の部分を偏光顕微鏡と実体蛍光顕微鏡で観察すると右のように見ることができます。右の写真で緑色の部分は、微小空隙の分布を示します。)

【今後の期待】

本研究によって、花崗岩の健岩部でも、初生的変質により斜長石の中に微小空隙が発達し、物質の移動に対する遅延効果が期待できることが示されました。このような花崗岩の初生的変質は、国内の他の花崗岩にも認められることから、日本における地層処分の安全性を評価する上で、重要な知見の一つと考えられます。

【論文掲載情報】

雑誌名:一般社団法人 日本原子力学会 「原子力バックエンド研究」

論文タイトル:深部結晶質岩マトリクス部における微小移行経路と元素拡散現象の特徴

著者:石橋正祐紀、笹尾英嗣、濱克宏


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