【用語解説】

1) 全反射高速陽電子回折(TRHEPD)

TRHEPDはtotal-reflection high-energy positron diffractionの略称。TRHEPD実験では、10 keV程度のエネルギーを持った陽電子ビームを物質の表面にすれすれの角度で入射させ、物質表面で回折した陽電子をマイクロチャンネルプレートとCCDカメラを用いて検出する。回折した陽電子の強度を解析すると、物質表面の原子配置がわかる。特に、陽電子は物質表面から反発力を受けるため、TRHEPD法は物質表面の1-2原子層に極めて敏感である。TRHEPD法は、1992年に一宮彪彦(当時名古屋大学)により理論的に提唱され、1998年に河裾厚男・岡田漱平(当時日本原子力研究所)により実証された日本発の手法である。最近、原子力機構とKEKの共同研究で高度化され、陽電子のビーム強度を約100倍増強することに成功した。今回の実験は、KEK低速陽電子実験施設に設置されている電子線形加速器を用いて実施しました。

2) グラフェン

炭素原子が蜂の巣状に並んだシート状の物質。従来の材料を凌駕する極めて高い電子移動度や熱伝導度、優れた機械特性など、その他多くの有用な特性を持つ新素材。グラフェンは、2010年のノーベル物理学賞受賞の対象物質である。

3) 陽電子

電子の反粒子。陽電子は電子と同じ質量、電荷等を持つが、電荷の符号が電子とは逆のプラスである。陽電子は電子と出会うと対消滅を起こすが、その確率は10-6と極めて小さいため、今回のTRHEPD実験では対消滅は無視できる。陽電子は、1928年に理論的にその存在が予想され、1932年に実際に宇宙線の中で観測された(1936年のノーベル物理学賞受賞の対象粒子)。

4) 全反射

光や粒子が媒質の境界で全て反射する現象。たとえば光ファイバーが、伝送損失が少なく高速で長距離伝送を可能にするのは、光がケーブル内部で全反射を繰り返すためである。

5) Å(オングストローム)

原子のスケールを表す時によく用いられる単位。1 Åは10億分の1 m(10-10 m)。たとえば、グラフェンでの炭素と炭素の距離は1.42 Åである。


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