用語解説・注

*1 カラーセンター:

ダイヤモンドなどの結晶において、規則的な結晶格子中であるべき原子がない状態、不純物原子で置換された状態、格子位置にあるべき原子や不純物原子が格子間位置を占めた状態などを点欠陥といいます。この点欠陥は本来なら透明な結晶を着色させる要因になることがあるのでカラーセンター(色中心)と呼ばれます。

*2 NVセンター:

ダイヤモンドでは、炭素を置換した窒素(N)とその隣に原子空孔(V)が存在するカラーセンターをNVセンターと呼びます(図1参照)。NVセンターと光を組み合わせると、低温にしないとそろえられない向きにスピンの状態をそろえる(初期化という)ことが室温でできます。また、NVセンターに光を照射すると波長の異なる光が返ってきますが、その強度からスピンの状態を読み出すことが室温でできます。こうした性質から、量子コンピュータのプロセッサの一部となる量子レジスタへの有力な候補となっています。

*3 電子スピン、核スピン:

電子は右回りか左回りかに自転しており、上向きか下向きに磁場を発生して磁石のようにふるまう性質を電子スピンといいますが、磁場の中で2つのエネルギーの異なる状態をとります。電荷をもつ原子核が回転(スピン)すると磁場が発生し、磁石のようにふるまう性質を核スピンといいます。

*4 エンタングルメント(量子もつれ):

量子力学では、エンタングルメント状態にある2つの粒子において、一方の粒子の量子ビットが観測されて値が0か1に確定すると、もう一方の値もその瞬間に確定します。

*5 量子レジスタの土台となるダイヤモンド結晶を高品質化(同位体濃縮・高純度化)してエラーの発生そのものを減らす研究は、独立行政法人物質・材料研究機構のグループ(先端材料プロセスユニット・超高圧グループ谷口尚リーダー、光・電子材料ユニット寺地徳之主任研究員)が取り組みました。

*6 今回の研究における日本チームの主要な貢献:電子線照射によるNVセンターの作成

ダイヤモンドに電子線を照射し、熱処理をすることにより、不純物として含まれていた窒素からNVセンターを作ることができます(図2)。今回の実験では、特別な組成(12C 99.8%)の同位体濃縮であり、不純物窒素が炭素原子〜10億個に1個の割合程度しか含まれていない高純度の結晶を用いると同時に、13C核スピン2個がよい配置をもつNVセンターを探し出すために十分な数のNVセンターを作成することが求められました。窒素濃度の低い結晶では、電子線を過剰にあててしまうと、NVセンターの生成量が極端に減少する上に、元の状態に戻すこともできません。ピンポイントの照射条件の選択に、1990年代から続けてきた筑波大学とJAEAとの照射欠陥制御の共同研究の経験が活かされました。

日独共同研究では、様々の窒素濃度のダイヤモンド結晶に電子線を照射し、特性(コヒーレンス時間)を劣化させずに様々の濃度のNVセンターを作成する技術開発も行いました(JAEAグループは高温電子線照射容器を開発、筑波大学グループは0.1ppbまで定量できる窒素濃度の高感度測定法を開発)。

参考図

図1:ダイヤモンド中のNVセンターの構造とエネルギー準位

図2:ダイヤモンドの電子線照射・熱処理によるNVセンター作製

図3:ダイヤモンド中のNVセンターを用いた量子情報保持時間の長い核スピンと高速な量子操作・光による読み出しが可能な電子スピンを組み合わせたハイブリッド量子レジスタ

図4:長い量子情報保持時間をもつ核スピンと高速・正確な量子操作をする電子スピンを組み合わせたハイブリッド量子レジスタをユニットにした大規模化・量子情報ネットワーク化

掲載論文

題名

Quantum error correction in a solid-state hybrid spin register

「固体ハイブリッド量子レジスタを用いた量子エラー訂正」

著者

G. Waldherr1, Y. Wang1, S. Zaiser1, M. Jamali1, T. Schulte-Herbrüggen2, H. Abe3, T. Ohshima3, J. Isoya4, J. Du5, P. Neumann1, and J. Wrachtrup1

1 シュツットガルト大学(ドイツ)、 2 ミュンヘン工科大学(ドイツ)、3 日本原子力研究開発機構、4 筑波大学、5 中国科学技術大学

発行日

Nature


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