【用語説明】
- 1) 酸化物イオン伝導体(酸化物イオン伝導性材料)
- 外部電場を印加したとき酸化物イオンが伝導できる材料。酸化物イオン伝導性材料は①純酸化物イオン伝導体および②酸化物イオン-電子混合伝導体に分類できる。
- 2) NdBaInO4
- Nd, BaおよびIn陽イオンと酸化物イオンから成る酸化物。
- 3) 結晶構造
- 原子配列が正確な周期性を持つ物質が結晶である。結晶構造は結晶の原子配列である。結晶構造は空間群(原子配列の対称性)、単位胞パラメーター(単位胞の大きさと形)、原子座標(単位胞における原子の位置)などによって規定される。
- 4) 中性子回折
- 自由な中性子が結晶(厳密には結晶の原子核とスピン)によって散乱されるとき、中性子は波のように振る舞い、結晶により回折する。この現象を中性子回折と呼ぶ。中性子回折により結晶構造を決定できる。軽元素と重元素から成る化合物における酸素のような軽元素の原子位置を、中性子回折は正確に決定できる。 本研究では、日本原子力研究開発機構/KEKのJ-PARCに設置されている茨城県の回折計iMATERIA(装置担当責任者:茨城大学石垣徹教授)および豪州のANSTOに設置されている回折計Echidna(装置担当者:ANSTO M. Avdeev博士、ANSTO J. Hester博士)を用いた。
- 5) 放射光X線回折
- 放射光は極端に明るいX線源である。放射光X線が結晶(厳密には結晶の電子)によって散乱されるとき、放射光X線は波のように振る舞い、結晶により回折する。この現象を放射光X線回折と呼ぶ。放射光X線回折により結晶構造を決定できる。本研究では、SPring-8のビームラインBL-19B2に設置されている粉末回折装置とKEKの放射光科学研究施設のビームラインBL-4B2に設置されている多連装粉末回折装置(装置担当者:PF中尾裕則准教授、名古屋工業大学 井田隆教授)を用いた。BL-19B2での測定では高輝度光科学研究センター大坂恵一博士の協力を得た。
- 6) ペロブスカイト関連構造、ペロブスカイト型構造、ペロブスカイトユニット
- 理想的な立方ABO3ペロブスカイト型構造では、例えば、A陽イオンが立方の単位胞の角にあり、B陽イオンが単位胞の中心にあり、酸素陰イオンが単位胞の面心にある(図8)。ペロブスカイト型構造は化学組成(AとB陽イオンの組み合わせと酸素濃度)、温度、圧力および酸素分圧に依存して歪むことができる。つまり構成原子が理想的な位置からシフトすることができる。ある結晶構造において、その結晶構造の一部の原子配列が理想的、または歪んだペロブスカイト型構造であると見なせるならば、この部分をペロブスカイトユニットと呼ぶ。ペロブスカイトユニットを含む結晶構造をペロブスカイト関連構造と呼ぶ。
図8:理想的な立方ABO3 ペロブスカイト型構造。
- 7) 固相反応
- 二つの固相間の反応、または3個以上の固相間の反応.
- 8) アレニウスプロット
- 絶対温度の逆数に対する、イオン伝導度などの物理量の対数プロット。限られた温度範囲においてイオン伝導度のアレニウスプロットは直線になり、その傾きからイオンが移動する際のエネルギー障壁である活性化エネルギーが求まる。
- 9) 第一原理電子状態計算
- 経験パラメーターを用いずに量子力学・量子化学に基づいて物質における電子状態を計算すること。本研究では、密度汎関数理論に基づいた第一原理の電子状態計算によりNdBaInO4の結晶構造を最適化した。
- 10) 未知結晶構造解析
- 粉末回折データに基づいた未知結晶構造解析とは、関連化合物からの初期構造モデル無しに、粉末回折データから結晶構造を解析すること、結晶構造を解くことである。通常最初のステップとして指数付けが必要である。
- 11) P21/c
- 3次元の結晶は、その対称性により230種類の群(空間群)に分類される。P21/cは230種類の空間群のうち14番目のものである。
- 12) リートベルト精密化、リートベルト解析
- 粉末回折データから、結晶構造を精密化すること。初期構造モデルを用いて、観測強度と計算強度の一致具合が改善するように、格子定数や位置パラメーターのような結晶学パラメーターを変化(精密化)する。
- 13) 結合原子価の総和(Bond Valence Sum: BVS)、結合原子価法(Bond Valence Method: BVM)
- BVSは原子間距離と経験的な結合原子価パラメーター(bond valence parameters)から計算される。 BVSに基づいたBVM は酸化数を見積もる手法である。BVSが酸化数と一致すれば、結晶構造が正しいと判断できる。単位胞におけるBVSマップ(BVSの空間分布図)に基づいたBVMにより イオンの拡散経路を調べることができる。
本研究成果の発表論文:
雑誌名:Chemistry of Materials, 2014, 26 (8), pp 2488–2491
DOI: 10.1021/cm500776x 電子版は2014年3月21日出版
題目:New Perovskite-Related Structure Family of Oxide-Ion Conducting Materials NdBaInO4,
著者:Kotaro Fujii (藤井孝太郎 助教、東工大), Yuichi Esaki(江崎勇一 大学院生M2、東工大), Kazuki Omoto(尾本和樹 大学院生D3、東工大), Masatomo Yashima*(八島正知 教授、東工大), Akinori Hoshikawa(星川晃範 准教授、茨城大), Toru Ishigaki(石垣徹 教授、茨城大), James R. Hester(へスター ジェームス 博士 装置科学者、ANSTO) *は論文の問合せ先