独立行政法人日本原子力研究開発機構

平成26年4月18日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

DNA損傷が正常な染色体にも影響を与えることを発見(お知らせ)
−放射線の生体影響の解明に向けて−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 松浦祥次郎)先端基礎研究センター放射場生体分子科学研究グループの漆原あゆみ任期付研究員(現大阪府立大学大学院理学系研究科・客員研究員)と横谷明徳グループリーダーは、大阪府立大学(理事長・学長 奥野武俊)の児玉靖司教授と共同で、DNAが損傷を受けることで、細胞中の被ばくしていない正常な染色体にも異常が生じることを発見しました。

今回、漆原任期付研究員らは、ヒト染色体に紫外線(UV-A)を照射し染色体中のDNAを損傷させた後、これを照射していないマウスの細胞中へ移入し、さらにこの細胞を20日から1ヶ月程度分裂増殖させ、何世代にもわたり細胞分裂を繰り返すことのできるクローン細胞株を作製しました。 このクローン細胞内のヒト及びマウス染色体にどのような影響が現れるかを観察したところ、ヒト染色体のみならず照射されていないマウスの細胞に由来する染色体にも、高い頻度で異常が生じることを見出しました。

これまで、生物に対する照射影響では、直接損傷を受けたDNAが正常に機能できないことが主に考えられていましたが、細胞内では複雑なメカニズムを介して非照射染色体中のDNAにも影響が及ぶ可能性を示唆する結果と言えます。 今後の詳細な解析により、放射線によるDNA損傷が細胞分裂を経てどのように染色体の異常を誘発していくのか、その基礎的なメカニズムの理解と、さらには放射線による細胞のがん化の仕組みの解明に大きく貢献する可能性があります。

今回の発見は、遺伝子レベルでの照射影響のメカニズムに関する新しい知見の提供として、これまで主に疫学的な調査を基にした経験則から導き出されてきた放射線の防護基準と補い合いつつ、例えば、従来では明確な結論が得られていない長期低線量被ばくの影響をより正確に捉えることにもつながり、原子力科学の発展に寄与することも期待されます。

本研究成果は、生物学の専門雑誌『Mutation Research』誌の電子版に3月15日に掲載されました。 

参考部門・拠点:先端基礎研究センター

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