【用語解説】

1) 高温ガス炉

高温ガス炉は、①冷却材には化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、②燃料被覆材にセラミックスを用いているため、燃料が1600℃までの高温に耐え、核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、③出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に多量の黒鉛*等を用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと等の安全性に優れた原子炉である。また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造等の発電以外での利用等原子力の利用分野の拡大に役立つ原子炉である。
*:高純度で耐食性に優れた原子炉級黒鉛は、炭とは別の材料であって燃えにくい。

2) 高温工学試験研究炉(HTTR)

我が国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉(高温ガス炉)で、熱出力30 MWt、原子炉出口冷却材最高温度は950℃である。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30 MWt及び原子炉出口冷却材温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃、平成22年3月13日に950℃、50日間高温連続運転を達成した。

高温ガス炉は、固有の安全性によって、原子炉の安全運転に求められる自然に止める、冷やすことができる。燃料として、1600℃の高温までFPを完全に閉じ込めることが可能な耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いているため、通常時燃料温度と異常時燃料制限温度との間に比較的大きな温度余裕がある。これにより、冷却材流量が喪失し、さらに、原子炉がスクラム失敗したような場合でも、軽水炉とは異なり、ある程度の燃料温度の上昇が許容されるため、温度上昇に伴い負の温度係数により、炉心に負のフィードバック反応度が添加され、原子炉の出力は自然に低下し未臨界となる。その後、蓄積したキセノンが崩壊し原子炉は再び臨界になり、炉心の温度上昇による負の反応度とつり合った微小出力で安定する。さらに、熱容量の大きい黒鉛構造物の使用と、長尺形状及び低出力密度を採用した炉心設計により、事故時の崩壊熱による炉心の温度変化は緩慢であり、崩壊熱を、黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器外側からの熱放射、大気の自然対流によって原子炉圧力容器外へ除去することが可能である。

この優れた高温ガス炉の固有の安全性は、平成22年12月から国際共同試験としてHTTRを用いて実証試験中である(図1)。

3) GTHTR300C

GTHTR300Cは、HTTRの設計・建設・運転経験を踏まえた熱出力600 MWtのピンインブロック型高温ガス炉、ガスタービン及び水素製造設備を組み合わせた簡素で経済性に優れた水素電力併産システムである。原子炉から950℃の高温ヘリウムガスを取り出し、中間熱交換器を用いて850℃の高温の熱を水素製造設備の熱源として利用する。残りの熱はガスタービン発電に利用し、原子炉へは594℃で戻す設計となっている。本システムでは、熱化学法ISプロセスにより水素を毎時約24000 m3(燃料電池自動車 約17万台分)で製造しながら、200 MWeの発電を行う。
参考文献:K. Kunitomi, et al., “JAEA's VHTR for Hydrogen and Electricity Cogeneration; GTHTR300C”, Nucl. Eng. Des. Vol. 39, No. 1, (2007) pp.9-20

4) HTR50S

HTR50Sは、HTTRの設計・建設・運転経験及びGTHTR300Cの設計を踏まえた熱出力50 MWtのピンインブロック型高温ガス炉と蒸気タービンを組み合わせた発電及び蒸気供給を行う小型高温ガス炉システムである。原子炉から750℃のヘリウムガスが供給され、蒸気発生器を用いて538℃の熱を蒸気タービン発電で利用する。残りの熱は地域暖房用として利用し、原子炉へは325℃で戻す設計となっている。
参考文献:大橋 弘史、他、「小型高温ガス炉システムの概念設計,1; 基本仕様及び系統概念設計」、JAEA-Technology 2011-013 (2011).

図1 高温工学試験研究炉(HTTR)を用いて、高温ガス炉の固有の安全性を実証中

戻る