独立行政法人日本原子力研究開発機構

平成27年3月10日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人神戸大学
国立大学法人九州大学
国立大学法人大阪大学

光で鉄の原子核を一気に加速
-光は天体現象や元素合成過程の解明に迫る新しい手段となるか?-

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 松浦祥次郎、以下「原子力機構」】原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センターレーザー駆動粒子線研究グループの西内満美子サブリーダー・榊泰直研究副主幹をはじめとする共同研究チームは、強いレーザー光で電子をまとわない状態(「裸」イオン状態)の鉄の原子核を作り出し、その原子核を世界で初めて光の1/5の速さに一気に加速することに成功しました。この手法を応用すれば、これまで実験室内で生成できても短時間ですぐに壊れるため取り出すことが困難であった原子核を取り出すことが可能になり、原子核の詳細な研究・分析に新しい道を拓くことが期待できます。

強いレーザー光注1を物質に照射すると、物質中の原子は、瞬時にプラズマ注2化し、電子を全く持たない「裸」イオン状態、もしくは「裸」イオンに近い多価イオン状態になると同時に、プラズマ中に生じる強い電場注3により、一気に加速注4されて物質から引き出されると考えられてきました。しかし実験的にこのことを示した例はありませんでした。今回、共同研究チームは、ポリイミド注5膜を用いた新型検出器と精密なX線分光を組み合わせることで、国内外の原子核物理の研究所などにある、電気の力で粒子を加速する大型の重元素加速器と同じように、光で「裸」の鉄原子核を加速して取り出すことができることを世界で初めて実験的に明らかにしました。

 現在、重元素を加速するのには大きな加速器が必要ですが、この技術によって装置の小型化が図れます。さらに、天体現象中(例えば超新星爆発)のみで創り出されるような極めて短時間で壊れる重元素を、従来の加速器技術を駆使した元素合成手法により実験室で模擬的に生成し、本手法によって短時間で効率良く取り出すことができるようになれば、今までわからなかった元素合成過程注6の解明や新しい重元素の発見をもたらす可能性があります。

なお、本研究成果は、原子力機構の他、神戸大学、九州大学、大阪大学、ロシア合同高温研究所の共同研究で行われ、3月9日(米国時間、日本時間3月10日早朝)に米国物理学会誌「Physics of Plasmas」に掲載される予定です。

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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