【用語説明】

(1)スピン偏極陽電子ビーム

スピンの向きが一方向に揃った陽電子ビーム。陽電子は電子の反粒子である。その質量とスピンは電子と同等で、電荷は電子と反対のプラスである。陽電子と電子は、互いに結合してガンマ線に変わる。このガンマ線のエネルギーが陽電子と電子のスピンの向きで変わることを利用して、電子のスピン状態を知ることができる。

(2)電子デバイスの省電力化

電子の電気的な特性だけを使う既存の電子デバイス(シリコンに基づく大規模集積回路技術など)は、情報を保持するためには常に電力が必要である(情報の揮発性のため)。このため、情報量が増えるほど大きな電力を要する。また、投入された電力の一部は、電気抵抗のために常に熱(ジュール熱)として損失される。このため、既存デバイスには省電力化には原理的な限界がある。

(3)スピントロニクス

電子のスピンと電荷を同時に使うことで、最小のエネルギーで情報を保持できる不揮発性のデバイス素子を作ることができ、これを既存のデバイス技術と融合させることで、論理演算回路の消費電力を大幅に減らすことができる。また、スピン流には電気抵抗に伴う熱損失がないため、電流をスピン流で置き換えることができれば、高効率なデバイスを創り出すことができる。

(4)非磁性体を用いる重要性

磁性体と異なり、非磁性体ではスピンの向きはバラバラの方向を向いている。しかし、最近になり非磁性体の金属に電流を流すことで、電子スピンがある方向に揃って流れる現象(スピン流)や、スピンの向きが揃う現象(スピン蓄積)が見つかっている。(3)で説明したように、スピントロニクスでは、既存のデバイス技術との融合を図る目的から、非磁性体を使って電子スピンを制御する技術が求められている。

(5)ラシュバ-エデルシュタイン効果

異なる物質の接合面や物質の表面など、厚さを持たない電子系(二次元電子ガス)において、その二次元面直方向に存在する電場のために、面内を移動する電子には有効磁場が作用して、スピン偏極が生ずる現象(下図)。

図3

(6)原子空孔

物質中の原子が本来整然と並んでいる状態(完全結晶)において、原子が欠損している状態(原子の抜け孔)を言う。熱力学的に基づく原理により、完全結晶は存在し得ず、如何なる物質も必ず原子空孔を含んでいる。原子空孔は物質への放射線照射によっても作りだされる。


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