【用語説明】

1) 核分裂片の質量数収率分布

核分裂がおこると、様々な種類の原子核が核分裂生成物として生成される。これら原子核を質量数ごとにわけ、質量数を関数として収率をプロットしたものである。通常、収率の合計が200%となるように規格化する。

2) 多核子移行反応

原子核どうしを衝突させる場合に生じる核反応機構のひとつ。入射核と標的核との間で、中性子や陽子を交換することで、反応の後に異なる原子核が生成される。反応の特徴は、移行する核子(中性子および陽子)の数に応じて多種類の原子核が生成されるとともに、低い励起エネルギーから高い励起エネルギー状態まで連続的に生成されることである。

3) 動力学モデル

本研究で開発したモデルは、揺動散逸定理に基づく運動方程式(ランジェバン方程式)を用いた。揺動散逸定理とは、熱平衡状態において微視的な粒子の運動と巨視的に観測できる運動の間の関係を示すものであり、ブラウン運動の記述として良く知られている。これらは揺らぎと摩擦という現象として現れ、揺らぎの大きさgと摩擦の大きさをγは、系の温度をTとすると、アインシュタインの関係式 g2 = γT が成り立つ。この関係は微視的運動と巨視的運動の橋渡しの役割を担っている。核分裂モデルにおいては、微視的な運動とは原子核を構成する陽子・中性子の運動を指し、巨視的運動は原子核の形の時間的な変化を表している。

4) 崩壊熱

核分裂の結果生じた核分裂片が、ベータ崩壊する際に放出するエネルギーが熱にかわったもの。原子炉の運転を停止しても、核分裂生成物はある寿命を持って崩壊を続けるために熱を発生し続ける。福島第1原子力発電所においては、この崩壊熱を取り除く機能が失われたために炉心が損傷した。熱量と経過時間に対する変化は、生成される核分裂生成物の種類とそれぞれの収率によって変化する。

5) 遅発中性子数

核分裂で生成される核分裂片のいくつかの核種において、ベータ崩壊に伴って中性子が放出されることがあり、これを遅発中性子と言う。半減期が長いものとして55秒の核種がある。実際の原子炉では、この中性子を含めて臨界を維持しているが、即発中性子と異なり、ベータ崩壊の寿命に応じて中性子の放出に遅れを伴う。このため、反応度の投入に対する急激な出力の変化を防ぐことができ、原子炉の制御を行うための十分な時間余裕が生まれる。遅発中性子の数は、生成される核分裂片の核種とそれぞれの収率によって変化する。

6) 長寿命マイナーアクチノイド

アクチノイドに含まれる超ウラン元素のうち、プルトニウム以外の元素の総称をマイナーアクチノイドといい、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどがある。このうち、237Np、241Am、243Amは、原子炉内の核燃料の燃焼によって生成される長寿命の原子核(長寿命マイナーアクチノイド)と言われており、この処分または管理を行うことが原子力エネルギー利用における大きな課題となっている。核変換は、これら長寿命マイナーアクチノイドを核分裂によって変換する技術である。原子力機構においても加速器駆動型未臨界炉(ADS:Accelerator-driven subcritical reactor)を用いた核変換技術の開発が行われている。

7) タンデム加速器

タンデム(TANDEM=縦に馬を二頭ならべる馬車)加速器とは、ペレットチェーンで運ばれる電荷を利用してターミナル部を高電圧に保ち、この電圧差を利用してイオンを加速している。まずは負イオンをターミナルに向けて加速し、ターミナル部でイオンを負から正に変換することで逆向きに再加速する、いわば2段回方式の加速装置の総称を指す。加速イオンのエネルギーと種類、またビーム量とビーム直径を正確に制御できる特徴があり、原子核研究分野においては精密な核反応測定ができる特徴がある。

図5

8) シリコンΔE-E検出器

荷電粒子が物質内で失うエネルギーΔEが核種の質量数Aと原子番号Zに依存することを利用し、反応で生成された粒子を識別する方法をΔE-E法と呼ぶ。本研究では、分解能に優れるシリコン検出器を用いてΔE-E検出器を構成した。これまでに、ΔE検出器として75μm厚の均一性のよい検出器の開発に成功し、酸素同位体までもきれいに分離することに成功した。

9) 多芯線比例計数管

核分裂片を検出するためのガス増幅検出器である。電極を平面とすることで、有感面積を広くとることができ、本研究では200×200㎜2を有する検出器を開発した。独立したワイヤーを並べることで電極を構成し、ガス増幅で生成された電子が集まるワイヤーを同定することで、核分裂片の入射位置を記録できるようにした。


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