【用語説明】

1) 重粒子線

放射線の一種。放射線には大きく分けて、①電磁放射線、②粒子線の2種類がある。①「電磁放射線」はX線、ガンマ線等の電磁波(質量をもたない)の放射線のことをいい、②「粒子線」は陽子、中性子、イオン等の粒子(質量をもつ)の流れ(ビーム)のことをさす。炭素イオン等の重い粒子線のことを特に重粒子線という。

2) DNAの傷(DNA損傷)

DNAは、主に4種類の構成要素(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)の組み合わせで遺伝情報を持っており、2本の糸を寄り合わせたような形(2重らせん)になっている。DNAは、熱や紫外線、放射線、活性酸素等の様々な環境因子によりDNAに傷がつく(酸化など化学変化が起こる)、場合によってはDNAが切れることが知られている。これらの化学変化を「DNA損傷」と呼んでいる。

3) X線とガンマ線

X線はレントゲン写真の撮影などに使われる電磁放射線で、原子の軌道電子が持つエネルギーの放出によって生じる。一方、ガンマ線はコバルト60やセシウム137などの放射性同位元素から発生する電磁放射線で、原子核がもつエネルギーの放出によって生じる。各々、発生の起源が異なり、一般的にX線の光子エネルギーはガンマ線より小さいが、物理的な作用は同じで、その結果、生物に対する作用にも本質的な違いは無い。

4) 蛍光分子

紫外線等のエネルギーを吸収した後(励起状態という)、そのエネルギーの一部を可視光線などの光として放出する(発光する)物質のことをいう。蛍光灯の管の内側に塗布している白い粉もその一種である。

5) 蛍光共鳴エネルギー移動

蛍光分子間のエネルギー移動現象で、英語ではFluorescence Resonance Energy Transferといい、頭文字をとってFRET(フレット)と呼ばれている。紫外線等で励起された蛍光分子Aの近傍(概ね10ナノメートル以内)に他の蛍光分子Bが存在する場合、Aがもつエネルギー(励起エネルギー)の一部がBに移動する(励起される)現象をいう。この現象が起こると、Aからの発光がなくなり、代わりにBからの発光が生じる。

6) イオン照射研究施設(TIARA)

原子力機構高崎量子応用研究所内に設置され、バイオ技術や材料科学などの先端的研究開発に最適なイオンビームを提供する世界でも唯一の研究施設。AVF型サイクロトロンなど4種類のイオン加速器を持ち、水素イオンなどの軽いイオンから金イオンのような非常に重いイオンまで幅広いエネルギー範囲で加速でき、DNAなどの生体分子や生きた細胞に対するイオン照射効果の研究をはじめ、世界に先駆けたイオンビーム育種技術の開発など様々な研究が行われている。


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