高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では、数万~十万年スケールの安全性を考慮することから、長期的な地下環境での物質の移動を評価することが必要です。花崗岩の様な結晶質岩では、断層周辺の岩盤は、断層運動に伴い物理的に破砕されることによって地下水の選択的な移動経路(透水性構造)となることが懸念されており、地層処分事業においては、安全性を評価する上で考慮するべき領域の一つとされています。特に、日本国内の地下環境では数百mに一本の割合で小規模な断層に遭遇する可能性が示されていることから、断層周辺岩盤の透水性構造としての長期的な変化を把握することが重要となります。そこで、本研究では瑞浪超深地層研究所の深度300mおよび500mの研究坑道での調査結果(例えば図1)に基づき、断層運動の影響を受けている岩盤およびその周辺の断層運動の影響を受けていない岩盤を比較し、透水性構造としての岩盤中の割れ目の長期挙動を調査しました。
研究坑道内の詳細な地質学的記載やボーリング調査の結果、断層運動の影響を受けている岩盤での割れ目は、3つのステージを経て現在に至ることが明らかとなりました(図2)。第1ステージは花崗岩質マグマの冷却・固化に伴い割れ目が形成されるステージ、第2ステージは断層運動により断層周辺岩盤に小さい割れ目が形成されるステージ(このステージで形成された割れ目帯を以下では「ダメージゾーン」と示します)、第3ステージはダメージゾーンに選択的に地下水(高温の水(熱水)や低温の水)が流入することで地下水から鉱物が沈殿し、割れ目が充填または閉塞されるステージです。第2ステージでは、小さい割れ目が多数形成されることでダメージゾーンの透水性が増加します。その結果、地下水は選択的にダメージゾーンに流入し、ダメージゾーンの割れ目に地下水の水質に応じた充填鉱物(図3a-c)が形成されます。また、第2ステージと第3ステージが複数回繰り返された結果、ダメージゾーン中の透水性割れ目に対して固結していない充填物(粘土状充填物;図3d)が形成され、ダメージゾーンの透水性をさらに低下させた可能性があることが明らかとなりました。このように割れ目が充填鉱物で閉塞された結果、現在では観察された割れ目のうち、全体の10%程度の割れ目が透水性割れ目として機能することが明らかとなりました。
以上のことから、これまでは地下水の流動経路としてのみ懸念された断層周辺岩盤は、長期的な観点では、透水性が低い領域となる可能性が示されました。さらに、ダメージゾーンにおける透水性割れ目中に形成された粘土状充填物は物質を吸着する能力が高い可能性があることから、ダメージゾーンは物質移動の遅延機能も高い可能性があることが示されました。
地層処分の安全性を議論する上において、ダメージゾーンは、これまで物質移動の観点で負の特性を持つ領域として考えられてきました。しかし、本研究の結果、ダメージゾーンは長期的な観点では透水性が低下し、かつ物質移動の遅延機能も高い可能性が示されました。このことから、日本における地層処分の安全性の議論において、断層に対する新たな発想による評価が期待されます。
雑誌名:Engineering Geology
論文タイトル:Long term behavior of hydrogeological structures associated with faulting: an example from the deep crystalline rock in the Mizunami URL、 Central Japan
著者:M. Ishibashi、 H. Yoshida、 E. Sasao、 T. Yuguchi