【研究の内容】

ここ数年、ウラン化合物の超伝導が注目を集めています。これはURhGe、UGe2およびUCoGeという3つの化合物において、強磁性4)と超伝導という異なる2つの現象が同時に見つかったためです。強磁性と超伝導はもともと相反する性質を持つため、ひとつの物質内でどちらか一方しか出現できないのではないかと考えられていました。

今回、研究を行ったURhGeは、上記の3つのウラン化合物の中でも最も特異な性質を示します。この物質では一般的な超伝導体と同様に、磁場をかけると超伝導はすぐにいちど消えてしまいます。しかし、ある特定の方向にさらに強い磁場をかけていくと、10〜14テスラ5)という非常に強い磁場中で超伝導が再び出現するのです(磁場誘起超伝導現象:図1)。これまでの研究で、この強磁場中の超伝導は磁場の方向に極めて敏感であること、また磁場がないときよりも安定した状態であることなどがわかってきましたが、その発現のしくみは依然として謎のままでした。

図2

図1 URhGeの温度-磁場相図。約1.5テスラの磁場で超伝導はいちど消えるが、さらに磁場を強くしていくと10~14テスラ付近で再び超伝導が出現する。

図3

図2 本研究のために準備したURhGeの単結晶試料

本研究ではこの特異な超伝導のしくみを明らかにするため、URhGeの単結晶を準備し(図2)、フランス国立強磁場研究所の強力な電磁石を使って強磁場下での核磁気共鳴実験(NMR)を行いました。実験では磁場中で試料を回転できる装置を利用して、物質にかかる磁場の強さと方向を制御しながら、物質内部の磁気的なゆらぎを測定しました。その結果、超伝導が再び出現する強磁場領域において、磁化のゆらぎが著しく増大していること、またその増大によって超伝導が再び出現していることがわかりました(図3)。

図4

図3 ウラン化合物の内部において磁場で誘起される超伝導のメカニズムのイメージ。 磁場で磁化のゆらぎが増大し、そのゆらぎを利用して超伝導が再び出現する。

ウラン化合物において物質内部の磁化(磁性)を担っているのはウランの電子です。また、超伝導もウラン電子がその一端を担っています。すなわち磁場誘起超伝導現象は、同じウラン電子が磁性と超伝導の両方に関わることでおこる非常に興味深い現象とあると言えます。これまで磁場は超伝導にとって邪魔な存在でしかありませんでした。しかし、今回のウラン化合物URhGeでは、その磁場がむしろ超伝導を生み出しているのです。このような超伝導はこれまで知られておらず、他の化合物でも見つかっていません。本研究成果は、磁場で制御可能なウラン化合物の新たな機能性の解明に繋がると期待されます。

【今後の展開】

研究を他のウラン化合物にも発展させ、磁場誘起超伝導の発現のしくみの理解を深めるとともに、磁場による電子状態の制御と新機能の発見に挑戦し、基礎物性物理学の進展、将来の原子力基礎科学の充実を図ります。

【論文名・著者名】

“Reentrant superconductivity driven by quantum tricritical fluctuations in URhGe: evidence from 59Co NMR in URh0.9Co0.1Ge” (URhGe における量子三重臨界ゆらぎがもたらすリエントラント超伝導:URh0.9Co0.1Ge での59Co NMRによる証明)
Y. Tokunaga, D. Aoki, H. Mayaffre, S. Kramer, M.-H. Julien, C. Berthier, M. Horvatic, H. Sakai, S. Kambe, and S. Araki
To be Published in Physical Review Letters


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