【研究開発の背景と目的】

福島県内では農業用のため池が約3,700か所あり、福島第一原発事故以来、放射性セシウムによる汚染状況が懸念されています。ため池は、上流の集水域に降った雨を集めるものであり、その水は農業用水として使われます。これまで、ため池底の土壌の放射性セシウムの濃度を測定するには、土壌をサンプリングし実験室で放射能を測定する手法が一般的でしたが、サンプルが廃棄物になってしまうこと、ため池全体の分布をみることは難しいことから、一度に幅広い範囲を直接測定する手法が求められていました。また、水中においてガンマ線は空気中よりも遮蔽されるため、測定するには検出器と線源の距離を密着させる必要があります。

原子力機構では、福島第一原発事故以来、プラスチックシンチレーションファイバ検出器の研究に取り組んでおり、放射性物質対策の前後の測定等に応用しています。今回、一度に長い距離の測定が可能であること、水中でも測定が可能なこと、測定対象物の形に応じて形が変えられることという特徴を生かし、ため池底の測定に応用することとしました。

【研究の手法】

p-Scannerの構成と測定原理について、図1に示します。p-Scannerの検出部には、コア(中芯部)に放射線を感じて発光するプラスチックシンチレータを使用した光ファイバーを採用しています。光ファイバーの両端には光センサー(光電子増倍管)を配置し、入射された放射線の数を数えます。また、両端の光センサーの発光を検知する時間差により検出部の発光位置(放射線の入射位置)を特定することができます。p-Scannerによる放射能の換算には、値付けをされたJ-subDという水中用ガンマ線スペクトロメータとの比較により行いました。放射能への換算の条件としては、ため池底の土壌の表層から深さ10cm内に放射性セシウムが均一に分布しているとみなして行いました。本手法による放射能への換算結果と水底の土壌コアを分析した結果を比較すると概ね一致し、本手法の信頼性が確認できました(図2)。本手法は、1,000 m2程度の大きさのため池を4日間程度 (1チーム5人として)で測定することができます。

図1 p-Scannerの構成と測定原理

図2 p-Scannerで計測したため池底の土壌中における放射性セシウムの濃度と土壌試料を採取しGe検出器で計測したため池底の土壌中における放射性セシウムの濃度の比較(比較点数 (n): 26サンプル; 散布図のプロットがy=2.0xからy=0.5xの中に概ね入っておりよい相関関係が認められる)

【適用試験の結果と今後の予定】

p-Scannerで測定した結果は、市販のGIS(地理情報システム)ソフトウエアで補間し、放射能分布マップとして表示しました。図3に測定例を示します。本場所においては、別事業でため池底の土壌の浚渫実証を行っており、浚渫前後の比較を行いました。その結果、浚渫範囲の放射性セシウム濃度が低下したことがわかりました。放射能分布マップで、浚渫範囲の変化を確認することができます。このような測定技術を用いると視覚的に放射能の分布をとらえることができ、放射性物質対策の計画や効果の確認に有用と考えられます。

本手法は、原子力機構が水土里ネット福島と技術指導契約を5月19日締結し、技術の民間移転を行っています。水土里ネット福島は、この技術による測定条件等を最適化する取組を進め、効果的な測定条件を確立しました。今後、福島県内のため池の放射性物質対策における本手法の利用について、必要な技術開発及びサポートを行っていく予定です。

図3 浚渫前後の測定例 (左:浚渫前、右:浚渫後):p-Scannerにより、5m間隔で測定したデータをもとに、市販のGIS(地理情報システム)ソフトウエアにより測定点間の数値を補間しマップ化した。


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