【用語説明】

[1] 国際共同研究 (グループ)

日本原子力研究開発機構、マッセイ大学(ニュージーランド)、マインツ大学(ドイツ)、ヘルムホルツ研究所マインツ(ドイツ)、欧州原子核研究機構CERN(スイス)、茨城大学、テルアビブ大学(イスラエル)、広島大学、新潟大学

[2] イオン化エネルギー

図4

原子、イオンなどから電子をはぎ取り陽イオンにするために必要なエネルギー。イオン化ポテンシャルあるいはイオン化電位とも言う。電子が原子やイオンなどとどれだけ強く結び付いているかを示す。中性原子から1個の電子を取り去る場合を第1イオン化エネルギーという。このイオン化エネルギーは元素の周期表上では、右上に当たる第18族のヘリウムから左下の第1族のアルカリ金属であるフランシウムに向かって、低くなる傾向が見られる。

[3] タンデム加速器【原子力機構原子力科学研究所】

タンデム加速器とは、ベルトチェーンなどに電荷を乗せて高電圧端子(ターミナル部)に運び上げ高電圧を発生させてイオンを加速する装置で、一つの高電圧で加速イオンの電荷を負から正へ変換して2回加速する装置を総称してタンデム(TANDEM=馬を二頭ならべる馬車)加速器という。負イオン源では原子に電子を結合させ負イオンを生成し、これを加速するため超高真空に保たれた初段加速管に入射し負イオン加速管入口まで到達させる。負イオン加速管まで到達した負イオンは、正の高電圧端子にむけて加速され、高電圧端子に到達した負イオンは電子ストリッパー(炭素薄膜または窒素ガス層)で多数の電子がはぎ取られ正イオンに変換後、正イオン加速管で再び加速され高エネルギーになる。タンデム加速器から得られるイオンビームは、そのエネルギー、イオン種、量を正確に制御できるため精密な原子核物理、物質科学などの研究に利用される重要な役割を担っている。原子力機構原子力科学研究所のタンデム加速器は、現在運用されている世界最大の静電加速器で、最大1800万ボルトの加速電圧を発生させることが出来る。これはタンデム加速器に入射された水素イオンが、光速の約27%まで加速されることに相当する。原子力機構のタンデム加速器では、エネルギー、イオン種、量を正確に制御できる特徴に加えて、核燃料物質やα放射性のアクチノイドなど、特殊な標的を利用した研究が行われている。

図5 図6

[4] オンライン同位体分離器(ISOL)

図7

加速器から得られたイオンビームの照射で生成した大量の核反応生成物から目的とする核種のみを迅速に同位体分離するために用いる装置。①ターゲットで生成した核種をイオン化室に導入する部分、②導入された核種をイオン化する部分、③イオン化した核種を磁場によって分離する部分、④分離された核種を集めて測定する部分などからなる。本装置を用いると半減期が数秒程度の核種分析が可能であり、放射性核種の核データ測定などに利用されている。

            

[5] ガスジェット法

原子核反応の結果、照射の際に持ち込まれるエネルギーによって高いエネルギーを持って弾き出された核反応生成物(反跳原子核)を、ヘリウムなどの気体中で減速し、塩化カリウムなどのエアロゾルに吸着させ、ジェット気流にのせて迅速かつ連続的に標的位置から実験装置へと運ぶ手法。本研究ではイオン源を長期に安定して運用可能なようにエアロゾルとしてヨウ化カドミウム(CdI2)を利用した手法を新たに開発した。

[6] 表面電離型イオン源

表面電離は熱した金属表面に原子又は分子を接触させると熱イオン化が起きる現象で、その効率は金属の仕事関数、その表面温度、試料のイオン化エネルギーなどに依存する。金属の仕事関数より原子のイオン化エネルギーが小さい場合に電離が効率良く起きるので、同手法はアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、ランタノイドを含む希土類元素の分析等に良く用いられる。

【参考資料】

図8

原子力機構オンライン同位体分離器(JAEA-ISOL)を用いて質量分離された質量数256の核種から放出されたアルファ粒子のエネルギースペクトルです。副反応生成物である他の同位体などからJAEA-ISOLによって選択的に分離され、256Lrとその壊変生成物256Noと252Fmのピークが明確に観測されています。この実験で同位体分離された256Lrは、質量数を直接同定された最も重い同位元素となりました。

図9

Lrのイオン化に先立ち、本実験系におけるイオン化エネルギーとイオン化効率間の相関関係を求めるため、様々な短寿命ランタノイド同位体を生成し、イオン化を行いました。アルカリ金属である80Rbも同様にイオン化し、イオン化効率算出のための基準物質として用いました。得られた実効イオン化エネルギーとイオン化効率の関係は、表面電離過程を記述するSaha-Langmuir式を元にフィッティングを行い求めました(点線)。本実験で得られたLrのイオン化効率(2430℃の条件では33%)から得られた実効イオン化エネルギーに、各準位の統計的重率を考慮して、Lrのイオン化エネルギーは4.96±0.8 eVであることが明らかになりました。

図10

本研究で明らかになったLrのイオン化エネルギー(4.96 eV)は、アルカリ金属を除く元素中で、最も小さい値であることが明らかになりました。これは、ローレンシウムの原子核の周りを運動している最も外側の電子が、極めて緩く結合していることを示し、同じく周期表上で「ランタノイド」と呼ばれる15の元素群の最後の元素Luに見られる傾向と一致します。つまり、1940年代にノーベル化学賞受賞者のシーボルグ博士が提唱した、「アクチノイド」元素群が103番元素で終了するとの予測を、半世紀以上経てようやく実証したことになります。また、Lrの値が最もイオン化エネルギーが低いアルカリ金属に匹敵するという事実は、最外殻電子が相対論効果の影響によって、周期表から予測される傾向より、更に緩く結合している電子であることも示します。この結果は電子配置[Rn]5f147s27p1/2を仮定して計算された、最新の原子軌道計算結果と非常によく一致することから、最外殻電子が周期表から予想される6d軌道ではなく、相対論効果によって不安定化された7p軌道であることも高い信頼度で実証され、超重元素であるLrがこのような特殊な性質も持つことを見出すことが出来ました。


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